4.1. 公立・学校図書館に関わる子どもの情報行動

 本節では,公立図書館および学校図書館に関わる子どもの情報行動についての研究を,次の6つに分けて概観する。すなわち,1.利用者研究・調査,2.利用者教育と情報リテラシー教育,3.検索ツール・システム,4.図書館ホームページ,5.電子図書館,6.図書館担当者,である。

 なお,本研究では「子ども」の範囲を0歳から19歳までとしているが,ここでは,大学生の大学図書館利用に関するものは除外した。

4.1.1. 利用者研究・調査

(1)図書館利用研究と情報利用研究

 利用者研究は,1960,70年代に盛んに行われてきた領域で,厳密に言えば,利用者研究・調査(user study / survey)と利用研究・調査(use study / survey)に分けられる。

 田村俊作(2001)は「情報利用をめぐる研究」のなかで「図書館利用者調査」と「図書館利用調査」の概念を次のように整理している。「図書館利用者調査は,利用者や非利用者の意見・態度・行動に焦点をあわせた調査で,図書館利用調査は貸出しやレファレンス・サービスなどの図書館サービスの利用に焦点をあわせた調査のことを言うが,実際のところは両者がさほど厳密に区別されて使われているわけではない」1。したがって,田村の述べる「実際のところ」を考慮して,以下では両者を含めて,「利用者研究・調査」という語を用いることとする。

 また,利用者研究においては,一般に「図書館利用」と「情報利用」は区別して考えられている。「図書館」という枠を設定した図書館利用研究に対して,情報利用研究はさらに拡大した研究範囲をもつ。田村(2001)は, Wilsonの文献を紹介して情報利用研究の範囲を次のように記している。「情報探索行動,図書館情報サービスの利用,利用結果に対する満足・不満足,他の人々との情報交換,他の人々への情報伝達など,非常に広範に渡っている」2。情報利用研究は,とくに1974年にZurkowskiが「情報リテラシー」という概念を提唱して以来,顕著になってきた研究領域である。この情報利用研究については,「4.2.1.情報行動研究の流れ」で詳しく取り扱っているため,本節では「図書館利用」に関する利用者研究・調査を主に扱う。

 利用者研究の動向については,渡辺智山(1996)が,方法論という観点から,行動主義的観点と認知的観点に分けて考察している。1960年代から1970年代の利用者研究は「貸し出し記録であるとかレファレンスに於いてなされた質問の記録などを基盤にした研究,言い換えれば“利用量”を主眼においた研究」3で,行動主義的な見方による研究であった。1980年代初頭には「情報探索行動モデル」の構築に関する研究が出てくるが,1980年代半ばに,「情報の要求を分析するという流れと,図書館を含む研究環境および社会環境の“コンピュータ・機械”化という流れとが結び付き,利用者を“心的”観点から捉えようとするアプローチが台頭してきた」4と,渡辺は捉えている。

(2)学校図書館に関わる利用者研究・調査

 これまでの研究では,公立図書館や大学図書館における利用パターンや利用者満足度調査が実施され報告されてきた。これらは理論的研究というより実態調査がほとんどであり,しかも児童生徒を対象としたものは数少ない。

 児童生徒を対象としたものとしては,まず,古賀節子(1992a, 1992b)の調査がある。都立高校2校の1年生338名,私立高校2校の3年生366名を対象に,興味・関心の対象とそれに関した情報の入手経路及び学校図書館の利用状況との関わりを明らかにすることを目的に実施したアンケート調査である。興味・関心のある事柄についての情報の入手経路は,4校の男女とも(1)「本や雑誌を買う」(2) 「テレビ(ラジオ)を見る(聴く)」,(3) 「友人に聞く」の上位3位は共通であった。全体的に(1) と(2) で7割を占め,「図書館利用」は6.6%,「学校図書館の利用」は3.3%にすぎなかった。

 学校図書館をあまり利用しない理由として「読みたい資料がないから」と回答した生徒の興味・関心は,男女合わせると,(1) スポーツ,(2) 音楽,(3) 車・バイク・鉄道・飛行機,(4) 料理・手芸・ファション・インテリアの上位4位で全体の60%を占める。このような生徒たちにどのように対応し,「図書館本来の教授・学習機能を発揮できるようになるか」について,図書館として考えられる策を古賀は6項目挙げている。

 全国学校図書館協議会と毎日新聞社では毎年,読書調査を実施しているが,1995年の調査のなかに,「知りたいこと,疑問に思うことの解決法」という質問項目があった。小学生では「両親など家の人に聞く」(77.8%)が多く,高校生では「友人に聞く」(74.2%)が多い。中学生は「両親など家の人に聞く」(57.6%)と「友人に聞く」(54.6%)がほぼ同数であった。「学校図書館で調べる」(小5%,中1.7%,高2%),「公共図書館で調べる」(小6%,中3.6%,高2.1%),「本を買って調べる」(小3.3%,中4.5%,高5.5%)は少数であった。また,教科等の学習で図書館を使って調べている児童生徒は小78.0%,中54.0%,高33.7%とかなりの数字が見られたが,学校図書館で「調べることはほとんどない」という回答の理由の1位は「特に調べる必要を感じない」であり,学年が進むにつれてその傾向が強くなっていた(全国SLA調査部 1995)。

 桑田てるみ(2006)は,生徒の読書材選択行動と選択要因の特徴を調査した。選択要因として28項目を設定し,中学・高校の女子生徒1,000名を対象として質問紙調査と,行動観察およびインタビューを行った。面白い読書材を読みたいと思っても他人に尋ねずに自分で探す,ぶらぶらと展示を眺めながら読みたい読書材を決めている,読書量の多い生徒は本棚に直接行くことが多いなどの特徴が明らかになった。桑田は「学校図書館における読書案内方法が,面白い読書材を尋ねてくる生徒に応答する相談型の読書案内だけでは,多くの生徒の行動に対応できない。そこで,学校図書館は単に要求に答える場としてだけでなく,要求を明確にする場,あるいは要求を掘り起こす場として機能すべきである。同時に,図書館外での読書ニーズをどう掘り起こすのか,援助の方法を模索する必要もあろう」と述べている。

 学校図書館の利用について 教師を対象に調査したものもある。これは「子どもの情報行動」ではないが,学校図書館サービスにとっては教師も利用者であり教師の行動は直接・間接に子どもへ影響を与えるものであるから,ここに含めておきたい。

