編集企画員を務めた12年間を振り返って / 森山光良

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カレントアウェアネス
No.340 2019年6月20日

 

編集企画員を務めた12年間を振り返って

日本図書館協会認定司書1029号:森山光良(もりやまみつよし)

 

1. はじめに

 筆者が『カレントアウェアネス』(CA)の編集企画員に就いたのは2002年5月である。当時、編集企画会議の場である国立国会図書館(NDL)の関西館では、開館準備が佳境に入り、10月7日の開館日に向けて人や物が目まぐるしく動いていた。独特の熱気と緊張感が伝わってきたのを昨日のように思い出す。さまざまな事業が新規に立ち上がったり再構築されたりした中に、筆者が関わったCAの事業もあった。1期2年間の任期という依頼に応じたが、気がつけば 2014年4月まで務めていた。ここではその12年間を振り返る。

 

2. 公共図書館とカレントアウェアネス・ポータル

 筆者は2019年3月まで地域の公共図書館(岡山県立図書館)に勤務してきた。地域開催の図書館員向け研修会の講師を探す際に、カレントアウェアネス・ポータル(CAポータル)でテーマ検索すると、実務者や研究者の情報を取得することができ重宝したものである。そうした活用法やメールマガジン『カレントアウェアネス-E』の受信も含め、地域の公共図書館員にとってCAポータルは、ウェブ環境で気軽に国内外の図書館の動向を知る主要な情報源として定着している。類似の機能を持つ代表例に、日本図書館協会の「WEB 図書館雑誌」およびメールマガジンがあり、CAポータルと補完し合う。ただし、CAポータルは日本図書館協会の取り組みに比べ、会員制でなく不特定多数に無料で公開されたものであるとともに、個別情報に対する検索機能がある(検索エンジンの検索対象にもなっている)等の特性が際立つ。

 以上の情報発信機能には、地域の公共図書館が行う広報活動の一部を、補完あるいは再編集して発信する機能も含む。事務局は日々、多種多様な方法で内外の動向情報を入手し、付加価値を付けて発信する作業を行っている。

 

3. 公共図書館のニーズの反映

 ところで、在任期間 12 年間という予想外の長さの原因は、自分の後任をなかなか見つけることができなかったからである。CA の役割のうち、海外事情の紹介は相当の比重を占めることから、編集企画員にも必然的にその最新動向を海外誌等で入手することが求められる。日常業務で外国語文献との接点の多い大学図書館員に比べ、公共図書館員は相対的に少ない。後任として期待した公共図書館員候補に、後述する編集企画員業務を説明すると尻込みされたものである。英語の壁を実感する12 年間であった。

 この事情はさらに、編集企画員の人員構成にも影響している。つまり、大学教員や大学図書館を出身母体とする者が圧倒的に多く、公共図書館を出身母体とする者はごく限られ、いつもほぼ1名といった状況であった。ちなみに、「ほぼ」という表現については、公共図書館からNDLに出向で来ている職員が加わることが時々あったからであり、最終的に私の後任は出向経験のある公共図書館の職員の方となった。こうした人員構成の影響として、編集企画会議で公共図書館の立場から推奨テーマ案を力説しても、関心を持たれず廃案になったということも少なくなかった。コミュニティが異なれば意識も異なるので致し方ないが、いずれにしても、今後に残された課題として、編集企画員に占める公共図書館関係者の割合を高めることが挙げられる。以上の取り組みによって、公共図書館関係者にとっての利便性、満足度も高まるのではないかと期待する。直近のアンケート調査によれば(1)、CA ポータルの読者層に占める公共図書館関係者の割合は8.3%に過ぎなかった。アンケート回答での自己申告の割合に過ぎないが、公共図書館関係者の絶対数から考えると伸びる余地のある数値であろう。

 

4. 編集企画員業務の実際

 以上のような経緯を経て後任への業務引継を行ったが、以下では当時作成した引継文書を基に、編集企画員業務を紹介する。主な業務として、①編集企画会議への出席、②それに先立つ記事候補の洗い出しがある。

