3.2.4 国立国会図書館職員の電子書籍に対する意識

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 本調査の一つとして、国立国会図書館職員を対象に「電子書籍の利用の実態・意識に関するアンケート」を実施した。詳細は巻末の参考資料2「電子書籍の利用の実態・意識に関するアンケート調査結果」を参照されたい。ここではアンケート結果の概要と若干の考察を記すのみとする。

 なおこの調査はあくまで国立国会図書館職員を対象としたものであるため、館種の異なる大学図書館職員や公共図書館職員を代表するものではない。いわば「ラストリゾートとしての図書館の職員」の現在における電子書籍に対する意見分布として見る必要がある。

 

 調査対象:国立国会図書館職員 923名
 調査期間:2008年10月22日~11月5日
 調査方法:国立国会図書館内、Webアンケート方式による調査
 回答数:373名 (40.4%)

 

 回答者の属性は、年齢層では31~40歳(42.1%)が最も多く、~30歳(23.9%)、41~50歳(22.0%)、51歳~(12.1%)と続く。男女の割合はほぼ同数である。

 電子書籍の認知度については、ほとんどのアンケート回答者が「知っている」と回答されている。もっとも約40%の回答率であるので、電子書籍に対する関心が高い層が回答を寄せているとも推測される。

 電子書籍の利用・購入状況では、過去1年間で業務以外に電子書籍を利用したことがあると回答した者は、約34%であり、利用デバイスは、「パソコン」(80.8%)が飛び抜けて多い。これは、次の設問である電子書籍の利用ジャンルとの関係で、コンテンツ供給状況やコンテンツのデバイス依拠状況の反映と考えられる。

 電子書籍を利用しているジャンルは「ノンフィクション」や「学術書」が多く、社会一般の最も多い利用ジャンルである「コミック・マンガ」とは明らかに異なるものであった。

なお、回答者のプロフィールによるクロス集計の結果では、電子書籍の主な利用者は、21~40歳の比較的若い世代が中心であったが、性別などよる違いはほとんど見られなかった。

 利用者の電子書籍の利用経験者の意見をまとめておく。電子書籍が便利だと感じている点では、「保管場所を取らない」、「いつでもどこでも読める」といったモバイル性に関する回答が上位を占めた。この傾向は概ね、どのデバイスでも同様であったが、電子書籍専用端末では、「検索ができる」が上位を占めた。

 ただし、先の電子書籍の利用デバイスを80.8%が「パソコン」と回答した点とを考え合わせると、現状のラップトップ・パソコンの重量、立ち上げ時間、電源持続時間、ネットワーク接続帯域等はモバイル性において携帯電話やスマートフォンに比較してはるかに劣ることから、ユビキタスなCloud Computing環境を想定・期待した回答であるかもしれない。

 反対に、電子書籍が不便だと感じる点では、「目が疲れる」、「ぱらぱらページがめくれない」といった一般的に電子機器特有のデメリットと言われる内容が上位を占めた。この傾向は利用デバイスによって違いはなく、共通的な回答であった。

 一方、紙媒体の書籍の購入・利用状況について、過去1年間で入手した書籍の点数について調査したところ、「1~23」点の利用が、入手先に関わらず、最も多くの割合を占めた。これは年齢別に見ても、どの年齢層においても概ね同様の傾向であるが、購入先として「オンライン書店で購入した」点数では、「0」点が51歳以上の年齢層を除いて、最も多くの割合を占めた。

 将来予測として、電子書籍の今後の動向を尋ねた。電子書籍が普及するにつれ、紙媒体の書籍が売れなくなるとの意見に対する職員の感じていることに関する設問では、「あまり思わない」が最も多く(52.8%)の割合を占めた。次いで「やや思う」(27.6%)となっており、「その通りだと思う」は2.9%と少数にとどまった。なお、これを年齢別に見ても、どの年齢層でも、概ね同様の傾向であった。

 総じて、国立国会図書館職員内、本アンケートの回答者の素描は、電子書籍に対しての関心は高く、個人購入・使用者も回答者の1/3程度存在するが、利用ジャンルはノンフィクションや学術書という教養主義的コンテンツが中心である。また、使用デバイスはPCが圧倒的であり、実際には電子書籍のモバイル利用を頻繁に行ってはいないが、将来的な展開として電子書籍のモバイル利用環境に期待が高い。また、紙媒体書籍の将来に対しては悲観的ではない。概ね電子書籍に関しては「アーリー・アダプター(初期受容者)」ではなく、「アーリー・マジョリティ(初期多数受容者)」層と考えられる。

 最後に、図書館の電子書籍との関わり方についての意見では、(国立国会)図書館として電子書籍とは関わりを持つべきとの意見が多いが、制度的な部分や技術的な課題等、クリアすべき課題を乗り越えることを条件としてあげる意見が多く見られた。これは、最終設問の「電子書籍について感じておられること」での自由記述でも同様の傾向が見られた。(北 克一)