 安藤由美子(1991)は,教師が利用している記録情報(図書や雑誌などの記録された情報源)を12種類に分け,どのような記録情報が教育活動でどの程度利用されているかを,217名を対象に質問紙調査を行った(回答数92,回答率約42%)。その結果,教科指導においては,「特定の主題分野の知識を得るための雑誌や図書」の利用が最も高く,続いて「教科書の指導書」「教育実践に関する専門書」「研修や講座などでの配布資料」「一般の雑誌や新聞」の利用が多かった。安藤は,特別活動と生活活動における記録情報の利用についても統計を取り,記録情報の内容を「研究-実践」「背景的な知識-具体的アイデア」「教育-教育以外」という視点から分けてその利用程度を分析した。

 木村牧ほか(1994)は,箕面市の教師(小学校303名,中学校208名)と枚方市の教師(小学校83名,中学校54名)の学校図書館に関する意識や利用程度を,1993年に調査した。学校図書館の利用の仕方で小学校で最も多いのは,箕面市,枚方市ともに「自由読書」であり,次いで箕面市では「調べ学習」,枚方市では「読書指導」であった。中学校では.箕面市は「一斉利用なし」(40.4%)と「読書指導」(39.4%),枚方市では「調べ学習」(38.9%),「一斉利用なし」(31.5%)が多かった。教師自身の利用目的は,小中とも7割以上が「授業用の資料を探すため」である。利用の多かった資料は,教育専門の雑誌や新聞,教育の実践・事例集,絵や写真の載った一般図書,教科書の指導書,視聴覚資料であった。

 全国学校図書館協議会は,2006-7年度に文部科学省の新教育システム開発プログラム事業を受け,その一環として小学校35校505名の教員,中学校21校354名の教員を対象に学校図書館利用状況を調査している(全国学校図書館協議会 2007)。図書館を利用する教員が感じる学校図書館の問題点として,「必要な資料がない」「資料がみつけにくい」「児童・生徒が利用に慣れていない」「指導の支援者がいない」が上位に挙げられている。総合的な学習の時間に学校図書館を利用しない理由として,小学校教員では「教育内容から考えて利用する必要がない」と「利用できる学校図書館資料がない,または少ない」が比較的多い。また,中学校教員では「教育内容から考えて利用する必要がない」が最も多く,「利用できる学校図書館資料がない,または少ない」がそれに続くが,この2つの回答数の差は大きいという。

(3)公立図書館に関わる利用者研究・調査

 『年報子どもの図書館』(児童図書館研究会編)は子どもの図書館活動の動向を約5年ごとにまとめて刊行されるものである。この1992年版において,田中公夫(1994)は,子どもの読書離れ調査についてまとめている。児童図書館研究会が「児童の図書館利用減が人口減以上に進んでいるか」という問題意識をもとに1988年末に公立図書館の利用に関する調査を行った。その報告書(児童図書館研究会編 1989)には,「児童人口1人当たりの貸し出し冊数」「児童登録率の推移」「図書館統計を人口で割って比較すると」などが記載されているが,結論としては,「児童の図書館利用は人口以上に減っているとは一概には言えない」ということであった。

 同1992年版に,辰巳義幸(1994)は,公共図書館の子どもの利用状況についてまとめている。貸出登録者のうち児童の占める比率は,1981年に市区立図書館で49.5%,町村立図書館で51.0%であり,児童の登録率は全利用者の約半数であった。それが1990年には3分の1に減少しており,特に大都市やその周辺の都市の図書館にはこの傾向が強く見られたと指摘している。

 谷嶋正彦,久保田正啓(1995)は,1994年に近畿地方の2府4県の公立図書館245館に対して,学校からの図書館訪問(見学)状況をアンケート調査した(回答数189館,回答率77.1%)。1993年に学級を見学に招待したり図書館見学を受け入れたりした館は92.6%。受け入れたと回答した166館のうち小学校の受け入れが165館で,小学校3年生が圧倒的に多かった。図書館の対応方法としては(複数回答可)(1) 図書館利用の説明・案内(172館),(2) 実際に本を貸し出す(104館),(3) 図書館員の仕事の説明・体験(102館),(4) 紙芝居・読み聞かせ・ストーリーテリング(88館),(5) 実際に資料を探すなどの実習(23館)であった。実施後の図書館利用については(複数回答可),(1) 利用が増えた(123館),(2) 利用の仕方がうまくなった(49館)という。

 小川隆章(1997)は大学生312名を対象に,高校時代の図書館利用についてアンケート調査を行った。公立図書館よりも高校図書館の利用頻度が多いのは137名(43.9%),公立図書館のほうを多く利用したのは64名(20.5%),2つの図書館の利用頻度が似ているのは111名(35.6%)で,高校図書館は勉強場所として利用されたこと,授業に関連する本よりも他の本のほうが閲覧されることが多かったことが明らかになった。また,高校図書館を勉強場所として多く利用した者は公立図書館の利用も多い傾向があり,大学図書館でも多く勉強をする傾向を示したという。

4.1.2. 利用者教育と情報リテラシー教育

(1)利用者教育から情報リテラシー教育へ

 利用者教育(user education / instruction)は利用者研究と対となる概念といえる。利用者の探索行動や情報ニーズを把握してこそ,効率的・効果的な図書館の利用方法や情報・メディアの利用方法を伝え支援・指導することができるからである。

 『図書館情報学用語辞典 第3版』(日本図書館情報学会用語辞典編集委員会編 2007)には,「利用者教育」の項目はなく「図書館利用教育(library use education)」となっているが,それは「図書館の利用者および潜在的利用者の集団を対象に計画実施される,組織的な教育活動」と定義されている。その利用者教育の内容を,野末俊比古(2001a)は(1) 図書館オリエンテーション(library orientation),(2) 図書館利用指導(library instruction),(3) 文献利用指導(bibliographic instruction),(4) 情報管理教育(information management education)の4つに分類しており,「今日では,(4) を指して「情報リテラシー教育」と呼ぶ場合が多いと考えられる」5としている。

 情報リテラシーとは,「さまざまな種類の情報源の中から必要な情報にアクセスし,アクセスした情報を正しく評価し,活用する能力」(日本図書館情報学会用語辞典編集委員会編 2007)である。この同義語に「情報活用能力」という語がある。これは1986年の臨時教育審議会の「教育改革に関する第2次答申」のなかで,「情報活用能力(情報リテラシー・・・情報および情報手段を主体的に選択し活用していくための個人の基礎的な資質)」と明記されているので同義といえるが,欧米での「インフォメーションリテラシー」の概念とは若干,異なっている。この点については4.2.で詳述している。なお本節では,日本の文脈での概念の理解の仕方や欧米での概念の理解の仕方の違いなどに注意を払いつつも,便宜的に情報リテラシーという語を用いる。

