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E1728 - 英国・ドイツでの日本研究司書へのレファレンス研修を終えて

カレントアウェアネス-E

No.291 2015.10.29

 

 E1728

英国・ドイツでの日本研究司書へのレファレンス研修を終えて

 

 国立国会図書館(NDL)では,これまで国際交流基金主催の「日本研究上級司書研修」への協力や「日本研究情報専門家研修」の実施など,海外日本研究司書への国内での研修を行ってきた。しかし,海外へ職員を派遣して行うレファレンス研修は実現できていなかった。このたび,設立20周年記念事業としてドイツの日本資料図書館連絡会“Arbeitskreis Japan-Bibliotheken”から,そして英国の日本専門司書グループ“The Japan Library Group”から研修講師の派遣依頼があり,2015年8月21日に英国図書館(BL)で,28日にドイツのミュンヘン大学図書館で,現地の日本研究司書を対象に「日本情報の調べ方(人文分野)」の研修を行った。あわせて,BL,ドイツの国際交流基金ケルン日本文化会館,ケルン大学日本学科図書館,ボン大学日本学科図書館,バイエルン州立図書館などを見学した。 

・海外日本研究司書とレファレンス

 今回見学した機関では,日本専門司書は,1人もしくは少人数で図書館を運営しており,資料の収集・整理などの傍らレファレンスを行っていた。また,大学図書館では教授が専門書を選書する場合も多く,少ない予算のなかで参考図書の購入まで至らないこともあるという。さらに,日本語資料はアジア関係の専門資料群として,欧米言語の資料とは別置されていることが多い。すなわち,日本語資料というだけで専門分野となり,担当司書は日本に関する専門家としてレファレンスに対応することになるのである。 

 事前に研修参加者に自館のレファレンス事例をたずねたところ,ドイツでは,日本文学のドイツ語訳や仏典の探し方などが挙げられた。これらはリサーチ・ナビの「調べ方案内」のうち「日本文学の翻訳を調べるには」「大蔵経(一切経)」などでも紹介しているように,ある程度レファレンス・ツールが確立されているテーマに当たる。しかし,ツールとなる参考図書の所蔵は日本国内に比べ,少ない。人文・総記系のレファレンスはインターネット上の情報だけでは解決できず,多くの参考図書や研究文献を調査する必要があることが多い。調査の入口となる参考図書が少ないことは,海外日本研究司書のレファレンスに係る環境を考えるうえで重要な問題であろう。

 英国では,漢字表記がわからない場合の人名の調べ方や,日本の専門用語の英訳の方法など,日本国内ではあまり見られない事例が挙げられた。特に外国人が聞き取った日本人名は,アルファベット表記があいまいなことも多く,不確かな情報をもとに調査を進めなければならず,効率がよくない。この点も海外での日本情報に関するレファレンスの問題となろう。 

・NDLにできること

 一律に海外の図書館は所蔵する参考図書が少ないというわけではないだろう。しかし,今回の研修では,海外日本研究司書が扱うレファレンス・ツールの重心がウェブサイトにあるという印象を受けた。人文分野のレファレンスがネット情報だけでは解決できないことは先にも述べたとおりであり,レファレンスに役立つ多くの参考図書と研究文献を所蔵するNDLが,より積極的に海外日本研究機関からの文書レファレンスに回答することでサポートできる点はあると思う。一方で,研修に先がけて参加者から提示された過去のレファレンス事例には,専門用語の日本語訳の作成や,遺品に書かれた漢字の解読など,従来のレファレンスの範囲で対応できないものがあった。これらを解決するのであれば,図書館だけでなく博物館や美術館など専門機関の学芸員や研究者との連携体制が必要であろう。 

 今回の研修は,国内の公共・大学図書館員への研修の内容と同様に,NDLが人文・総記分野の調べものに便利なウェブサイトを集めた「リサーチ・ナビ」の「人文リンク集」と「国立国会図書館デジタルコレクション」を使ったレファレンス事例を解説した。その際,合理的な検索手段がなく,解決できないレファレンスがあるという意識が大切と説明した。しかし,海外日本研究司書は日本の専門家として,レファレンスを必ず解決しなければならないものと捉えているようにも感じ,筆者が考えているレファレンスとは質が異なるように思えた。そういった質の差の解明も,NDLの海外日本研究司書への支援につながると思う。なお,研修後のアンケートでは,今後NDLによる研修で扱うことを希望するテーマに,労働問題や女性問題などの日本の現代社会やポップカルチャー,日本の教育,日本の震災など社会学・教育分野の要望が高かったことも付記しておく。

利用者サービス部人文課・浜田久美子

Ref:
https://rnavi.ndl.go.jp/research_guide/entry/theme-honbun-101113.php
http://rnavi.ndl.go.jp/research_guide/entry/theme-honbun-101024.php
http://www.jpf.go.jp/j/db/index.html
http://japan-bibliotheken.staatsbibliothek-berlin.de/
http://www.jlgweb.org.uk
http://portal.unesco.org/culture/en/ev.php-URL_ID=7810&URL_DO=DO_TOPIC&URL_SECTION=201.htm
https://rnavi.ndl.go.jp/humanities/jinbunlinks.php
http://www.ndl.go.jp/jp/japanesestudies/pdf/knssympo_report.pdf
http://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_8223137_po_geppo1306.pdf?contentNo=1
E1408
浜田久美子. 人文系レファレンスの実践 : 国立国会図書館デジタルコレクションを使ったレファレンス. 図書館雑誌. 2015, 109(9), p. 604-605.