2.2 携帯電話読書の進展と携帯電話キャリアの動向

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2.2.1  携帯電話向け電子書籍市場の急成長

 前述の『電子書籍ビジネス調査報告書2007』では、電子書籍の動向についておよそ次のように概説している。

 2002年度にPC向けに電子書籍市場が形を整え、PDA(携帯情報端末)向けの電子書籍販売サイトが相次いでスタートし、2003年度はPDA向け電子書籍市場が最盛期を迎え、2004年度はΣBook、LIBRIeといった読書専用端末の登場、2005年度に携帯電話向け電子コミックの伸びが顕著となり、2006年度に携帯電話向け電子書籍市場がPC向けを上回った(10)

 

表2.1 電子書籍市場の売上高の推移(単位:億円)

年度PC向け携帯電話向け電子書籍市場合計
2002年度10010
2003年度170.518
2004年度331245
2005年度484694
2006年度70112182
2007年度72283355

出典:『電子書籍ビジネス調査報告書2008』

 

 さらに『電子書籍ビジネス調査報告書2008』では「2007年度の電子書籍市場の市場規模は約355億円と推定され、成長率は95%と相変わらず大きかったものの、内訳はPC向けの電子書籍市場が約72億円とほとんど前年度と変わらなかったのに対して、携帯電話向けの電子書籍市場は約283億円と対前年度比2.5倍の規模に拡大。PC向けの電子書籍市場の成長に大きくブレーキがかかる一方で、携帯電話向けの電子書籍市場の成長にドライブがかかった一年であった」(11)と分析している。

 電子書籍市場の売上高は表2.1に示すように携帯電話向けの市場が牽引して、大きく伸びているのである。

 

2.2.2 携帯電話キャリアの動向

 『電子書籍ビジネス調査報告書2008』によると、携帯電話電子書籍のサイト数は以下のように推移している。

 

表2.2 携帯電話向け電子書籍サイト数の推移

表2.2 携帯電話向け電子書籍サイト数の推移

出典:『電子書籍ビジネス調査報告書2008』p.8より作成

 

 本報告書を作成するにあたって実施したインタビュー調査において、その後も携帯電話キャリアにおいて電子書籍サービスを行うサイト数は増加し続けていることが明らかになった。

 NTTドコモが提供するiモードは、2003年より出版社によるiモード向け電子書籍サービスを開始している。すでにiモードがスタートした当初から複数のサイトでオリジナルの読み物を配信していたが、携帯電話で実際の小説が読める電子書籍サイトが立ち上がったのは2003年からである。2008年12月現在での電子書籍のサイト数はコミック79、アニメ/フィルムコミック7、小説(歴史、文芸なども含む)44、写真集32、その他4の合計166サイトである。

 KDDI(携帯電話サービスのブランド名はau)のEZWebは、2003年11月のWINサービス開始と同時に電子書籍サービスを開始している。電子書籍のサイト数2008年9月現在では総合(小説・コミックを含む)55、小説・文芸29、コミック106、写真集75の合計265サイトで、キャラクターなど別サイトで電子書籍を置いているものが23サイトある。

 ソフトバンクモバイルの携帯電話向けポータルサイトであるYahoo!ケータイでは、2002年4月の「新潮ケータイ文庫」から電子書籍サービスを開始している。その後、2004年12月からは電子コミックの配信を開始している。電子書籍のサイト数は2008年9月現在で書籍(文芸)48、コミック106、写真集69の合計223サイトである。

 いずれの携帯電話キャリアも他社との競合の中で電子書籍に対する期待は大きい。とりわけ出版社から売れ筋の新刊コンテンツの提供を受けることで、さらにダウンロード数を伸ばそうと考えているのである。そしてその背景にはコンテンツを豊富にすることによって契約者とダウンロード回数を増やそうという携帯電話キャリアの戦略が存在するのである。

 

2.2.3 「魔法のiらんど」とケータイ小説

 1999年12月に無料ホームページ作成サービスから始まった「魔法のiらんど」は、2000年3月から「ブック」機能で自分の書いた文章に表紙をつけ、目次をつくり、連載小説として発表できる携帯電話向けネットサービスを提供している。

 このサービスはユーザーの口コミで瞬く間に広がり、2008年8月現在では累計登録ID数600万、月間35億ページビューを超えるモバイル最大級のコミュニティ・サイトに成長している。いわゆる「ケータイ小説」の世界である。公開されている作品は100万作品とも言われている。

 このようなタイプのネット上の文芸作品は、紙の本があって電子書籍が作られるのではなく、まさにボーンデジタル(born digital)のコンテンツとして現出している。しかし、その実態の把握は困難である。

 「魔法のiらんど」の場合、アクセスランキングを日次更新し、ケータイ小説のポータルサイト「魔法の図書館」に掲載されている。作者は自分で描いたイラストや写真を掲載したり、句読点を画面上に散りばめ、涙が零れ落ちる様を表現したりするなど、ケータイ小説独自の表現方法を生み出している。またアクセスランキングの上位は書籍化され、すでに70タイトル以上、累計発行部数は1,300万部を超えているのである。(2008年3月末現在)

 

(10) 電子書籍ビジネス調査報告書2007. インプレスR&D, 2007, p1-2, (インプレスR&D インターネット総合研究所 調査報告シリーズ).

(11) 電子書籍ビジネス調査報告書2008:市場規模・最新市場動向・ユーザー調査掲載. インプレスR&D, 2008, p2, (インプレスR&D インターネット総合研究所 調査報告シリーズ)

 

参照ウェブサイト

“iPhone3G”. アップルジャパン. http://www.apple.com/jp/iphone/, (参照 2009-02-10).

“青空文庫”. http://www.aozora.gr.jp/, (参照 2009-02-11).

“amazon.com”. http://www.amazon.com/, (accessed 2009-02-11).

“Kindle Store”. Amazon.com. http://www.amazon.com/kindle-store-ebooks-magazines-blogs-newspapers/b?node=133141011, (accessed 2009-02-11).

“DSVision.jp”. am3. http://www.dsvision.jp/, (参照 2009-02-11).

“iモード”. NTTドコモ. http://www.nttdocomo.co.jp/service/imode/, (参照 2009-02-11).

“Googleブック検索”. Google. http://books.google.com, (参照 2009-02-11).

“EZWeb”. KDDI. http://www.au.kddi.com/service/ezweb/index.html, (参照 2009-02-11).

“Yahoo!ケータイ”. ソフトバンクモバイル. http://mb.softbank.jp/mb/service/3G/yahoo_keitai/, (参照 2009-02-11).

“e-Book Japan”. 電子書籍コンソーシアム. http://www.ebj.gr.jp/, (参照 2009-02-11).

“電子文庫パブリ”. 電子文庫出版社会. http://www.paburi.com/, (参照 2009-02-11).

“日本ペンクラブ電子文藝館”. 日本ペンクラブ. http://www.japanpen.or.jp/e-bungeikan/, (参照 2009-02-11).

“ブッキング”. http://www.book-ing.co.jp/, (参照 2009-02-11).

“VOYAGER”. ボイジャージャパン. http://www.voyager.co.jp/, (参照 2009-02-11).

“魔法のiらんど”. http://ip.tosp.co.jp/, (参照 2009-02-11).