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北海学園大学 経済学部地域経済学科 福田 都代(ふくだ いくよ)
(1) ファンドレイジングの必要性
米国では図書館において、近年ファンドレイジングはますますその重要性を帯びている。ファンドレイジングとは一般に資金調達活動を意味するが、ドナー(個人や団体)から寄付金を募ることだけでなく、現金化が可能な資産や資機材の形態での寄付も受け入れられている。寄付金の大部分は個人からもたらされ、各州には図書館へ補助金を出資する様々な民間財団が存在する。
ファンドレイジングは1970年代から取り組まれたが、公立図書館では財源を外部に求める行為が図書館予算の大部分を占める公的資金の削減につながりかねないという懸念があった。しかし1980年代中頃から多様な利用者に対する図書館サービスの拡大、資料費の上昇およびIT機器の導入に対処しなければならず、図書館員の間でファンドレイジングの必要性がさらに認識されるようになった。1990年代には現実の財政問題を克服しつつ、「図書館の発展」を結びつけ、積極的に推進されるようになったといえる。
(2) 個人と団体からの寄付形態
個人からの寄付は計画贈与(planned giving)、現物贈与(in-kind gift)および年間会費に基づく募金(annual fund)の形態で提供されることが多い。計画贈与は、ドナーの個人資産である不動産、生命保険、有価証券、貴重資料などを遺贈することをさす。寄付が決まった時点から法的な問題や免税措置の問題が生じるため、ドナーの顧問弁護士や財政顧問との折衝が必要となる。現物贈与はドナーが寄付金の使途を特定し、特殊資料の購入などに限定される場合が多い。毎年、一定額の寄付金をドナーから徴収する募金形態は、図書館にとっては資料の購入や施設拡充のための基金の下地ともなり、安定した財源になりうる。
ドナー対象の団体には、政府の補助金提供機関があるが、補助金対象分野が限られているため、企業や家族財団など民間財団をターゲットにする方が効率的である。その情報源として、ニューヨークに本部をおく財団センター(Foundation Center)が、図書館と情報サービスのために補助金を提供する企業や家族財団のリストを隔年で刊行している。これによれば、議会図書館や米国図書館協会(ALA)に対して複数の財団から補助金が提供されていることがわかる。
(3) ファンドレイジングを支える体制
公立図書館では、図書館の運営費や建物の新築及び増改築については住民投票制度を利用して通常の財源を増やすべく努力し、特定のプロジェクトについて、ファンドレイジングを試みる傾向にある。実施に際して、図書館長、職員、図書館理事会のメンバーおよび図書館友の会組織が中心となる。他方、都市部の図書館では図書館財団を結成し、ドナーの選定や財団への補助金申請に専念させるところもある。図書館財団は図書館から独立した組織で、理事会を擁し、地域に影響力をもつ人々を理事会のメンバーに加えることがある。
大学図書館は、公立図書館に先駆けてファンドレイジングに取り組んだ実績をもち、特殊資料部門の職員が様々な資金源から運営費を獲得してきた。従来から外部資金の導入に積極的な私立大学は州立大学よりもファンドレイジングに関するノウハウを蓄積している。大学図書館では、図書館独自にファンドレイジングに乗り出す場合と、大学の発展部局と連携する場合がある。親組織である大学自体が同窓生や教職員およびその家族といった潜在的なドナーをもち、学位授与機関としての歴史が長いほどドナーを集めやすい。また、人気のある学内のスポーツチームと連携したファンドレイジングもいくつかの大学で行われている。
