CA1870 - 動向レビュー:ACRL高等教育のための情報リテラシーの「枠組み」 ―白熱する議論に向けて― / 小田光宏

PDFファイルはこちら

カレントアウェアネス
No.327 2016年3月20日

 

CA1870

動向レビュー

 

ACRL高等教育のための情報リテラシーの「枠組み」 -白熱する議論に向けて-

青山学院大学教育人間科学部:小田光宏(おだ みつひろ)

 

1 「枠組み」の登場

 2015年2月に、米国の大学・研究図書館協会(ACRL)は、2000年に制定した「高等教育のための情報リテラシー能力基準(Information Literacy Competency Standards for Higher Education)」(1)(以下、「能力基準」と記す)の改訂版に相当するものとして、「高等教育のための情報リテラシーの枠組み(Framework for Information Literacy for Higher Education)」(2)(以下、「枠組み」と記す)を策定した。本稿は、この「枠組み」の概要を紹介するとともに、特徴となる性格を指摘し、今後の議論の素材とするものである。

 ただし、正確に言えば、「枠組み」は「能力基準」の内容を引き継ぐものではあるが、「基準」としての性格を有するものとはみなしにくい。すなわち、「改訂」という位置づけをすることは難しい。それゆえ、「能力基準」の概要についても適宜触れ、「枠組み」との違いを浮き彫りにすることを試みる。

 「能力基準」改訂の過程は、おおむね次のようになる。すなわち、ACRLは、2011年7月に「情報リテラシー能力基準の点検タスクフォース(Information Literacy Competency Standards Review Task Force)」を組織し、「能力基準」の取り扱いに関して検討することを求めた。およそ1年の検討の結果、2012年6月にタスクフォースは、「能力基準」は改訂すべきであるという結論を提示した。

 この結論に基づき,同年8月には、「高等教育のための情報リテラシー能力基準タスクフォース(ACRL Information Literacy Competency Standards for Higher Education Task Force)」が発足し、改訂作業が進められた。このタスクフォースは、2014年2月及び4月に、それぞれ草案第1部、草案第2部を公開した。また、草案に対するパブリックコメントが、大学・研究図書館関係者から募られるとともに、同年6月の米国図書館協会(ALA)年次大会においても草案が取り上げられ、幅広く意見が求められた。こうしたプロセスを経て、2015年1月に最終版が整えられ、同協会の情報リテラシー基準の検討委員会に諮られた上で、理事会での承認手続がなされた。

 なお、「能力基準」の改訂が意図された最大の事由は、「能力基準」制定以降に生じた環境の変化であると言えよう。学術・研究図書館を取り巻く社会的情勢、デジタルネットワーク技術、高等教育における教育方法や教育メディアなど様々な関係要因が、この15年間で大きく変容している。こうした要因により、情報リテラシーの位置づけとその能力の見直しを余儀なくされ、改訂が促されたと言えよう。

 

2 「枠組み」を捉える視点

 「能力基準」からの展開を視野に入れて「枠組み」を考察するに当たって、筆者は5つの着眼点(キーワード)を設定した。すなわち、①状況依存、②教育活動、③メタ認知、④態度的能力、⑤学術研究である。これらは、前述のタスクフォースのレビュー記事(3)や関係する領域別の情報リテラシー基準(4)を渉猟・確認する過程で、認識したものである。とりわけ、兵藤(5)の指摘は、「枠組み」の検討が進められている時期に執筆されたことによる制約はあるものの、その特性を捉える視点を明快に示している。

 

①状況依存

 これは、「情報リテラシーとは何か」という問いかけとも重なる。情報リテラシーの一般的な能力基準そのものではなく、それぞれの状況(研究領域や活用の場など)に応じて、情報リテラシーの能力を展開して位置づけることが目指される可能性が高いということである。言い換えれば、情報リテラシーの形成プロセスの一般的なモデルや、汎用的・標準的な能力基準の提示は難しいということである。もちろん、これは、米国の高等教育における多様な実践状況に基づく判断であろう。ACRLは、「能力基準」制定後の十数年間に、前述のような領域別の情報リテラシー基準を作成してきた。これは、情報リテラシーの状況依存という側面を、まさしく表している。

 

