E1969 - 第28回日本資料専門家欧州協会(EAJRS)年次大会<報告>

カレントアウェアネス-E

No.336 2017.11.02

 

 E1969

第28回日本資料専門家欧州協会(EAJRS)年次大会<報告>

 

    2017年9月13日から16日まで,日本資料専門家欧州協会(EAJRS;E1862ほか参照)第28回年次大会が,ノルウェーのオスロ大学で開催された。19の国・地域から92人が参加し,日本からは過去最多の36人が参加したということであった。「日本学支援のデジタル対策」をテーマに,14のセッションにわかれて,ゲストスピーカー3人は45分,その他のプレゼンターは最大30分で30本の発表が行われた。開催国であるノルウェーに関する発表のほか,北欧諸国からの発表も多く,各国・地域の日本学に関する状況やコレクション等についても知ることができた。以下,筆者が関心を持った発表を中心に紹介する。

    ゲストスピーカーのひとりである佛教大学図書館の飯野勝則氏は,ウェブスケールディスカバリー(WSD)サービス(CA1772参照)をテーマに話された。「枕草子」での検索事例を参考としてあげ,検索結果の上位に中国語文献が表示される,日本語文献の情報が極端に少ない場合があるといったWSDサービスの問題点(CA1827参照)について,その要因や適切な検索結果を表示させるためのシステム上の設定等について説明があったほか,日本の公文書や写真,音声,映像等もWSDサービスで検索できるようになれば良いという今後への期待が語られた。そのためにも,メタデータがベンダーから提供され,WSDサービスのセントラルインデックスに加えられることの重要性が指摘された。参加者の属する機関の多くでWSDサービスが導入されていることや,日本語資料へのアクセスに大きく影響することから,飯野氏の発表後だけでなく,後述するセッション11の議論においても活発な質疑があった。

    セッション11は特別パネルセッションとして,まず,株式会社紀伊國屋書店の三竹大吉氏が世界各地域における日本語の主要な電子リソースの導入状況や,地域差はあるものの,英語での翻訳を介さず直接日本語資料にアクセスする需要が高いベトナムの状況について,また,タンペレ大学(フィンランド)の布施倫英氏がフィンランドの研究者がどのように日本の新聞雑誌にアクセスしているかを発表された。その後,飯野氏,国立歴史民俗博物館の後藤真氏,株式会社ネットアドバンスの田中政司氏の3人がパネリストとして登壇し,国際日本文化研究センターの江上敏哲氏の司会で日本関係情報の流通に関して議論が行われた。後藤氏が「ジャパンサーチ(仮称)」(E1932参照)について,メタデータがAPIで提供される予定であり,メタデータの標準化や機械学習でのメタデータ解析も検討されているようであると紹介したのに対し,多くの質問が寄せられていた。2015年の第26回大会においてEuropeanaのような日本関係情報の統合的インターフェイスへの要望が度々あったことが報告されているが(E1734参照),今大会でも引き続き関心が高いことがわかる。機械学習で内容情報に関するメタデータが付与され,WSDサービスのセントラルインデックスに収録されれば,日本関係情報の探索や表示の改善につながる可能性も考えられ注目される。

    予算や人員等が厳しい状況の中でも様々な工夫によって課題を克服し,成果をあげている事例が多く紹介されたことも印象に残った。例えば,ヴィータウタス・マグヌス大学(リトアニア)のAurelijus Zykas氏からは,日本語学習のために作成しているリトアニア語のデジタル資料(オンライン辞書と自習用の教科書)の紹介があった。リトアニアには北欧諸国のようなネットワークはなく,研究や教育を進めるためには自力で日本関係の情報を得る必要がある。予算がかからず多くの人がアクセス可能となる等のメリットがある上,リトアニアで日本語を学習するためには他に方法がないこともデジタル資料を作成する理由のひとつとのことである。また,リトアニア語・日本語のオンライン辞書は現在約7万語を収録し,印刷体にすると1,500ページに相当する充実したものであるが,需要が見込み難いことから印刷体での出版はできないということであった。しかし,更新を重ねて拡充しているほか,文字情報だけでなく多くの写真や漢字の書き順の動画も収録し,様々な検索も可能である等,オンライン辞書のメリットが最大限に生かされている。現在では,リトアニアだけでなく,日本の2つの大学で毎年60人の学生がリトアニア語を学ぶ際にも使われているということである。

    資料のデジタル化や公開に関する取組みについても複数の機関から報告があった。ハワイ大学(米国)ではプロジェクトに学生も加わって資料のデジタル画像だけでなく本文のテキストデータも作成しているということであり,ミシガン大学(米国)でも助成を得た学生や研究者と協力することで詳細な解説も付す等,資料画像の単純なデジタル公開に留まらない情報発信が行なわれていることを実感した。デジタル画像相互運用のための国際規格IIIFに準拠した画像公開を行っている機関も多く,同規格が標準として浸透していることがうかがわれた。日本においては,古典籍は国文学研究資料館,歴史資料は国立歴史民俗博物館のプロジェクトを通じてIIIFに準拠した画像の公開が進められており,国立国会図書館の「国立国会図書館デジタルコレクション」においてもIIIFへの対応を検討している。日本語リソースへのアクセス改善により,海外における日本学の更なる発展につながることが期待される。

    次の大会は,リトアニアのカウナスにあるヴィータウタス・マグヌス大学で,2018年9月12日から15日の日程で開催される予定である。

利用者サービス部人文課・村尾優子
総務部支部図書館・協力課・樋山千冬

Ref:
https://www.eajrs.net/
http://nihongo.vdu.lt/
E1862
E1932
E1734
CA1772
CA1827