ファンドレイジングに関する情報提供を促進するため、全国的な組織も結成されている。ALAが1995年に結成した「図書館ファンドレイジング・リソースセンター」(LFRC)は、ファンドレイジングに関する文献を集積したデータベースを作成している。他に、ALAの下部組織である図書館経営管理協会(LAMA)の「ファンドレイジングと財政発展部門」(LAMA-FRFDS)や公共図書館協会(PLA)の「ファンドレイジング委員会」が挙げられる。大学図書館については、1980年代に大学研究図書館部会(ACRL)内に「ファンドレイジングと発展グループ」が発足した。次いで米国とカナダの約400の大学・学術図書館が集まって1995年に結成された「学術図書館の進化と発展ネットワーク」(ALADN)は大学の発展部門の担当者も含めた組織である。
近年、ドナーからの資金獲得競争がますます激化しつつあり、外部のファンドレイジング専門家の協力を得ることも行われている。Swanの著書によれば、図書館が50万ドル以上の資金を集めるには専門家を雇う方が効果的であるという。彼らは財団への補助金の申請書を作成するだけでなく、ファンドレイジングに関する様々なアイデアも提供できる。
(4) ファンドレイジングの手法
ファンドレイジングの第一歩は、図書館の存在意義と肯定的な側面を示した使命文書(mission statement)の作成から始まる。次にファンドレイジングの目的と目標額を設定し、戦略を練り上げ、それに要する期間と具体的な行動計画を陳述文書(case statement)に集約する。それらをパンフレットや図書館のホームページ上に掲載し、徹底したPR活動をもとに財源の開拓につなげている。
図書館のファンドレイジングは通常、次のような方法で展開されている。
1. 資本キャンペーン:多額の資金を要するプロジェクトの遂行に対し、長期にわたって、あらゆる可能な資金源から資金を集める。
2. 年間キャンペーン:毎年、一定額の金額を会費として設定し、寄付金を集める手堅い方法で大規模な資金キャンペーンの基礎をなす。
3. 基金プログラム:寄付金を蓄積しておき、将来に向けて様々なプロジェクトや臨時経費の必要性が生じた時に備えておける方法である。また、ドナー自らが資料を購入して寄贈する図書基金の形態も含まれる。
4. 大口寄付の要請:少数のドナーから数件の大口寄付を獲得すれば、目標金額の80~90%を集められる可能性がある。公立図書館では5千ドル以上、大学図書館では5万ドル以上を大口寄付とみなす。図書館長や図書館理事会のメンバーがドナーを直接訪問して寄付を要請し、寄付を受けた後にその使途に関して定期的に報告し、ドナーの名前を付したプレートなどを図書館内に掲示したり、行事への招待などでドナーに対する感謝の意を表すようなど細かい配慮がなされる。
5. 商品と図書販売:図書館友の会やボランティアが図書館内に出店し、図書館のロゴ入り商品や図書を販売することで、短期間で高額の資金を集める方法にはならなくても、図書館の宣伝につながる。大掛かりな図書市もしばしば組織され、その準備には最低6ヶ月程度かける。稀覯資料の販売には、専門の業者に依頼してオークションを開催し、入場料の徴収や業者への手数料の支払いを考慮する。
6. 各種イベントの開催:著名人の協力が得られれば、多数の人々の関心を引き、多額の収益を短期間で得られる機会となりうる。その際、準備にある程度の時間がかかり、経費が必要だが、地元メディアがイベント開催を無料でPRしたり、企業がイベントの際に配る商品や食事を提供するスポンサーシップの形態も含まれる。
7. ダイレクトメールと電話勧誘:最低でも5千から1万人を対象にするため、ドナー候補のリストが必要になり、時期を配慮して行われることが多い。
8. ネット募金:この方法はペンシルベニア大学図書館が先駆者である。図書館のホームページ上から、不特定多数の個人から多くの寄付を集められる可能性があり、現在は上記に挙げたキャンペーン、商品と図書販売、オークションの開催やイベントの案内、ダイレクトメール、電話勧誘にとってかわりつつあり、個人から遺贈の申し込みもネット上で受け付けられる。遠隔地にいるドナーにも図書館の施設やサービスについてネット上でビジュアルに提示できるという利点もある。ただし、電子商取引のための口座開設費用と個人情報のセキュリティ対策は必要不可欠となる。
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