②教育活動

 日本において、「能力基準」や「枠組み」を捉える際に「偏り」が生じるおそれがあると考え、あえてこれを設定した。「枠組み」そのものは、ACRLが制定したものの、図書館向けの旧来の基準にとどまるものではないと認識したからである。すなわち、「枠組み」の各所に見られることであるが、大学図書館が高等教育に携わる様々な立場の者と協同し、この「枠組み」に沿ったプログラムを高等教育機関として実施することが意図されているのである。したがって、「枠組み」に基づく活動は、高等教育機関における教育活動の一環と認識する方が妥当と考えられる。このように捉えると、教育学あるいは学習科学の知見を活用して、「枠組み」の論理を補強していることもうなずける。

 

③メタ認知

 これは、情報リテラシーに関係する個別の知識・技術が、示されるものではないことを意味している。個別の知識・技術とは、例えば、情報の探し方、活用のしかたといったものを指す。メタ認知的な側面からみると、こうした個別の知識・技術を修得する目的を意識し、それらの修得方法や応用手法自体についての知識・技術の修得が、「枠組み」が取り扱うものの核になるということである。

 

④態度的能力

 コンピテンシーの三要素(知識、技術、態度)の一つである、「態度」への着目である。すなわち、情報リテラシーの能力を修得・応用する際に、その主体(ここでは、高等教育機関の学生)が形成すべき資質や姿勢である。兵藤の表現を借りるならば、情意面の強調ということにもなる。

 

⑤学術研究

 具体的には、学術研究と情報リテラシーの接点についてである。高等教育の情報リテラシーを研究活動と関連づけた場合に、学術コミュニケーションに対する認識と理解が、情報リテラシー能力の育成の焦点となることが期待される。「能力基準」以降、高等教育における情報リテラシーについては、様々な学術領域の特性を踏まえて議論が行われ、領域別の情報リテラシー基準の策定が進められている。

 

3 「枠組み」の特徴

 「能力基準」は、5つの情報リテラシーの能力に関する基準を示した上で、それぞれに達成指標(Performance Indicators)を設定している。達成指標は合計22あり、また、全体で87に及ぶ成果(Outcomes)をそれぞれの達成指標で提示している。このように、「能力基準」は、基準、達成指標、成果という構成で組み立てられていた。

 一方、「枠組み」で掲げられているのは、以下の6つのコンセプトである。

 

 オーソリティは作られ、状況に基づいている
(Authority is Constructed and Contextual)

 プロセスとしての情報創成
(Information Creation as a Process)

 情報は価値を有する
(Information has Value)

 問いかけとしての研究活動
(Research as Inquiry)

 会話としての学術活動
(Scholarship as Conversation)

 戦略的調査活動としての探索
(Searching as Strategic Exploration)

 

 各コンセプトには要点が付され、さらにそれを敷衍した解説文が続く。その上で、「知識と実践(Knowledge Practices)」として、修得すべき知識・技術が列挙されている。また、「心構え(Dispositions)」(6)が示されている。ちなみに、6コンセプト全体で、「知識と実践」は45、「心構え」は38が記されている。

 「枠組み」の最大の特徴の一つは、上記の6コンセプトに順序はまったくなく、アルファベット順に並べられていることである。すなわち、6コンセプトをどのように組み立てて、情報リテラシー能力を育成するプログラムにするかは、各高等教育機関(大学図書館を含む)に委ねられている。情報リテラシーは、各分野の状況に依存しているがゆえに、共通の基準を提示しても効果的ではないことを、ここでは表しているとみなせよう。また、高等教育機関における多様な教育活動を許容していると理解することもできる。さらに、「能力基準」は、ある種のガイドラインまたはマニュアルとしての活用が可能であったと思われるが、「枠組み」においては、そうしたものと一線を画すことが意図されたとも想定できる。

 もう一つの大きな特徴は、「心構え」を、情報リテラシー能力として明記したことである。知識・技術とともに、コンピテンシーのもう一つの要素である「態度」を取り入れることは、人的資源開発の分野において潮流となって久しい。教育学や学習科学の成果を踏まえて「枠組み」の改訂作業が進められている以上、これは十分に予測できた。しかし、筆者が目を見張ったのは、その範囲が、6コンセプト全体で38にも及んでいたことである。「知識と実践」の45と比較しても、その比重がいかに大きいかを意識しなくてはならない。

