E2042 – 独・ライプツィヒ大学におけるゲーム保存・学術利用

カレントアウェアネス-E

No.350 2018.07.12

 

 E2042

独・ライプツィヒ大学におけるゲーム保存・学術利用

 

    2018年4月27日,ライプツィヒ大学図書館にて,ドイツ語圏の日本関係図書館員が定期的に集まり情報交換をする日本資料図書館連絡会(Arbeitskreis Japan-Bibliotheken)の定期会議があった。その会議の午前の部で同館における日本のゲーム保存・学術利用とそれに伴ったプロジェクト“Diggr (Databased Infrastructure for Global Games Culture Research)”の紹介があったので,その内容を報告する。

    紹介は,ライプツィヒ大学日本学科のジュニアプロフェッサーであるロート教授(Jun.-Prof. Martin Roth)とDiggrプロジェクトコーディネーターである同館のラーマン(André Lahmann)氏によってなされた。

●ライプツィヒ大学におけるゲーム保存・学術利用の試み

   2015年ロート教授が同学科に就任するにあたり,ゲームソフト年齢別レーティング制度を運用・実施する日本の機関コンピュータエンターテインメントレーティング機構(CERO)から約4,500タイトルの日本で制作されたゲームを寄贈された。これを元にロート教授は“[j]Games Initiative”という日本ゲーム研究プロジェクトを立ち上げ,このプロジェクトを早くからサポートした同館と共にゲーム保存・学術利用の場をつくることとなった。このため同大学で保存・利用提供されているゲームは,ほぼすべてが日本の家庭用ゲームである。さらにこうした環境の中でゲームに関する情報を集約するデータベースを作成するためのプロジェクトDiggrも生まれた。ただし,Diggrではグローバルなゲーム文化を研究するための基礎づくりを目的としており,日本のゲームを扱うことはその足場をつくる,という意味合いもある。

    こうした中で,ライプツィヒ大学と同大学図書館では所蔵ゲームの目録作成,学術目的のゲーム記述作成,ゲームを図書館で利用するための環境づくり,といった作業を並行して行っている。

    所蔵ゲームの目録作成では当初はRDAなどの図書館用のメタデータ構造を使用することを考えたが,現行のものでは学術目的の使用に耐えず,またそれを改良するにも手間がかかり過ぎる上,日本語のゲームを使う利用者はかなり限られてくるため,図書館のカタログに登録することは考えていない,とのことである。現在はExcel形式のリストを作成し,そこに必要事項を書き込んでいる。2016年1月と4月にメディア芸術データベース(開発版)のデータを流用し記述内容のクオリティを高めた。このリストはオンラインでは公開されていない。

   また,学術研究のためのデータ作成に関して,Diggrでは,ゲームを含めたメディアを記述するための様々な様式を,学術データ(言語資源の研究インフラ・CLARIN-Dなど),レーティング制度からの情報(汎欧州ゲーム情報・PEGIなど),ビデオゲームのオンライン・ナレッジデータベース(MobyGamesなど),コミュニティ・ソース(Wikipediaなど)の4タイプに分けてこれらを分析し,最終的には学術目的のゲーム記述様式を確立できないか,模索している。

    そして,ゲームを図書館の利用者に提供するために同館は以下のような考えに沿って,さらなる環境づくりを考えている。まず,利用は学術目的に限られる。そしてここでいう学術は,研究と教育という2つの分野に分けられ,これにあわせて2つの異なる利用環境を形成した。研究のためには,“Gamelab”という部屋を館内につくり,そこにゲームソフトを排架,ゲーム機とその他各種コントローラなどを揃えそこで実際にゲームをプレイできるようにした。入室のためには鍵が必要であり,鍵は図書館カウンターで管理され,事前に登録した利用者が鍵を持ち出すことができる。同館には,ゲームを教育の場でも利用できるように,特別なセミナールームも用意されている。そこでは,11台のゲーム利用可能な高性能パソコンとゲーム画面を投影できる専用プロジェクターが利用でき,ゲームを使った授業も可能となっている。

●今後の課題

  上記の活動からは以下のような課題もでている。
  • ゲームはコンソールを通じて利用されているが,こうしたコンソールには生産が停止されたものもあり,これらが故障した場合どのように対処していくのかが課題である。ゲームソフトの中には日本で生産されたコンソールでしかプレイできないものもあり,長期的にメンテナンス作業が不可欠となる。
  • 家庭用ゲームソフトはCD-ROMのようなディスクに保存されているが,これらの物理的な耐久年に関しても懸念がある。一方で,マイグレーション・エミュレーションといった解決法は法的な問題がある。
  • ゲーム展開を動画として保存し学術目的のために利用する場合にも,法的な問題が解決されない限り大学図書館として保存・公開はしづらい。

  これらの課題は法的な問題も絡んでくるのでドイツの一大学図書館だけでは解決できないが,今後類似の活動のための問題提起になると考えられる。

  こうした観点からも,これらゲームの保存・学術利用に関するライプツィヒ大学の今後の活動は注目に値する。

 なおここで紹介された内容の一部は,立命館大学ゲーム研究センターが2016年に発表した「ゲームアーカイブ所蔵館連携に関わる調査事業実施報告書」にも掲載されているのであわせて参照していただきたい。

ライプツィヒ大学東洋学図書館・藤田ダールベルク雅子
チューリッヒ大学アジア・オリエント研究所図書館・神谷信武

Ref:
http://japan-bibliotheken.staatsbibliothek-berlin.de/?lang=ja
https://diggr.link/
http://home.uni-leipzig.de/jgames/ja/イニシアチブについて/
http://www.cero.gr.jp/
https://mediaarts-db.bunka.go.jp/?locale=ja&display_view=sp
https://www.clarin-d.net/en/
https://pegi.info/de/
http://www.mobygames.com/
http://mediag.bunka.go.jp/mediag_wp/wp-content/uploads/2017/04/9_rep_ritsumei.pdf
CA1931