E2528 – パンデミック下の図書館と著作権法に関するIFLAの研究報告書

カレントアウェアネス-E

No.441 2022.08.18

 

 E2528

パンデミック下の図書館と著作権法に関するIFLAの研究報告書

調査及び立法考査局行政法務課・宇都宮美咲(うつのみやみさき)

 

●はじめに

  2022年5月,国際図書館連盟(IFLA)は,“How well did copyright laws serve libraries during COVID-19?”(以下「報告書」)を公開した。報告書は,途上国において図書館を通じたデジタル情報へのアクセスを推進しているElectronic Information for Libraries(EIFL;CA1800参照)と共同で作成されたもので,第42回世界知的所有権機関(WIPO)著作権等常設委員会(SCCR)に先立って公表された。報告書は,2022年2月から3月にかけて行われた調査の結果に基づいており,パンデミック下の図書館において生じた著作権法をめぐる諸問題を通して,図書館サービスへの法的保護を求めている。本稿では報告書の主要なポイントを紹介する。

●調査の概要

  調査では,IFLAとEIFLから会員・加盟団体に対して,パンデミックで生じた著作権に関連する課題についてのアンケートが配布された。「コロナ禍での閉館やソーシャルディスタンシングの際,図書館資料へのアクセスの提供において著作権に関連する課題があったか」という質問に対し,29か国114館から回答があり,88館からは続く全ての設問についても回答があった。また,28件のインタビューが実施された。回答者の所属機関としては研究図書館が大半を占めている。

  調査に回答した図書館関係者の83%が,パンデミックに伴う施設閉鎖時の資料提供において,著作権に関連する問題を抱えていたとした。以下に詳述するこれらの問題は,パンデミック以前からの課題と交錯するものであるとされている。

●出版社のサービスやコンテンツへのアクセスに関する問題

  施設閉鎖時,利用者にデジタル形式でサービスを提供しなければならなくなった図書館にとって,電子書籍や電子ジャーナルの高額な購入費は大きな負担となった。また,電子書籍や電子ジャーナルは,契約条件やデジタル著作権管理(DRM)によって館外からのアクセスやコンテンツの複製が制限されている場合もあり,利用者から要求があった資料の一部しか提供できないケースが生じた。

  パンデミックの初期には,多くの出版社が一時的にサービスやコンテンツへのアクセス拡大を実施したが,図書館側がそれらを研究や教育活動に組み込むのに十分な期間が設けられていなかった。施設の閉鎖中に出版社の暫定措置が終了したと回答した図書館は48%に上った。

  特に,授業で使用する教科書への影響は顕著で,著作権に関する課題を挙げた図書館のうち69%が,購入費やライセンスの問題などによって教科書の提供に支障をきたしたと回答した。

●オンライン授業におけるコンテンツ利用に関する問題

  オンライン授業の支援を行う図書館は,遠隔地へのコンテンツの提供にあたり,著作権法上の問題に直面することとなった。例えば,対面授業で行われている音楽や映像の再生,講義の録音等をオンライン授業で行った場合に,著作権侵害にあたるかが法的に不明確であった。また,授業で使用するオンラインプラットフォームのDRMによって,音声・映像コンテンツの共有が制限されており,著作権法上問題ない範囲での利用も難しい場合があった。さらに,外国籍の学生や教員が母国に戻った際,ライセンスの問題やインフラ技術の違いが原因で,教材にアクセスできなくなった例が多数報告された。

●提言

  ここまでの調査結果を受けて,報告書では以下のような提言がなされている。

  • 出版社はデジタルコンテンツを廉価で提供すべきである。電子書籍のライセンスは,紙の書籍のコストと同じになるようにし,個人への販売と同様に図書館に対してもユーザーライセンスごとに販売されるべきである。
  • 音声や映像を配信する際の制限を取り除くことを含め,著作権で保護されたコンテンツをオンライン授業で共有する権利を明確化し,技術的な利便性を向上させるべきである。
  • 学生が国境を越えて授業教材を含む書籍や視聴覚資料にアクセスすることを,法的に可能とするべきである。
  • 動画配信プラットフォームは,学生が授業内容にアクセスできるような教育用ポータルを開発すべきである。
  • より柔軟な著作権の制限と例外を認めるよう転換していくことで,将来の危機に対する適応能力が高められ,図書館と利用者が不確実性に直面する事態を減らすことができる。

  報告書の末尾では,物理的にその場にいない利用者にデジタル形式のサービスを提供するにあたっては,発展途上にある規範に沿って図書館の機能を法的に保護するため,先見性を持って行動しなければならないと述べられている。

●おわりに

  IFLAは,第42回SCCRにおいて,教育・研究・文化活動へのアクセスを守るという点から,図書館のデジタルサービスにおける著作権の制限と例外の必要性を改めて訴えた。図書館及びアーカイブズに関する著作権の制限と例外については,引き続きSCCRの議題として扱われることとなっており,今後も国際的な動向が注目される。

Ref:
“Research Report: How well did copyright laws serve libraries during COVID-19?”. IFLA. 2022-05-04.
https://www.ifla.org/news/research-report-how-well-did-copyright-laws-serve-libraries-during-covid-19/
IFLA. How well did copyright laws serve libraries during COVID-19?: Research Report. 2022, 22p.
https://repository.ifla.org/handle/123456789/1925
WIPO. “STATEMENTS”. Standing Committee on Copyright and Related Rights Forty-Second Session. Geneva, 2022-05-09/13, 28p.
https://www.wipo.int/edocs/mdocs/copyright/en/sccr_42/sccr_42_inf_3.pdf
WIPO. “SUMMARY BY THE CHAIR”. Standing Committee on Copyright and Related Rights Forty-second Session. Geneva, 2022-05-09/13, 6p.
https://www.wipo.int/edocs/mdocs/copyright/en/sccr_42/sccr_42_summary_by_the_chair.pdf
井上奈智. EIFL:その組織と活動. カレントアウェアネス. 2013, (317), CA1800, p. 5-7.
https://doi.org/10.11501/8308152