 また、個別のコンセプトの内容を確認すると、前述の着眼点に関係する内容が各所に現れている。

 

・オーソリティは作られ、状況に基づいている
 情報資源は作成者の専門性と信頼性を反映したものであり、その情報のニーズと、その情報が用いられる文脈に基づいて評価されるとする。それは、それぞれのコミュニティにおいて、オーソリティとなるものや、オーソリティのレベルは異なるという考え方を基調にしている。ここでは、「文脈に基づく(contextual)」という用語を用いているが、それは情報リテラシー能力が、コミュニティの状況に依存するという捉え方をしていることになる。

・プロセスとしての情報創成
 情報の探索、生産、伝達のプロセスが多様であり、その結果として生み出された情報そのものも、プロセスの相違によってまた異なることを意識している。ただし、プロセスに着目しているものの、標準的なプロセス、あるいは、プロセスモデルを提示することを意図してはいない。むしろ、状況に応じた様々なプロセスを的確に捉える能力を修得すること、すなわち、メタ認知的な考え方が強調されていると言えよう。また、そうした能力の修得を促進することが、高等教育機関において課題として存在していることを表している。

・情報は価値を有する
 情報がそれぞれの文脈において、多様な役割を果たすことを前提に、その価値を認識し、尊重することを掲げている。また、情報が法的ないし社会経済的利益を有することに触れ、著作権をはじめ学術コミュニティにおいて扱われる諸権利への認識を強調している。

・問いかけとしての研究活動
 学術研究を、探究行為(問いかけに基づく行動)の反復・連続と位置づけ、広い視野に立って展開することを求めている。そこに示されている知識・技術も、個別具体的なものではなく、探求行為全体を取り扱うためのメタ認知的なものになっている。

・会話としての学術活動
 永続的な会話(言葉によるやりとり)を、学術コミュニティの核としている。「会話(conversation)」は、情報の交換とみなされるため、ここでは、学術情報の流通に関する能力の育成を扱っていると言えよう。

・戦略的調査活動としての探索
 情報の探索活動は、行きつ戻りつして行われることから、柔軟な姿勢が必要としている。また、そうした特性を有するからこそ、全体を俯瞰しながら、戦略的に調査を行う能力の育成が強調されている。

 

4 「枠組み」の課題

 前述したように、「枠組み」は、ガイドラインやマニュアルではない。また、「能力基準」との性質の違いが大きい。それゆえ、米国の高等教育の現場(大学図書館を含む)では、少なからぬ動揺が生じたものと推測される。実践の場において、各機関の状況に応じた情報リテラシー能力育成の教育プログラムを独自に組み立てることは、容易とは言えないからである。この点に着目すると、「枠組み」を現場において適用するための「ツール」に相当するものの開発が、今後の課題として浮上する。しかも、状況に応じた多様なツールが必要とされる。

 このとき、「枠組み」の付録の存在を見逃せないことに気づく。「枠組み」を活用する際の一般的な手順を示すとともに、高等教育機関の教員集団(faculty)と管理者(administrators)に向けて、「枠組み」の取り扱いに関する手立てを、提起しているからである。もちろん、それはマニュアルではない。しかし、実践のためのヒントとして活かすことができよう。

 一方、日本の現状に目を移すと、国立大学図書館協会教育学習支援検討特別委員会がほぼ同時期に公表した『高等教育のための情報リテラシー基準』(E1712参照)(7)と、「枠組み」との隔たりが際立つ。この基準は、情報リテラシー能力の循環的(螺旋的)育成を希求するプロセスモデルを基調とし、標準的かつ個別具体的な情報リテラシー能力を示すことが中心になっていると考えられる。これは、「枠組み」がメタ認知の考え方に徹していることと対照的である。

 彼我の事情の相違を考慮に入れたとしても、両者のベクトルがあまりにも異なっていることは、極めて興味深いとともに、戸惑いの感を禁じ得ない。とりわけ、「枠組み」が理論的考察の成果に基づいているのに対し、日本においては「基準」という性質を超えて,大学図書館での適用措置に強く傾斜しており、向かおうとしている方向が大きく異なっているからである。今後は、欧州の基準(8)も含めて、それぞれの性格と有効性に関して、考察することが強く求められよう。

