E2529 – 個人向けデジタル化資料送信サービスの開始

カレントアウェアネス-E

No.441 2022.08.18

 

 E2529

個人向けデジタル化資料送信サービスの開始

電子情報部電子情報企画課・木村祐佳(きむらゆか)

 

  国立国会図書館(NDL)は,2022年5月19日から「個人向けデジタル化資料送信サービス」(以下「個人送信」)を開始した。これは,NDLがデジタル化した資料のうち,絶版等の理由で入手困難なもの(以下「絶版等資料」)を,インターネットを通じて個人の端末で閲覧できるサービスである。国内在住のNDL登録利用者は,本サービスの利用規約に同意することで,国立国会図書館デジタルコレクション上で絶版等資料を閲覧することができる。

  NDLでは,デジタル化した資料のうち,著作権処理が済んだものはインターネットで公開し,それ以外はNDL館内に設置された端末からの利用に限定して提供してきた。2014年1月からは,「図書館向けデジタル化資料送信サービス」(以下「図書館送信」;E1540CA1911参照)を開始し,絶版等資料のデジタルデータについて,NDLの承認を受けた国内外の図書館(以下「図書館送信参加館」)内でも閲覧・複写することができるようにした(一部の図書館では閲覧のみ可能)。2022年6月末現在の図書館送信参加館数は国内外あわせて約1,380館である。

  上記のとおり,絶版等資料のデジタルデータを閲覧するには,NDL又は図書館送信参加館に足を運ぶ必要があった。しかし,2020年初めからの新型コロナウイルス感染症感染拡大の影響により,NDLを含む各図書館の休館が相次ぎ,絶版等資料を利用することが難しい事態となった。このため,インターネットを通じた図書館資料へのアクセスに係るニーズが顕在化し,著作権法が改正される機運となり,2021年6月に著作権法の一部を改正する法律(令和3年法律第52号)が公布された(E2412参照)。この改正により,NDLがデジタル化した絶版等資料をインターネット経由で個人に送信することが可能となり,休館の他,様々な理由により図書館を利用できない場合にも,利用者は絶版等資料を閲覧できるようになった。なお,同時に,各図書館等による図書館資料のメール送信等を可能とする改正も行われたが,ここでは説明を割愛する。

  個人送信の実施にあたっては,文化庁とNDLの共催で,権利者団体・出版団体・図書館関係者・有識者をメンバーとする「国立国会図書館による入手困難資料の個人送信に関する関係者協議会」を設置し,送信対象資料や,利用規約・登録などの事項,提供方法について議論を行った。本協議会において,送信対象資料については図書館送信の対象資料の範囲内とすること,当面はデータの送信形態をストリーミング方式とすること,利用者は国内在住の登録利用者で,利用規約に同意が必要となること等,サービスの運用指針を定めた「国立国会図書館のデジタル化資料の個人送信に関する合意文書」(2021年12月3日)を取りまとめている。

  個人送信は,各種メディアによる報道もあり,サービス開始前から注目を集めた。5月19日のサービス開始直後には,利用者登録の申請が急増したほか,5月末までの10日余りで19万回以上の閲覧があるなど,大きな反響があった。2022年6月末現在,個人送信のユーザー数は約3万3,000人に上る。また,2022年6月の個人送信の閲覧数は約35万回であった。これは,2021年度の図書館送信の1年間の閲覧数,約30万回を上回る利用である。

  NDLでは今後,2022年12月にはシステムのリニューアルを予定しており,2023年1月にはプリントアウト機能の提供や送信資料の拡大を予定している。多くの人に活用されることを願っている。

Ref:
“個人向けデジタル化資料送信サービス”. NDL.
https://www.ndl.go.jp/jp/use/digital_transmission/individuals_index.html
“図書館向けデジタル化資料送信サービス”. NDL.
https://www.ndl.go.jp/jp/use/digital_transmission/index.html
文化審議会著作権分科会. 図書館関係の権利制限規定の見直し(デジタル・ネットワーク対応)に関する報告書. 2021, 40p.
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/pdf/92818201_03.pdf
NDL. 国立国会図書館のデジタル化資料の個人送信に関する合意文書. 2021, 3p.
https://www.ndl.go.jp/jp/preservation/digitization/kojinsoshin_agreement.pdf
福林靖博. 令和3年著作権法改正と国立国会図書館による絶版等資料の個人への送信について. 情報の科学と技術. 2022, 72(3), p. 82-87.
https://doi.org/10.18919/jkg.72.3_82
藏所和輝. 国立国会図書館の「個人向けデジタル化資料送信サービス」の開始について. 図書館雑誌. 2022, 116(5), p. 258-260.
小坂昌. 図書館向けデジタル化資料送信サービス開始から1か月. カレントアウェアネス-E. 2014, (255), E1540.
https://current.ndl.go.jp/e1540
村井麻衣子. 令和3年著作権法改正:図書館関係の権利制限規定の見直し. カレントアウェアネス-E. 2021, (418), E2412.
https://current.ndl.go.jp/e2412
上綱秀治. 図書館向けデジタル化資料送信サービスの統計に見る開始から3年の状況. カレントアウェアネス. 2017, (334), CA1911, p. 11-13.
https://doi.org/10.11501/11007716