 野末(2001a)は,図書館と情報リテラシーの関わりかたとして,2つを挙げている。「一つは,利用者が情報リテラシーを発揮する場としての役割を図書館が果たすことであろう。すなわち,利用者が情報リテラシーという知識と技術を使って情報を探索・利用するための環境を図書館が提供することであり,もう一つは,「図書館が情報リテラシーの育成機関,すなわち情報リテラシーを習得・向上する場としての役割を果たすことである。また学校図書館における情報リテラシー教育は,(1) 目標となる情報リテラシーの到達点・達成点を設定しやすい,(2) 対象者である児童・生徒の能力や経験などがある程度一律に想定できる,(3) 図書館員(司書教諭・学校司書)の教育的役割が期待され,また発揮しやすい,という条件を基盤に,利用者教育の目標を情報リテラシー教育の中に位置づけてゆくというかたちで展開されている」6と述べている。

 利用者教育は従来,図書館及び図書館資料に関する利用法の指導が中心であったが,今や学校図書館という枠を越えて,学校全体における情報リテラシー教育に関わることへと拡大してきた。利用者教育は,情報リテラシーという概念をもとに,再構築されてきているとも言える。

 なお,日本図書館情報学会による図書館情報学に関する文献データベース「BIBLIS」を用いて,ディスクリプタによる検索を行うと,「児童図書館 利用者教育」「児童図書館 利用教育」は共に0件,「学校図書館 利用者教育」15件,「学校図書館 利用教育」51件であり,この領域の研究は,主に学校図書館でなされていることがわかる。 

(2)レビュー文献

 海外の利用者教育や情報リテラシー教育に関する研究のレビューはこれまでになされてきたが,2001年以降の利用者教育に関する日本語文献をレビューした野末(2003)は,国内の研究を対象としたレビュー研究が登場したことに注目している。

 しかし,学校図書館における利用者教育や情報リテラシー教育に関する研究のレビューは少ない。まずは,野末(2001b)が,米国における利用者教育の動向について,大学・学校図書館における基準や指針をとりあげて概観しているものがある。

 そのほか安藤友張(2002)が,1999年から2001年のこの領域の研究をまとめているなかに,「学校図書館」の部分がある。そこでは,海外の研究を含めて9つの研究が紹介されている。

 増田和子(2003a)は,各国の情報リテラシー教育事情を紹介し,情報リテラシー研究の流れを押さえているが,とくに「日本の情報リテラシーに関する研究」のなかで「学校図書館と情報リテラシーの育成」や「初等教育における情報リテラシー育成の研究」をまとめている。

 なお,児童生徒を対象にしたものではないが,情報リテラシー全般に関わる研究を詳しくレビューしたものとして,Loertscher & Woolls(2002)によるInformation literacy: a review of the research: a guide for practitioners and researchers ( 2nd ed.) がある。これには258の研究がレビューされ6章にまとめられている。

(3)理論的・実証的研究

 わが国の学校図書館に関する理論的研究には,海外研究を基にしたものが多い。学校図書館界における利用教育から情報リテラシー教育への流れは,海外研究の紹介によってもたらされたといえる。

 まず福永智子(1993)が,米国における学校図書館を対象にした利用者教育研究の動向を,利用者教育の制度化と理論化という2つの面から整理した。利用者教育の制度化として,利用者教育と学校教育の関係を「関連なし」「関連」「統合」の3段階ととらえ,さらに理論化として,そのアプローチからやはり3段階としてとらえた。

 続いて福永(1994)は, Kuhlthauの情報探索プロセスモデルに関する研究を中心に,米国のこの領域の研究の理論化をはかった。Kuhlthau は,1980年代の米国の利用者教育研究の転換により出現した「第2世代[研究者]の中で・・・もっともまとまった研究業績をあげている研究者」7といわれ,情報探索プロセスモデルを,「感情」「思考」「行動」の面から分析したところに特徴がある。

 次に平久江祐司(1996)が,米国の教育界で関心の寄せられている批判的思考の意義を考察し,情報の評価スキルとして批判的思考が応用できること,批判的思考は学ぶ力の中核となる能力であること,わが国の学校図書館利用教育に批判的思考の概念を取り入れることが情報活用能力の育成に有効であることを示した。

 さらに平久江(1997)は,学校図書館利用教育モデルとして,Eisenbergの情報問題解決モデルをとりあげ,学校図書館利用教育の体系化と教科教育との統合化という視点から考察した。

 海外の研究を参考に,日本図書館協会では,『図書館利用教育ガイドライン学校図書館(高等学校)版』を1998年に発表した。これは,大学図書館版や公共図書館版等とともにまとめられて『図書館利用教育ガイドライン合冊版』(日本図書館協会図書館利用教育委員会編  2001)として2001年に出版された。これには,利用教育の目標と方法が,「印象づけ」「サービス案内」「情報探索法指導」「情報整理法指導」「情報表現法指導」の5領域に分けて表示されている。

 米国では,1920年を初めとして1925,1945,1960,1969, 1975, 1988, 1998年に学校図書館基準が発表されてきた。1975年以降の基準は,翻訳刊行されている(アメリカ・スクール・ライブラリアン協会, 教育コミュニケーション工学協会共編 1977, 1989, 2000)。1998年に発表されたInformation power : building partnerships for learning (邦訳は,アメリカ・スクール・ライブラリアン協会, 教育コミュニケーション工学協会共編 2000の『インフォメーション・パワー:学習のためのパートナーシップの構築』)に関して,岩崎れいほか(2002)が,1999年から2001年の学術雑誌に掲載された関連文献(英文)16件を分析して,このガイドラインがどのように評価・言及されているかを考察した。

 一方,須永和之(1999)は英国のモデルについて,「英国では,1970年代末から個別学習の重要性と学校図書館の利用教育が問い直され,80年代の初頭にかけて情報活用能力に関する研究報告書,研究論文が発表された」8とまとめている。須永は,英国,米国,豪州で発表された情報活用モデルをたどりながら,それらを統合してHerringが作成したPLUSモデルについて考察した。

 日本図書館学会の『論集・図書館学研究の歩み』第14集(1994)は,利用者教育がテーマであった。このなかで渡辺信一(1994)は,学校図書館界では「利用指導」と呼ばれてきたこの語の定義や意義を述べ,問題提起をしている。

 日本図書館情報学会(旧日本図書館学会)の新シリーズ「シリーズ・図書館情報学のフロンティア」No.5は『学校図書館メディアセンター論の構築に向けて』という題名で2005年に刊行され,学校図書館が取り上げられた。そのなかで須永(2005)は,情報活用教育の基底にある教育の問題を明らかにし,情報活用教育の3つの局面に共通する問題点を指摘している。同書において野末(2005)は,情報リテラシーの概念や,種々のリテラシーとの関連を押さえ,情報リテラシー教育と学校図書館との関わりを理論的に検討した。

