3.3.3 まとめに代えて

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 現在の電子書籍の発行者の多くは、その長期保存について、その必要性も重要性もあまり理解されていないように思われる。電子媒体は紙媒体の本よりさらに散逸・滅失する危険性が高いのにも関わらず、発行者にそれが永続的価値のあるものであるという認識が薄い。図書館員はその保存の重要性に気がついているものの、紙のようにとにかく書庫という場所をさえ用意すれば保存できるものではなく、有効な対策はとられていない。媒体変換や長期保存の体制の確立などの問題点はまだ、充分に認識されているとはいえない。

 全般に、本調査にあっては保存という観点での質問がごく少なく、定量的な分析は困難である。本調査自体「現状把握」が主であり、過去の集積や未来への伝達といったことがあまり意識されていない。これは電子書籍の蓄積がまだ始まったばかりであり、文化的資産としての認識がまだ市民や研究者自身にも薄いことに起因すると思われる。

 すべての文化資産は、それが生まれたときから保存を考えておかねばただちに散逸してしまう。本調査が、電子書籍の保存に関して、注意を喚起するものであることを望む。(中西秀彦)