 

4.1. 編集企画会議への出席

 編集企画会議は四半期ごとに開催される。基本的にCA(年4回刊行)の刊行に向けた会議である。具体的には、6月、9月、12月、3月のそれぞれの月のうち、会議構成メンバーの都合の合う日の14時半から17時までの2時間半である。会議では、①事務局からの進捗状況の報告、②最新刊行号の編集企画員による講評、③今後刊行号の記事候補の協議等がある。②については、事前に読んでおき、掲載文献の良かった点や問題点、編集全般における問題点等を指摘する。

 会議の主要議題となるのは③である。編集企画員は次節で具体的に挙げる要領で、事前に記事候補の洗い出しをしておき、事務局に提出する。編集企画会議の究極の目的は、とにかく執筆候補者を探し、承諾を得る道筋を付けることにある。ただし、会議の流れによっては、編集企画員にもブーメランが返ってきて、執筆候補者としての水が向けられることもある。緊張感あふれる攻防の12年間でもあった。

 

4.2. 記事候補の洗い出し

 記事候補の洗い出しについては、日頃から外国語文献に慣れ親しんでいれば容易なのであるが、そうでない筆者は意識的に編集企画会議向けに探し出す必要があった。記事候補選定用の電子ジャーナルのリンク集(30誌程度)を、自分なりに作成するとともに、随時入れ替え更新しておき、会議前に一通りチェックおよびピックアップした。これによって、最近の動向を把握した。次に、記事としてまとまる見込みのあるテーマについて、EBSCOhostのデータベースでさらに調べ、参考文献の量的拡充を図った。以上の調査成果を記事候補案の様式にまとめて、事務局に事前送付するという流れであった。様式の項目は、①仮の記事タイトル、②記事種別(一般記事、動向レビュー、研究文献レビューの3種)、③内容説明、④参考文献、⑤執筆候補者、⑥備考、⑦提案者である。以上の作業のために、筆者の場合、会議開催日の2週間前から3週間前の休日の1日を当てていた。

 

5. 課題~「英語の壁」越えに向けて

 海外の文献で記事候補の洗い出しをする際にいつも残念に感じていたのは、日本の図書館の動向を紹介したものや、日本人著者の文献にほとんど出合わないことであった。筆者はこの状況を、日本の図書館関係者、研究者等が、日本語以外の言語(主に英語)で、海外の雑誌、学術雑誌等への投稿をあまり行っていないことを示すものと解釈していた。すなわち、ここでも英語の壁を実感した次第である。

 その点で、CAポータル英語版が2013年11月から公開されたのは画期的であった(2)。現在は対象となる範囲が限定されるものの、日本の図書館の動向を紹介する取り組みが、今後進展することを期待する。

 ただし、同取り組みだけに終わってはならない。上述したようにあくまで筆者の印象に過ぎないが、他の分野に比べて図書館情報学分野では、日本の図書館関係者、研究者等が、電子ジャーナル、紙媒体を問わず、海外の雑誌、学術誌への日本語以外の言語(主に英語)で論文や記事を投稿、寄稿することは相対的に少ないように感じる。我々関係者は、意識して一層の奮起を図る必要がある。

 

(1) “2018年度カレントアウェアネス・ポータル利用者アンケートの結果を公開しました”. 国立国会図書館. 2019-05-13.
http://current.ndl.go.jp/node/38143,(参照 2019-05-13).

(2) “カレントアウェアネス・ポータルの英語版を公開しました”. 国立国会図書館. 2013-11-19.
http://current.ndl.go.jp/node/24878,(参照 2019-05-13).

[受理:2019-05-13]

 


森山光良. 編集企画員を務めた12年間を振り返って. カレントアウェアネス. 2019, (340), p. 8-9.
http://current.ndl.go.jp/ca_no340_moriyama
DOI:
https://doi.org/10.11501/11299453

Moriyama Mitsuyoshi
Looking Back on the 12 Years That I Worked as an Editorial Planner