 その他には,照井恒衛(2000)の研究がある。照井は,学校図書館教育の内容として7項目挙げたが,そのひとつが情報リテラシーであり,その情報リテラシーの構成要素のひとつとしてメディア・リテラシーを捉えた。そしてメディア・リテラシーの教育プログラムの試案(高等学校版)を提示した。

 平久江(2001)は,図書館利用教育において情報の評価能力を育成することが必要であり,そのためのプログラムに求められる条件として,次の3点を示した。すなわち(1) 教科学習や調査研究等における問題解決のための情報行動を支援すること,(2) 情報探索の一般的なモデルを通して情報探索戦略のプロセスを習得させること,(3) 情報の評価のためのスキルを習得させることである。

 有吉末充(2002)は,学校図書館で情報メディア教育を行うメリットは,図書館自体をひとつの教材として活用できることだという。図書館を利用した情報メディア教育では,(1) 異なる意見を比較することができる,(2) 時間をさかのぼって情報の比較ができる,(3) メディア間での情報の比較ができる,(4) マスメディア以外の情報源を利用できるとし,情報の評価・分析法の指導の方法として,(1) 授業のなかで比較・分析法を指導する,(2) 日常的な指導のなかに比較・分析を意識的に取り入れる,(3) 生徒の独習用の教材を図書館で用意・提供する,ことを提案している。

 実証的研究としては,小田光宏ほか(2000)の研究がある。(1) 「調べ学習」の学習課題設定にマルチメディアを利用した教育方法の有効性を検証すること,(2) 一貫教育における学習履歴情報を活用した教育方法の有効性を検証すること,を目的に学習教材開発を行い,青山学院初等部4年生を対象に,実証実験を行った。

 また,原勝子(2004)は,『学校図書館利用教育に関する実証的研究』として,自身の6本の論文を1冊の本にまとめている。第1部「学校図書館の利用教育に関する日・米・加・事情の一考察」として,「インフォメーション・スキル教育の定着過程」「小学生への図書館利用教育に関する日加教師の意識比較調査」「学校図書館の実態調査から見た司書教諭講習養成カリキュラムの一考察」を掲載し,第2部「授業方法の違いによる能力開発差の一考察」として,トロント大学大学院オンタリオ教育研究所で研究中(1991~1996)に発表した3本の論文を掲載している。

(4)実践報告・事例紹介

 実践報告や事例紹介は,『学校図書館』や『情報の科学と技術』などの雑誌に多く発表されており,ここで紹介するのはほんの一部である。

(1) 学校図書館の利用者教育

 ある特定の学校図書館の利用者教育の全体像を把握できるのが,高橋元夫(1994)と青山比呂乃(2005)の事例である。

 高橋は,慶應義塾幼稚舎(小学校)の学校図書館が実施している教員向けと児童向けの利用者教育(「案内・指導」として実施)の内容・方式・展開について述べ,評価と改善に関する考察をしている。

 青山は,専任司書教諭としての実践を紹介している。勤務校の千里国際学園は帰国生徒・在日外国人生徒・一般生徒が同じ建物のなかに共存し,諸教育活動を共に行っている。青山は,情報リテラシー教育と司書教諭としての学習支援サービスとの関係を,教科教員とのコミュニケーション,コレクション評価・構築へのフィードバック,蔵書データベースとしての目録構築,情報・資料検索の実際と指導のポイント,検索語(件名など)の概念把握,の5つの面から述べている。

 『学校図書館』599号(2000)では,「件名目録の作成と利用」の特集を組んでいる。そのなかで,白井文子(2000)は,慶應義塾幼稚舎児童図書室による5年生への件名目録検索の指導について報告している。件名目録検索の指導は,(1) 調べたい事柄の概念を国語辞典や百科事典で大まかにつかんでおく,(2) 検索できない標目はその上位概念をわかるようにする,(3) 時の話題については自分なりに件名標目を考える,ことを児童に理解させることが必要である。5年生の「図書館探検」という実習で,延べ127題の質問に挑戦した結果,調べるために用いられた資料は,目録71件(うち件名目録は45件),分類表38件,資料5件,その他16件であった。

 小高さほみ・平井雅子(2000)は,図書館オリエンテーションに家庭科を融合させて,5つのステップで件名検索を指導した。件名標目は,教育課程の変更や授業の新しい試みにより概念の大小を調整したり(例:環境→環境汚染,環境政策など),新しい語を増やしたり(例:遺伝子組み換え)する必要があり,また,語の変更があったりするので(例:成人病→生活習慣病)適切な見直しが大切であると述べている。

 検索コンテストについて報告しているのは品田健(2001)である。中学・高校において,(1) 図書検索の技術向上,(2) インターネット検索の技術向上,(3) 情報の正確さの比較検討の経験,(4) グループでの共同学習経験,を目的としたもので,3人1組で問題を解く。予選でクラス代表を選出し,決勝では国語・英語・科学情報・社会・保健スポーツ・生活一般の各ジャンルから5問ずつ計30問が出題されるというものである。

 清水理恵(1998)は,教職員向けのオリエンテーションについて述べている。教職員から声があがり,図書館や司書の役割に関する校内研修会を実施した。1年目はテーマの本を集めてほしいという依頼が最も多かったが,具体的選択は司書任せで,依頼する時には「仕事があるのにごめんなさい」,他機関から取り寄せた時には「そこまでしてくれなくてもよかったのに」という声が聞かれた。2年目には,近隣の学校では同一教科書を使用しており,必要な資料の利用時期が重なってしまうため,資料の利用時期を他校とずらしたり,司書と一緒になって資料を選択するようになるなど,教師の変化が見られたという。

 吉本智津子(2005)は高校図書館におけるパスファインダーについて紹介している。パスファインダーとは特定のトピックに関連する資料の探し方をまとめたリーフレットのことである。その内容は,「手がかりとなるキーワード」「入門的な情報源・テーマの理解」「図書:清田高校の図書館から」「新聞記事」「雑誌・パンフレット」「インターネット」の項目で構成されている。

(2) 教科学習と学校図書館

 村上浩子(2002)は,小学校全体で情報リテラシー教育に取り組んだ事例を報告している。学校図書館教育部と情報教育部が連携をとって,「学校図書館の情報・資料を活用した学習計画」を,情報教育部のコンピュータ活用の指導計画を含めて作成し,さらに「学校図書館を利用した授業の年間計画」を作成して実施した。

 総合的な学習と学校図書館の関わりについての実践報告も多い。例えば,佐藤幸江(2002)は,小学校6年生の実践を報告している。「20年後の大口の町づくり:入江川に自然を」というテーマで,「テーマ設定→川の調査方法を決める→入江川を調査したり調べる学習をしたりして問題点を明らかにする→インターネットで交流している清川村立宮ヶ瀬小学校と川についての情報交換を行う→川遊び探検をする→問題点を解決する方法をさぐる→ホームページで多くの人に発信していく」という見通しをもち活動した。

