E1576 – インターネット・フィルタリングの現在:CIPAから10年(米国)

カレントアウェアネス-E

No.261 2014.06.19

 

E1576

インターネット・フィルタリングの現在:CIPAから10年(米国)

 

 2014年6月11日,米国図書館協会(ALA)は,子どもをインターネットから保護する法律(CIPA)の2000年の成立および2003年の合憲判決から約10年経過した現在,改めてその影響について検討するレポート“Fencing Out Knowledge: Impacts of the Children’s Internet Protection Act 10 Years Later”を公開した。CIPAは,公共図書館や学校(学校図書館)がいわゆるE-rate(教育用割引料金)等の補助金を得るための条件として,オンライン上の「猥褻」,「チャイルド・ポルノグラフィー」,未成年者(17歳未満)についてはさらに「未成年者に有害な(harmful to minors)」資料をブロックするために,保護技術手段(technology protection measure:フィルターソフト)を組み込むこと等を規定するものである。CIPAは,憲法で保障された知的自由の権利を脅かすものとして,ALA等により提訴が行われるなど,図書館に大きな影響を与えた(CA1572CA1473等参照)。

 このレポートは,ALAの情報技術政策局(OITP),知的自由局(OIF)がGoogle社の支援を受けて作成したもので,2013年7月31日に開催されたALAの国際シンポジウムでの議論のほか,文献調査,専門家へのインタビュー,オンラインフォーラムでの意見などを検討材料としている。公共図書館と学校におけるインターネットのフィルタリングの影響,有害な情報から子どもを保護するための政策としてのCIPAの有効性,21世紀に向けた教育的,社会的目標の達成におけるCIPAのより広範囲な影響について明らかにすることを目的としている。

 レポートでは,文献に基づき,公共図書館においては,CIPAの規定の範囲を超えて,戦争や大量虐殺から公衆衛生に至るまで,幅広いトピックの情報源がフィルタリングによりブロックされている実例が多く見出されることを指摘している。フィルタリングは,求めに応じて解除が可能であるが,健康に関する情報など,利用者がフィルタリングを外すよう要求しにくいセンシティブな情報については,どのぐらいアクセスが拒否されていたのかを計測することができず,問題の全容は明らかになっていないとされている。図書館にとってフィルタリングがブラックボックスとなっており,どのコンテンツへのアクセスを制限するかを決定するのが,図書館ではなく,ベンダーであるという問題点も改めて指摘されている。

 公共図書館の約6割は,その地域において,無料のコンピュータやインターネットアクセスを提供する唯一の機関であり,地方の図書館では,7割以上までその割合が増加するという。当初から想定されていたとおり,貧困層が多い地域で,情報へのアクセスを保障するための費用を確保するためには,E-Rateを受け入れざるを得ず,公共図書館でしかインターネットにアクセスできない貧困層には,フィルタリングにより制限された情報しか得ることができないという状況となっている。

 学校においても,CIPAの規定よりも過剰なフィルタリングが行われているという。米国学校図書館協会(AASL)の2012年の全国調査によれば,Facebookなどのソーシャル・ネットワーキングのためのウェブサイトがブロックされている割合は88%にものぼり,インスタントメッセージやチャットは74%でブロックされているという。WikipediaやGoogle Docsなどのインタラクティブなサイトもブロックされる傾向があるという。また,ハッキングや著作権侵害,ネットいじめなどへの対処としてフィルタリングを設定する傾向もみられることも指摘されている。

 レポートでは,過剰なフィルタリングが,デジタルリテラシーのスキル獲得を制限することが指摘されており,単純に禁止するだけでなく,生徒が適切にオンライン情報を利用できるよう,スキルを身に付けるための適切な教育を施すことが必要とされると指摘している。

 これらを踏まえ,レポートでは,ALAが取り組むべきことを4点挙げている。すなわち,(1)図書館員がCIPAの目的と範囲を適切に理解し,過剰なフィルタリングの悪影響を把握するよう,学校など,関係者への教育や啓蒙活動を推進する,(2)学校の指導者層を対象としたツールキットを作成し,最新の調査結果やベストプラクティスを提示し,インターネットのフィルタリングやアクセス方針の再検討を促す,(3)啓蒙活動を支援するため,フィルタリングに関する既存の調査や事例研究,デジタルリテラシーの学習プランなどのさまざまな資料を提供するリポジトリを構築する,(4)ソーシャル・メディアのプラットフォームの教育利用,および,学校におけるフィルタリングについての調査を行う,の4点である。

 CIPAの合憲判決から10年が経過し,情報環境が変化しているにも関わらず,フィルタリングの設定自体が一般的なこととして慣れてしまっている現状に,その問題点を改めて指摘し,一石を投じるレポートであろう。

関西館図書館協力課・篠田麻美

Ref:
http://www.ala.org/offices/sites/ala.org.offices/files/content/oitp/publications/issuebriefs/cipa_report.pdf
http://www.ala.org/news/press-releases/2014/06/over-filtering-schools-and-libraries-harms-education-new-ala-report-finds
http://current.ndl.go.jp/node/14438
CA1473
CA1572
E098
E220
E499