 

(1) Association of College and Research Libraries. “Information Literacy Competency Standards for Higher Education”. 2000, 16 p.
http://www.ala.org/acrl/sites/ala.org.acrl/files/content/standards/standards.pdf#search='Information+Literacy+Competency+Standards+for+Higher+Education', (accessed 2016-01-22).
なお、下記のURLに、日本語訳がある。
http://www.ala.org/acrl/sites/ala.org.acrl/files/content/standards/InfoLiteracy-Japanese.pdf#search='ACRL%E9%AB%98%E7%AD%89%E6%95%99%E8%82%B2%E3%81%AE%E3%81%9F%E3%82%81%E3%81%AE%E6%83%85%E5%A0%B1%E3%83%AA%E3%83%86%E3%83%A9%E3%82%B7%E3%83%BC%E8%83%BD%E5%8A%9B%E5%9F%BA%E6%BA%96', (accessed 2016-01-22).

(2) Association of College and Research Libraries. “Framework for Information Literacy for Higher Education”. 2015.
http://www.ala.org/acrl/sites/ala.org.acrl/files/content/issues/infolit/Framework_ILHE.pdf, (accessed 2016-01-22).

(3) ACRL Information Literacy Competency Standards Review Task Force. “Task Force Recommendations”. 2012.
http://www.ala.org/acrl/sites/ala.org.acrl/files/content/standards/ils_recomm.pdf, (accessed 2016-01-22).

(4) 下記の基準がある。
Association of College and Research Libraries. “Information Literacy Standards for Science and Engineering/Technology”. 2006.
http://www.ala.org/acrl/standards/infolitscitech, (accessed 2016-01-22).
Association of College and Research Libraries. “Information Literacy Standards for Anthropology and Sociology Students”. 2008.
http://www.ala.org/acrl/standards/anthro_soc_standards, (accessed 2016-01-22).
Association of College and Research Libraries. “Information Literacy Standards for Teacher Education”. 2011.
http://www.ala.org/acrl/sites/ala.org.acrl/files/content/standards/ilstandards_te.pdf, (accessed 2016-01-22).
Association of College and Research Libraries. “Information Literacy Competency Standards for Journalism Students and Professionals”. 2011.
http://www.ala.org/acrl/sites/ala.org.acrl/files/content/standards/il_journalism.pdf, (accessed 2016-01-22).
Association of College and Research Libraries. “Information Literacy Competency Standards for Nursing”. 2013.
http://www.ala.org/acrl/standards/nursing, (accessed 2016-01-22).

(5) 兵藤健志. 米国における情報リテラシー教育の現状と展望. 情報の科学と技術. 2014, 64(1), p. 15-21.
http://ci.nii.ac.jp/naid/110009686622, (参照 2016-01-22).

(6) “Disposition”は、「心性」「情意」「資質」などとも訳されるが、比較的平易な用語を原文が用いていることを考慮し、「心構え」と訳出した。

(7) 国立大学図書館協会教育学習支援検討特別委員会. “高等教育のための情報リテラシー基準2015年版”. 2015, 26 p.
http://www.janul.jp/j/projects/sftl/sftl201503b.pdf, (accessed 2016-01-22).

(8) 欧州の基準としては、国際図書館連盟(IFLA)の情報リテラシー分科会が作成した下記のガイドラインがある。
“Guidelines on Information Literacy for Lifelong Learning”.
http://www.ifla.org/publications/guidelines-on-information-literacy-for-lifelong-learning?og=81, (accessed 2016-01-22).
“Guidelines for Information Literacy assessment”.
http://www.ifla.org/publications/guidelines-for-information-literacy-assessment?og=81, (accessed 2016-01-22).

 

[受理:2016-02-08]

 


小田光宏. ACRL高等教育のための情報リテラシーの「枠組み」 -白熱する議論に向けて-. カレントアウェアネス. 2016, (327), CA1870, p. 24-27.
http://current.ndl.go.jp/ca1870
DOI:
http://doi.org/10.11501/9917292

Oda Mitsuhiro
Nature and Significance of the Association of College and Research Libraries (ACRL) “Framework” of Information Literacy for Higher Education: Toward a heated Discussion