E1408 – シンポジウム「なぜ今,海外日本研究支援か?」<報告>

カレントアウェアネス-E

No.233 2013.03.07

 

 E1408

シンポジウム「なぜ今,海外日本研究支援か?」<報告>

 

 2013年2月20日,国立国会図書館(NDL)東京本館において,日本専門家ワークショップ2013シンポジウム「なぜ今,海外日本研究支援か?」が開催された。146名が参加した。

 「なぜ今,海外日本研究支援か?」 印刷博物館館長であり,日本専門家ワークショップ運営委員会座長を務める樺山紘一氏は,基調講演でその理由を述べた。「クール・ジャパン」という言葉にも表わされるように,近年の海外における日本研究は従来の古典中心から現代文化を含むものに広がっている。「今こそ」新しい発想の支援が求められるという。

 これまでもNDLは国際文化会館,国際交流基金等の機関と協力して海外日本研究機関の司書への研修事業を実施してきた。1996年度に開始したこの事業には,36か国から137名の司書が参加した。そして,2010年度から始まった日本専門家ワークショップでは,日本研究者を対象に加え,実地調査を含めた1週間程度の研修プログラムを行ってきた。本シンポジウムは,過去2年間の成果を総括するとともに,これからの海外日本研究支援がどうあるべきかを考えるものとして開催された。

 基調講演に続き,過去2年間のワークショップ参加者がその成果を紹介した。ベルリン国立図書館のウルズラ・フラッヘ氏は,ドイツにおける日本情報専門家の育成について,正式な課程がなく研修も限られており,このワークショップのような研修機会が重要であることを指摘した。オーストラリアのモナシュ大学図書館の八田綾子氏は,ワークショップ参加の意義として,研修内容に加えて,参加者同士のネットワーク構築を挙げた。参加者2名の報告の後,実業史研究情報センター長の小出いずみ氏が,研究プロセスと資料との関係について解説し,海外の司書をはじめとする日本情報専門家の役割として,図書館で所蔵されていない,日本語の一次資料に関する情報サービスが求められていると述べた。これを受け,上智大学准教授のスヴェン・サーラ氏は,東日本大震災直後の海外メディアによる報道を例に,日本について正しく理解してもらうためには,日本情報専門家による適切な一次情報の提供が重要であると指摘した。

 次に,国内の日本研究関係機関が,各機関で実施している日本研究支援の現状と課題を報告した。まず,国際交流基金日本研究・知的交流部長の清水順一氏により,同基金の活動と,海外における日本研究の動向が解説された。国際日本文化研究センターの江上敏哲氏からは,同センターの活動が紹介された。図書館では,日本関係文献を重点的に集めており,調査活動のためのハブとしての機能を有する一方,海外からのILL受付の強化など図書館としての対外活動の充実が課題であるとした。国際文化会館図書室長の林理恵氏は,同会館が実施している日本研究への支援として,講演会・会議の開催,日本研究図書室の運営,研修事業等の実施という3つの活動を説明した。NDLの佐藤従子氏は,海外への貸出・複写・レファレンスサービス,近代デジタルライブラリー等でのデジタル資料のインターネット提供,書誌・所蔵情報の提供,研修事業を,同館の支援活動として紹介した。

 さらに,シンポジウム前日に関係者により行われた「日本専門家育成戦略会議」の結果が報告された。会議においては,多国間での共同研究等,多様化する日本研究に対する支援のあり方が話し合われた。

 最後は,樺山氏,国際日本文化研究センター所長の小松和彦氏,欧州日本研究協会前会長・ハイデルベルグ大学教授のハラルド・フース氏により,「海外日本研究支援は今後どうあるべきか」と題した座談会が行われた。今後の日本研究とその支援に関して座談会で指摘された課題をまとめると,以下の5点になる。1つめに,日本研究者は専門分野に関する狭くて深い情報を求める一方,日本情報専門家の役割はより一般的な視点に基づくものであり,両者間にはギャップが存在すること。2つめに,日本だけではなく東アジア全体を視野に入れた研究が今後重要であり,そのための支援が必要であること。3つめとして,日本語文献に英語の書誌情報を付与するなど,日本語による研究成果の海外発信が重要であること。4つめに,海外の研究者にとってはとりわけ重要であるデジタルリソースの日本における展開が遅れていること。5つめは,海外の研究者だけではなく,一般の人を視野に入れた情報提供により,日本への関心を増進していく必要があることである。

 シンポジウムを通じて,NDLをはじめとする日本研究関係機関に対して,強い期待が寄せられていることが感じられた。座談会の後にNDL館長の大滝則忠氏と国際文化会館常務理事の降籏高司郎氏が述べたように,新しい形の日本研究支援に,国内の関係機関による協同の取り組みが求められている。

(関西館図書館協力課研修交流係)

Ref:
http://www.ndl.go.jp/jp/event/events/jsw2013.html
http://www.ndl.go.jp/jp/library/training/material/1191503_1486.html
http://www.ndl.go.jp/jp/library/training/material/1194249_1486.html