 また佐藤正代(2003)は,全日制普通科高校の実践を報告している。1,2年生の総合的な学習の時間にレポート発表を行うための利用指導をもとに,今後は具体的な指導案を準備して自習時間を活用する方法と,来年度(当時)から始まる教科「情報」と連携する2つの方法が考えられる。「情報」に対する学校図書館の優位性は,経験的にみて4点(概念を展開し整理していく図書館学の知識・技術の蓄積,著作権の知識,図書の特性,利用指導についての研究・実践の蓄積)が考えられるとしている。

 総合的な学習と図書館の連携のほか,特定の教科と学校図書館との連携についても,多くの事例がある。例えば,作田澄子(2000)は高校の保健科の課題学習と学校図書館活動について,佐久間朋子(2000)は中学の数学科と学校図書館との連携について報告している。

 海外の事例報告や紹介も『学校図書館』や『あうる』などの雑誌に多く発表されている。例えば,関口礼子の「カナダのリソースベース学習:アルバータ州の指導要領を読む」(関口 2006a)や「ペアレンティングによる図書館利用・読書指導(海外レポート)」(関口 2006b)などがある。これらは,わが国の実践や研究にさまざまな手がかりやヒントを与えてくれる。

(3) インターネットを活用した学習活動

 インターネットを活用した授業は,「100校プロジェクト」や「こねっとプラン」などで実践されてきており,教育工学などの分野での発表が多い。ここでは,特に学校図書館との関連を強調しているのではないが,図書館情報学関連誌に掲載された研究をとりあげる。

 苅宿俊文(1999)は,学校図書館の情報化に向けた試みのひとつとして,ネットワーク機能を最大限に生かした読後感を共有できる「インターネット対応の再構成型データベース系ソフトウェア」の構想を述べている。このソフトウェアは,今後増加が予想されるデジタル化された児童書を使用することが前提となっており,子どもたちは,自分が読んだところで気に入ったところをマークしたり,印象度カードを俯瞰的に並べたり,「読みの短冊」を構造化したりして,自己の「読み」を深め,「読み」を構造化したものをホームページにしたり,「読み」の違いについて意見を交換したりしながら「読み」の構造を有機的に共有することができる。

 苅宿(2000)はまた,子どもが必要なページを見つける時間を短縮するために,ホームページカスタマイズサービスを始めた。そのひとつであるアイデアノートは,読売新聞社と協力して始めたもので,その構成は,「(1) 目次,(2) 新聞記事,(3) ホームページひとっとび,(4) 新聞ほんやくロボ,(5) プロにきけ,(6) 博士にちょうせん,(7) 特派員新聞」となっている。

 増田(2003b,2003c)は,実際の川崎市長選を素材に,小学校での模擬投票を実施し,その考察・分析を行った。この学習では,学習者が模擬投票する手段(インターネット,郵送,FAX)が用意され,子どもが情報収集するためのポータルサイトが作成され,候補者に会う機会が用意された。情報収集の方法は,各候補者のホームページを読む,検索エンジン・選挙広報・市政だより・新聞記事などを活用する,候補者ヘメールで質問することなどであった。授業後のアンケートによると,児童の情報媒体には偏りがなくまんべんなく情報源が用いられており,インターネット上の即時性の高い情報をうまく使うことで,躍動感のある学習が可能になったという。

 大貫和則ほか(2006)は,高校の情報科 における情報モラル育成の授業設計を行った。

 チャットを用いた生徒自身のなりすまし体験(受信者として相手を推測する体験と,送信者として他者を演じる体験)を重視した授業と,教師による事例紹介を中心とした授業を別々のクラスに実施し,生徒が記述した内省文から,授業方法による匿名性についての気づきや違いを検討した。

4.1.3. 検索ツール・システム

 子どもの情報要求の特性を考慮して,それに対応するための組織化や検索システムの開発がなされてきたが,それらのツールやシステムは,当初は子どもに対応する図書館員が用いるためのものであった。近年では,IT及びインターネットの普及により,子どもたち自身が利用するツールやシステムの開発へと変化してきた。

(1)組織化

 矢野光恵(2006)は,幼稚園の絵本の分類について考察している。幼児向け絵本は主題を特定するのが難しい。日本十進分類法(NDC)のように細分化するよりは包括的な分類にとどめておくほうが絵本には向いていると考え,ある私立大学附属幼稚園の絵本を対象に予備調査をし,その課題を明確にして,実際に7つの大分類,そのもとでの中分類,小分類の分類表を作成した。

 新井栄子(1990,1994)は,読書相談に対する図書館側のツールが何もないことから,市立図書館のコンピュータシステムのバージョンアップを契機に「児童図書の件名目録」を作成した。見計い選定時に主人公と主題を抽出し,書誌データに加える。「『件名検索』の意義は,本の内容を検索できることであり,書名中のキーワード検索とは意味が違う」9。しかし,科学絵本や動物記などは各分野に分類・配架するので件名検索の対象とならないこと,児童書を選定する側の価値観や感情に左右されやすいことを問題として挙げている。

 横山敦子(2000)は,小学校の実践を報告している。図書館管理ソフト(株式会社トーハンの「探検隊」)を導入した際に,そこに用意されている50の件名のほかに,目次や内容から子どもたちが検索しそうな語を追加した。子どもたちは,書名検索では1冊しか見つからなかったものも,件名検索では何冊も本があることを理解した。

 芳賀カズ子(2000)は,高等学校図書館の件名付与について報告している。件名を決定するためのルールとして,(1) 利用度や蔵書の性格を考慮する,(2) 教科書の目次・索引を参考にする,(3) 適切な標目がない場合は同義語か類語を探したり追加件名を設定する,(4) 件名分析(分出)をする,(5) 固有名詞,人名,地名は常用表現とする,(6) 地域性が主体のものは国名・地名のもとに主題区分する,など10項目を挙げている。

 鈴木史穂(2003)は,オンライン情報をNDCを用いて分類することを試みた。オンライン情報のリンク集をNDC分類で作成し,子ども用相関索引データベースを提供することができれば,子どもたちをオンライン情報にナビゲートすることに加え,NDCで分類された図書館の本,新聞,雑誌,CD-ROMなどのパッケージ型情報にも複合的にナビゲートすることができる。子どもが通常使う言葉によるシソーラスを構築できれば,子どもが入力したキーワードから,統制語に導くことも可能である。オンライン情報をNDC分類するにあたっては,画像の分類,音声の分類,地理区分,コンテンツのリライト,オンライン情報の組織化・保存,の問題が明らかになった。

