E2073 – 第29回日本資料専門家欧州協会(EAJRS)年次大会<報告>

カレントアウェアネス-E

No.357 2018.11.08

 

 E2073

第29回日本資料専門家欧州協会(EAJRS)年次大会<報告>

 

 2018年9月12日から15日まで,リトアニアの第2の都市カウナスに所在するヴィータウタス・マグヌス大学にて,第29回日本資料専門家欧州協会(EAJRS;E1969ほか参照)年次大会が開催された。欧州で活動する日本資料専門家グループにより毎年のこの時期に開催される集会で,本年度は「(グ)ローカル化する日本資料 (G)localizing Japanese Studies Resources」をテーマとして,14のセッションで構成され,31の発表(英語22,日本語9)をメインに,リソース・プロバイダー・ワークショップ,EAJRS和古書保存ワーキンググループの活動報告やEAJRS事務会議,エクスカーションが実施された。参加者は82人にのぼり,その内訳は欧州から44人,アジアから34人(日本33人),北米から4人であった。発表は大別すると概ね以下に分類される。(1)在外日本資料の研究・施設紹介,(2)欧州における日本学研究に関する活動やデータベースの紹介,(3)欧州での日本語教育の状況,その分析,(4)日本機関による日本資料に関する国外向けの活動やサービスの紹介,である。また本大会の大きな特徴としては開催の地リトアニア,とりわけ第二次世界大戦中にこの国で外交官として多くのユダヤ難民を救った杉原千畝に関する発表が複数あったことが挙げられるだろう。以下,筆者の発表および,関心を持った発表について紹介する。

 筆者は,「明治期~昭和期刊行博覧会・展覧会資料のオープン・アクセス化事業」と題して大会初日に発表を行った。事業内容として,東京文化財研究所が日本の明治・大正・昭和戦前期の博覧会・展覧会資料のデジタル化,オンライン公開,および美術史分野の電子リソースへのアクセスプラットフォーム「ゲティ・リサーチ・ポータル」へ掲載することを紹介した。日本の博覧会・展覧会資料の概要,それらの資料の日本における共有と公開の歴史,この事業によって実現する研究環境を示し,その意義を報告した。発表後の質疑応答では,対象資料の拡大(とくに海外機関が所蔵する日本の万国博覧会の資料の収録)や研究促進のためのメタデータ拡充(出品作品情報)が望まれていることが把握できた。

 在外日本資料の研究・活用に関する発表としては,元英・ケンブリッジ大学図書館の小山騰氏による「第二次世界大戦直後のベルリン日本大使館図書館の命運」が挙げられる。これは英・ロンドン大学の東洋アフリカ学院(SOAS)とスラブ・東欧学院(SSEES)などに移動した同大使館図書館の蔵書の行方を,関係者個人文書から追跡する研究で,英国におけるアーカイブズの研究活用の一端を示すものでもあった。またドイツ・ライプツィヒ大学のミューレダー(Peter Mühleder)氏,ホフマン(Tracy Hoffmann)氏による発表“Video games as a resource in Japanese studies”では,同大学jGames Labが所蔵する約4,500タイトルのビデオゲームの組織化,法的問題の解決,さらには日本メディア研究への活用が報告された。その先駆的な活動は日本国内で同種メディアを所蔵する機関にとっても大いに参考となる先行事例であったといえるだろう。

 一方で,日本国内のプロジェクトと在外機関とのコラボレーションの好例も紹介された。名古屋大学の畑有紀氏,安井海洋氏による発表「日本人若手研究者による「くずし字セミナー」の実践―西欧日本学研究ネットワークの形成のために」では,フランス・ストラスブール大学,ドイツ・ハイデルベルク大学,フランス極東学院で実施された「くずし字セミナー」について,その目的と具体的な教育方法が紹介された。現地大学院生が西欧に所蔵される未翻刻の絵巻・版本を翻刻し,それが日本学研究に貢献するという,教育と資料組織化の連携が提示された。

 EAJRSは,欧州日本研究協会(EAJS),東亜図書館協会(CEAL),アジア学会(AAS),北米日本研究資料調整協議会(NCC)などと並んで,日本資料専門家の人的ネットワークの構築においても格好の場である。大会の全期間にわたって,会場のみならず,ランチや懇親会で食事をしながら,あるいはエクスカーションでカウナスの名所旧跡をめぐりながら,日本の関連機関による提供サービスについてサービス向上を探る意見・提言が活発に交わされた。こういった対話のなかで育まれる日本資料専門家としてのゆるやかな連帯。これが在外関係者と日本研究情報の発信を担う日本の関連機関を結びつけていることを再認識した。大会最終日に,2019年度は9月にスイスのチューリヒで開催することが発表された。さらに多くの関係者が参加し,この連帯が広がることを願っている。

東京文化財研究所・橘川英規

Ref:
http://eajrs.net/
http://portal.getty.edu/
https://www.eajs.eu/
http://www.eastasianlib.org/
http://www.asian-studies.org/
https://guides.nccjapan.org/homepage
E1969
E2042