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筑波大学大学院 図書館情報メディア研究科 山本 順一(やまもと じゅんいち)
図書館は、公共図書館であれ、大学図書館、学校図書館、専門図書館であっても、それぞれ地域社会、キャンパス・コミュニティ、校内の児童生徒・教職員、当該専門主題に関心をもつ社会層といった、ある種の「コミュニティ」の抱える情報ニーズを満たすためにサービスを提供することを任務としている。それだけではなくて、そもそもその図書館自体が当該コミュニティによって産み出され、日常的な維持・管理に必要な多様な諸資源をそこから調達していることが一般的である。ここでは、アメリカの公共図書館を念頭におきつつ、図書館の運営形態について論じることにしたい。
(1) 図書館委員会(library boards)
一部に例外はあるが、アメリカの大半の公共図書館の設置母体は、市町村や郡、図書館行政のためだけに設置された課税権をもつ「特別地方公共団体」である図書館区(library districts)、そして日本の行政用語を用いれば、「一部事務組合」にあたるものもある。このような地方公共団体がそれぞれの州法の規定に従って公共図書館を設置する。設置された公共図書館の管理機関(governing entities)が一般に「図書館委員会」である。アメリカの図書館を紹介する日本の関係文献では、これまで「理事会」と訳されることが多かった。民間の公益法人であれば理事会で十分であるが、このlibrary boardsはいわゆる「行政委員会」のひとつで、合議制行政庁としての本質を備えている。
19世紀のアメリカにおいて、それぞれの分野における専門的行政職員が実施する行政活動を市民の代表が監視するという素人統制(layman control)の思想が普及し、公安委員会や教育委員会などを含む多種多様な行政委員会が組織された。これらの委員会を構成する委員たちは原則無給で、交通費等が実費弁済されることはあった。図書館委員会はそのような行政委員会として、教育委員会などと同様、現在に至るまで生き残ってきた。(日本でも、戦後、図書館法案作成の過程で「図書館委員会」のコンセプトが取りあげられたが、実現はせず、これに代わってある意味で必然的に形骸化せざるを得なかった図書館協議会が導入された。)
図書館委員会のメンバーには、ベテランのライブラリアンが含まれることが多いが、功成り名を遂げた当該コミュニティの名望家が就任するというのが一般的なイメージである。メンバーには地元財界人や法律家などの専門職業人が少なくない。もっとも、図書館委員会は「住民参加」の一形態でもあるので、特定の部局が任命権限を有する場合には、一定程度女性を加えようとしたり、職業構成や人種的配慮がなされたり、マイノリティを意識的に選ぶことなどもある。図書館委員会のメンバーを選挙で選ぶところもある。
図書館委員会の定数は、州により異なる。5名というところが比較的多いが、3名から9名と様々である。また、首長や参事会のメンバーなどが充て職(ex officio)の委員とされている場合もある。委員の任期は3年から6年で、重任の可否についても様々である。
図書館委員会の権限は、当該図書館の管理機関とされることから、図書館運営の基本方針や館長人事、職員の採用指針や俸給表、図書館建物の新増築・改築、起債を含む財政などの重要事項につき判断、意思決定することにある。分館網も含めて日常的な図書館業務の実施については、図書館委員会の監視のもとに、館長にゆだねられる。
アメリカの公共図書館の財源については、 millage rate という図書館目的税を採用しているところが少なくない。これは不動産の評価価値に対して一定の割合(millは1/1,000の意味)で課税し、図書館の運営にあてるというものである。もっとも、アメリカの公共図書館では、個人、企業に対し積極的に寄付を募り、それを受入れており、公的財源だけに依存しているわけではない。
(2) 公共図書館運営と住民参加
先にみた通り、公共図書館はコミュニティの基幹施設であり、地域住民が積極的にその運営に参加している。
図 アメリカの公共図書館
アメリカでは、公共図書館に限らず、特定の図書館を支援するために「図書館友の会(Friends of the Library)」が組織される。大学図書館の場合には同窓生が中心であるが、公共図書館では地域住民のなかで図書館に関心を寄せている人たちによって組織され、一定の会費を集め、独自の財源を背景に当該図書館にかかわる諸活動を主体的に展開している。図書館友の会のメンバーは図書館と住民をつなぐ役割を果たすとともに、当該図書館とその活動を理解するなかから、上に述べた図書館委員会のメンバーに選任される人たちをも輩出する基盤となっている。
Ref:
Ladenson, Alex. アメリカ図書館法. 山本順一訳. 日本図書館協会, 1988, 204p.