 また,金沢みどりほか(2002)は,学校図書館ホームページのOPACについて,教育上望ましいウェブ版OPACのあり方を検討し,「フレッド(FRED)」という評価基準を考案した。すなわち,(1) 検索システムの機能の柔軟性(Flexibility),(2) 検索システムから利用者 への応答(Response),(3) OPACの検索法についての説明(Explanation),(4) 検索システムの機能の多様性(Diversity),の4つの評価基準である。この基準によって,全米50州の学校図書館1,517校のホームページを調査して,ホームページにOPACが掲載されている229校のうち,自由にアクセスできた125校のものに関して調査し,傾向を調べた。

(2)児童図書検索システム

 田中芳彦ほか(1986)の図書館情報大学(現・筑波大学)の研究チームは,公共図書館における新しい読書相談サービスの構想に,専門家の持つ柔軟で効率的な問題処理能力をコンピュータ上で実現することを目指す,エキスパートシステムの手法を取り入れた。読書相談に必要な知識として,読書能力(読みのレディネス,読字力,語彙力,文法力,読解力),読書興味(子守歌期,昔話期,寓話期,童話期,物語期,伝記期),読書分野(赤ちゃん絵本,物語絵本,知識の絵本など18分野)の知識を整理し形式化した。この児童図書館読書相談エキスパートシステムは実際にシステムとして構築されたが,これには視聴覚形態の情報を処理する機能はなかった。幼児を対象にした場合,絵や音楽を適切に交えたインタビューによって子どもから必要な情報を聞き出すことが必要であり,この観点から,今後このシステムの再構築を進めるとした。

 この研究チームは,メンバーが入れ替わりながら,10年余りにわたって児童図書の選択システムの構築を追求している。田畑孝一ほか(1987a)は,読書相談のために児童図書を物語の内容に即して分類することを試みた。選択書誌を利用して,児童図書を11の要因(主題,印象,国,舞台,地名,時代,時期・季節,主人公など)によって分析した。特に主題と印象の要因は分析者の主観に左右される可能性があるが,この2要因について評価を行った結果,この方法の合理性が認められたとしている。

 続いて,田畑孝一ほか(1987b)は,児童の発達課題からみた児童図書の評価を行い,それをもとに,田畑孝一ほか(1996)は,親の立場で子どもに望むいくつか特定の発達課題の育成に役立つ児童図書を選定するためのシステムを開発した。

 また,杉本重雄ほか(1992)は,4~6歳程度の子どもたちに絵本を紹介するシステムを開発した。絵や写真などの子どもに理解できるイメージを対話に利用する方法で,物語背景選択→登場人物選択→絵本提示という手順をとる。また,小学校高学年向きには,主題選択→背景選択→登場人物選択→物語の提示,というシステムを開発した。子どもを対象とするシステムでは,イメージを利用した柔らかな対話環境が必要であり,誤操作が多いなど成人向けシステム以上に厳しい利用条件がある。この研究の延長上に,阪口哲男ほか(1996)は,インターネット上での児童図書選択を支援するシステムを構築した。このシステムは,2つの選択過程がある。画像や音声により提示された物語の背景や登場人物を選ぶことをとおして子どもの読書興味を引き出して図書を選択する過程と,親の立場で子どもの発達課題の育成に役立つ図書を選択する過程である。

 以上の研究チームのほか,久松勉(1994)は,探している本を検索するのではなく,本を楽しみながら探せるためのプログラムを,アップル社のハイパーカードを利用して試作した。データは,「作品名,著者名(訳者名),発行所名,表紙の画像,主人公の挿絵の画像,書き出しの文(文と朗読),主人公の紹介(文と朗読),同じ作者の書いた本の題名,関連した画像」で,視覚と聴覚に訴えるものが見られる。この製作には,子どもたち6人が参加した。「学校の図書室が情報の発信地であるためには,子どもたちもその発信源になる必要がある」と久松は述べている。

 伊藤路子ほか(1999)は,幼児の興味関心に基づいて絵本を選択,紹介する質問応答システムを作成し評価実験を行った。絵本に関する知識データとして,登場人物,場所,背景,出来事,印象に関する単語を登録し,4つの質問(すきなものはなあに?,だれとあそんでみたいかな?,どんなところへいってみたいかな?,なんでもできるとしたらなにをしてみたいかな?)のうち1つを幼児に選んでもらう。評価実験の19の対話場面のうち絵本紹介に至ったのは5対話場面であった。これは,辞書登録語数が不十分であるためであった。

(3)感性語による検索システム

 英国のwhichbook.net(http://www.whichbook.net/)は,図書の内容から感じる感情や雰囲気など幅広い観点から検索できるサイトである。「happy-sad」「funny-serious」「safe-disturbing」などの12の対語が検索項目として用意され,例えば,とてもhappyな話を探したいのか,ややsadな話を探したいのかなど2つの語の間の段階(11段階)を矢印を移動させることで示すことができる。また12の対語を組み合わせて検索することもできる。このwhichbook.netに啓発されたとみられる研究として,近年では下記のような論考が発表されている。

 田辺久之・加藤安英(2004)は,「こんな感じの本を読みたい」「こんな気分を含んだ本はないか」という高校生の要求に応えるためのツールを開発した。高校生800名を対象に(1) 「どんな気分のときにどんな本を読みたいか」を調査し,(2) 抽出した生徒に読んだことのある本についてキーワード化してもらい,データベース化した。

 桑田(2004)は,whichbook.netの仕組みを日本の学校図書館で読書案内に利用する意義を認めているが,そのまま使えるわけではなく以下のような修正する必要があるとしている。(1) 本の雰囲気や感情を示す項目の追加。例えば「元気が出る」「恐い」「驚く」など,(2) 読みやすさや話の展開のテンポなど,(3) テーマやジャンル,(4) 対象年齢,読解力などの生徒に関する特性,(5) 教科学習との関係を示す項目。

 原田隆史(2005)は,児童書及びヤングアダルト(YA)図書の書評中で使用された図書の印象を表す語(感性キーワード)に基づいて図書を自動分類する実験を行った。まず『ヤングアダルト図書総目録』とアマゾンに収録されている児童・YA図書の22,765冊のうち,書評が作成されている図書6,724冊を抽出し,それに対して,人間の印象を表す15項目の概念について人手で付与されたデータをもとに図書を分類する。次に,書評中から形容詞を抽出して感性キーワードを人により決定する。さらに,感性キーワードが図書の分類にどのように影響するかを主成分分析によって明確にし,分類のためのルールを作成する。最後に,書評中から抽出された感性キーワードを用いて図書の自動分類実験を行い,この手法の有効性を実証した。

 桑田てるみほか(2006)は,わが国には,図書の雰囲気,印象,読後感などの感性を元に検索できる,読書指導で利用可能な実用レベルのシステムはまだないとして,whichbook.netを分析し,日本に適した感性語項目を作成することをめざした。アマゾンとビーケーワンで公開されている書評を利用して,11,423冊の児童書・YA図書を対象に,感性語項目8項目と入力用15項目の感性語を用いて検索できるシステムを構築した。彼らは,この図書初期データを,学校図書館担当者が確認し修正を加えていくことで質の向上を図ろうとしている。

4.1.4. 図書館ホームページ

(1)ホームページの作成 

 村上(2003)は,小学校における学習に役立つホームページのリンク集作成の実践報告をしている。まず,各学年の年間指導計画に照らし合わせて学習に活用できるホームページを選択し,次に学校のホームページにリンク集を作成し,そして「学校図書館を活用した授業の年間計画」にホームページ名を書き加え,これを利用して授業を行った。授業後のアンケートでは,96%の児童がホームページを使って学習してよくわかったと回答した。

 『学校図書館』654号(2005)では,「ホームページの作成と活用」が特集されている。設楽敬一(2005)は「学校図書館ホームページの作成と管理運営の留意点」として,学習に役立ち情報通信技術を育むためのホームページについて,その作成と指導,リンク集の整備と活用についてまとめている。小林透海(2005)は「学習に役立つリンク集の作成」のなかで,その意義を(1) 検索に要する時間を短縮できる,(2) 児童が家庭学習で利用できる。(3) 個々のパソコンに設定する必要がない,を挙げている。
(2)ホームページの評価

 丸山有紀子・金沢みどり(2006)は,わが国の公共図書館701館のホームページを調査してホームページのユーザビリティの現状と問題点を明らかにした。児童対象のホームページを持っている館は701館のうち123館(17.5%)。児童サービスに関しては,(1) 児童にふさわしい図書館資料に関する記述,(2) 児童を対象としたスペース・担当者,(3) 児童を対象としたサービスに関する記述,(4) 児童を対象としたプログラムに関する記述が掲載されており,実態よりは記載率はかなり低かった。評価項目として,(1) 視覚的な読みやすさに関する項目,(2) 子どもの発達段階に配慮した読みやすさに関する項目,(3) 記載内容に関する項目,(4) ナビゲーションに関する項目,を設定した。

 金沢みどりほか(2001)は,学校図書館ホームページとしてどのようなコンテンツが必須であるかという観点から,シーライ・コンテンツ・モデルを考案した。学校図書館ホームページが備えるべき機能は,(1) 広報機能,(2) レファレンス機能,(3) 教育支援機能,(4) 研究支援機能,(5) 統合機能である。これらの機能を実現するために,ホームページのコンテンツとして,コア・コンテンツ,インフォメーション・ツール・コンテンツ,レファレンス・ツール・コンテンツ,リサーチ・ツール・コンテンツ,インストラクショナル・ツール・コンテンツが必要であり,これらの頭文字をとってシーライ・コンテンツ・モデル(CIRRI Contents Model)と名づけた。このシーライ・コンテンツ・モデルに基づいて米国50州の1,150校の2割にあたる230校の学校図書館ホームページの現状を調査した結果,シーライ・コンテンツ・モデル型(33.5%),外部情報源重視型(18.7%),広報活動重視型(11.3%),学習支援重視型(7.0%),自立的利用者育成型(6.1%)に分類することができたという。

4.1.5. 電子図書館

 電子図書館については,国際子ども図書館と,海外の図書館に関する文献がある。

(1)国際子ども図書館

 国際子ども図書館に関する文献は,いずれも国立国会図書館の関係者によるものである。

 まず,田中久徳(1997)が,電子図書館機能をめぐる議論に焦点を合わせて国際子ども図書館構想について述べている。1995年に提出された『児童書の図書館(仮称)の電子図書館化に関する調査報告書』には,電子図書館機能として,(1) 書誌データベースの構築や資料の電子化等の基盤整備,(2) 研究者・一般利用者のための知的作業環境の支援,(3) マルチメディア検索システムや映像システムの整備によるこども文化育成環境の構築,の3つが基本機能として提案され,電子図書館プロジェクトとして,児童書書誌データベースの整備など4項目が示された。

 亀田邦子(1998)は,国立国会図書館が1996年に策定した「国際子ども図書館計画」の概要と,この図書館の重要課題である電子図書館化への取り組みについて紹介した。電子図書館化の目標は,(1) 書誌・所在情報の整備や情報資源のデジタル化等ネットワーク環境における情報提供機能の強化,(2) 子どもの文化特性を考慮したマルチメディア情報サービス,(3) 情報流通の国際化や関係諸機関との双方向の協力関係の基盤となるネットワーク整備等,である。電子図書館システム開発のパイロットプロジェクトとして,(1) 児童書の電子図書館基盤システムの構築,(2) インターネット対応児童書多言語提供システムの開発,(3) 児童書検索システムの開発が挙げられている。

 阿蘓品治夫(1998)は,国際子ども図書館の電子図書館サービス実施のために,デジタル化及びインターネット提供するために行った著作権処理作業について報告している。国立国会図書館の13万冊以上の児童図書のうち,1955年以前の約9,500冊について,文章,挿絵,装丁などの著作物に関連する6,000名余の著作者に利用許諾を求め,最終的に約9,000件の著作物が可能になった。

(2)海外の子ども向け電子図書館

 『カレントアウェアネス』235号(1999)には,「子どもと読書,図書館,情報社会」が特集されていた。そのなかで,原田圭子(1999)は,米国議会図書館による電子図書館プロジェクト「アメリカン・メモリー」を紹介している。アメリカン・メモリーには「学習のためのページ」が用意されているが,そのなかには,コンテンツを教育現場で生かして使っていくための指導案が示されているコーナーがある。そのコーナーを作成するのはアメリカン・メモリー・フェローと呼ばれる教師・司書・メディアスペシャリストなどの集団で,毎年公募される。

 『カレントアウェアネス』同号のなかで,田中久徳(1999)は,EU欧州委員会のCHILIAS(Children in Libraries-Information-Animation-Skills) プロジェクトを紹介している。このプロジェクトは,情報社会の変化のなかで,9~12歳の児童を主対象とした新しい形態の図書館サービスのモデルを創出することを目的に,1996年8月から1998年9月に,「分析」→「プロトタイプ開発」→「評価検証」の3段階で進められた。子どもたちは,希望するトピックのマルチメディア情報の利用,関連サイトへのリンクや地域の図書館への案内サービスを受けることが出来る。そのほか,ウェブ上でお話を作り発表したり,「遊びながらアルファベットやデューイ十進分類法,質問式や情報の識別能力などの情報検索能力を学ぶことができる」。

 酒井貴美子(2006)は,ICDL(子どもの本の国際電子図書館)の活動について述べている。ICDLは,米国メリーランド大学のHuman-computer Interaction Laboratoryが非営利団体Internet Archivesとともに立ち上げたプロジェクトで,2002年に開設された。100の文化から100冊ずつ本を集めることを目標にし,2006年4月現在,35言語928冊が所蔵されている。ICDLの蔵書とインターネットを使って,異文化の子どもたちの交流を進める「ICDLコミュニティ」構想では,本を読んだ子どもが自ら話を作ったりするのに役立つ“storymaker”,読んだ本の感想を語り合う“communication area”が用意されている。

 これらの海外の電子図書館の事例紹介は,今後のわが国の図書館サービスへ,大きなヒントを提供してくれるであろう。

4.1.6. 図書館担当者

 ここでは,図書館担当者の養成と必要な知識・技術などに関する研究を扱う。

 平久江祐司ほか(2004)は,つくば市の16の児童館の図書室の活動と職員の意識を調査した。14館51名の回答を集計した結果,「(1) 多くの児童館において,図書等の原簿を作成するなど物品としての管理は行われているが,選書や相互貸借などの運営面においては消極的な意識が見られること,(2) 読書活動やその支援の重要性は認識しているが,外部支援者に依存する傾向や職務の範囲外と認識していること」10が明らかになった。

 図書館担当者の養成について,公立図書館児童サービス担当者の養成に関しては,いくつか文献が見られるが,特に「子どもとIT」との関連で論述したものは見当たらない。

 学校図書館担当者については,その養成科目について本間ますみ(1999)の考察,提案がある。本間は,政府の懇談会や調査協力者会議の提言・報告に触れ,司書教諭の専門科目を提案しているが,そのなかには「情報技術・利用教育」「情報教育法」という科目が挙げられている。斉藤浩一・石崎忠純(2004)も,司書養成のためのメディア教育の在り方を提言している。

 日本図書館情報学会では,創立50周年を記念してLIPERプロジェクトを2003年から2005年にかけて展開した。これは,情報専門職の養成に向けた図書館情報学教育体制の再構築に関する総合的研究で,図書館情報学教育班,大学図書館班,公共図書館班,学校図書館班に分かれて,改革案を提案したものである。学校図書館班では,「学校内情報メディア専門家」(仮称)の可能性を探るために,研究者へのヒアリングや学校図書館担当者へのアンケート調査を行い,とくに,「学校教育論」「学習情報メディア論」「学習環境デザイン論」「教授・学習支援論」「子ども読書論」の5領域の知識や技術が必要であるとした(上田2006)。

 中村百合子,芳鐘冬樹(2002)は,インターネットは学校図書館においてレファレンスサービスの可能性を広げるツールとなりうるものであるとして,ページ検索に関する説明を行った上で,生徒へのインターネット検索の指導について,指導の意義と指導の焦点についてまとめている。指導の焦点となるものは,情報検索の「本質」を理解した上でその「思考法」を理解することであるという。

 桑田(2003)は,学校図書館関係者22名を対象にアンケートとインタビューを行い,読書案内における知識やノウハウについて,読書案内の「準備」段階と「実行」段階の2つの視点から明らかにし,学校図書館員がこれまでに培ってきた読書案内に対応する知識の枠組みを提示した。準備時では,まず一般的な評判と経験から得た生徒の評判を考慮し,次に自分が読んでおもしろいかどうかを判断基準とする。実行時には,生徒の表面的な情報要求を聞きだすだけでなく,潜在的な生徒の能力なども加味して読書案内を行っていることが明らかになった。

 以上のように,図書館担当者の養成に関するもの以外,図書館担当者自身を対象とした研究は少ない。

4.1.7. まとめ

 これまで,「利用者研究・調査」「利用者教育と情報リテラシー教育」「検索ツール・システム」「図書館ホームページ」「電子図書館」「図書館担当者」に焦点を合わせて文献をレビューしてきたなかで,いくつか気がついた点を述べていきたい。

 まず,「子どもの情報行動」という語が用いられる以前は,「子どもの図書館利用行動」であったはずである。この図書館利用行動は,情報行動に包含されるものであり,海外の利用者研究では,従来から,観察法,質問紙法,利用記録,日記法,面接法,インタビューなど多様な方法がとられてきた。

 例えば,情報探索行動のモデルを発表したKuhlthauは,成績の良い27名の高校生を被験者として,図書館において2つの研究課題を探求するプロセスを1年間にわたって検討した。被験者のうち6名に対しては,研究プロセスの途中でインタビューを実施し,ケーススタディも行った。観察,インタビュー,質問紙調査,日記を分析した結果として,6段階の情報探索プロセスモデルが打ち出されたのであった(福永 1994)。

 わが国で利用者研究・調査というと,質問紙調査によって全体の傾向を把握することを目的とした研究調査がほとんどであった。それは,特定の個人を研究対象とすることは,プライバシーに触れる問題があるとして,タブー視されてきたことに無関係ではあるまい。レファレンスインタビューを記録して分析する研究なども,わが国では消極的であった。

 しかし,最近では行動観察やビデオ記録,発話分析,フォーカスグループインタビューなどという方法が見られるようになってきた。これは「情報行動」という個人の行動や内面の動きを対象としなければ解明できない内容に,学問的関心が移ってきたからである。

 また,子どもたちがシステム開発の研究に被験者ではなく協力者として参加することが海外でもわが国の研究でも見られた。例えば,ICDLのインターフェイスの作成にあたっては,7歳から11歳までの7人の子どもたちを協力者として意見を収集し,その結果を生かして検索画面には文字や説明をなくし,図を豊富に取り入れたという。この「研究へ子どもが協力者として参加する」視点は今後さらに重要となると考えられる。

 次に,図書館情報学の領域の研究内容として,「子どもの情報行動」そのものに焦点が合わされるものよりも,「子どもの情報行動に資するためのもの」が研究の対象となる場合が多い。子どもが利用するための組織化,システムなどである。そもそも図書館は資料の組織化を主業務としてきたものであるから当然ではあるが,だからこそ,利用者サービスを考えるときには,「利用者」という人間を対象とする学問領域の助けを借りる必要があるのである。また,情報リテラシー教育の評価や指導法の研究が非常に少ない。これは,まだこの領域が研究領域として新しいこと,そして図書館担当者が情報リテラシー教育に責任をもつことの認識がまだ低いことを表していよう。(堀川)

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  2. 田村俊作 (2001). “情報利用をめぐる研究”. 情報探索と情報利用. 田村俊作編. 勁草書房, p.3.
  3. 渡辺智山 (1996). 利用者研究史と情報探索過程モデル. 同志社大学図書館学年報. 22 別冊, p.39.
  4. 渡辺智山 (1996). 利用者研究史と情報探索過程モデル. 同志社大学図書館学年報. 22 別冊, p.44.
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