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カレントアウェアネス
No.293 2007年9月20日
CA1635
韓国の図書館関連法規の最新動向
はじめに
2006年は韓国の図書館界の歴史に大きな里程標として残るものと思われる。1つは8月のIFLAソウル大会(E546,CA1609,CA1610,CA1611参照)の大成功であり,もう1つは9月の図書館法改正である。さらに大きな動きとして,図書館や読書問題に関心を持つ市民団体やマスメディアの積極的な活動がある。例えば2000年度から行われている,民間テレビ局と市民団体「本を読む社会作り国民運動(Citizen Action for Reading Culture)」の読書推進活動,「奇跡の図書館(Miracle Library)」,「小さな図書館(Small Library)」などの全国的なプログラムと,朝鮮日報の「リビングを書斎に」運動など主要新聞社が推進している読書キャンペーンである。このような市民中心の活発な活動は,読書,公共図書館,特に児童図書館環境に関する社会認識の画期的変化に大きく貢献した。韓国図書館協会を始めとする図書館団体も主管・協力団体として参加し,その効果は大きい。こうした動きは地方自治体の図書館設立と発展に対する関心を触発し,国・民間の財政投資拡大により,多くの図書館が設立された。
また,各図書館は国民に対するサービス強化の一環として,開館時間を延長するなど自ら努力している。2006年11月から国立中央図書館は夜間・週末(平日は午後11時,土・日曜も午後6時まで)開館を実施し,全国16の市・道の地域代表図書館も延長開館を実施している。文化観光部は夜間開館拡大運営の成果を評価し,2007年からは全国規模に拡大する予定である。これにより新しい雇用機会を創出し,国民の文化施設利用を積極的に支援する方針がある。
このような図書館分野における社会・市民の運動,法律の整備および国際的な成功は,知識情報基盤社会において良いサービスを期待している国民に対し,図書館が新しい図書館文化を創り出し,新しい社会的役割を担うための図書館改革を試みる重要なチャンスであるとして,その主役である図書館界の使命感と熱意が高まっている。
新「図書館法」の概要
韓国における図書館情報に関連する主な法律としては,図書館および読書振興法(1994年)(CA1018参照),個人情報保護法(1994年),情報化促進基本法(1995年),情報公開法(1996年),記録物管理法(1999年),平生教育法(生涯学習法,1999年),知識情報資源管理法(2000年)などがあるが,ここでは,2006年に制定された図書館法の成立経緯,主要内容,推進方向について概観する。
2006年9月,2005年6月に国会に提出された「図書館および読書振興法の全面改定に関する法律案」(E376,E429,CA1578参照)が本会議で修正可決され,10月4日に公布された。この改正法の基本原則は図書館法と読書振興法を分けることである。新「図書館法」は図書館に関する基本法としての性格を明確にし,国民の情報アクセス権と知る権利を保障するために,図書館の社会的責任と役割を明示している。総則(第1章),図書館政策樹立および推進体制(第2章),国立中央図書館(第3章),公共図書館(第4章),大学図書館(第5章),学校図書館(第6章),専門図書館(第7章),知識情報格差の解消(第8章),補則(第9章),附則から成る。
この法改正により,図書館政策の樹立および推進を担う組織として「図書館情報政策委員会」が大統領直属で設立された。委員会は5年毎に「図書館発展総合計画」を樹立し,それに基づいて中央行政機関と市・道など地方自治体が毎年,年次計画を樹立・施行することになった。また,図書館行政の地方分権を強化するため,市・道に地域代表図書館を設立・運営することとし,「地方図書館情報サービス委員会」を設け,自律的な図書館政策推進の基盤を作った。さらに,公共図書館の範囲を再規定した。従来は「専門・特殊図書館」として公共図書館とは別に位置づけられていた特殊図書館(障害者・病院・兵営・刑務所・文庫など)と,新しい文化施設,文化情報センター,平生学習館などの類似名称・機能の施設について,公共図書館に含むように法律の適用範囲を拡大し,名実ともに図書館サービスをすべての国民に提供できるようにした。その他,国立中央図書館に図書館研究所と国立障害者図書館支援センターを設置し,図書館分野に関する研究と知識情報格差解消のための支援業務を担当できるようにした。
関連する法規の制定
2007年4月,図書館法施行に伴い,図書館法施行令(大統領令)および図書館法施行規則(文化観光部令)が公布された。
また,図書館および読書振興法から分離された「読書文化振興法」も2006年12月に制定され,2007年4月に施行された。文化観光部は2007年を読書振興の元年とし,「本を読む社会」をつくるための読書振興政策を推進する計画である。さらに,2006年12月には著作権法改正案が国会で可決され,公布の6か月後(2007年6月29日)から施行予定である。
このほか,2007年5月に文化観光部とその所属機関の職制施行規則の改正も行われた(文化観光部令)。2004年11月に,文化観光部はこれまで図書館および博物館の行政を担当してきた「図書館・博物館課」を廃止し,国立中央図書館に「図書館政策課」を新設した。今回の改正で,図書館政策の機能は2年半ぶりに国立中央図書館から文化観光部に戻り,図書館情報政策企画団(政策企画,制度改善,政策調整の3チーム)が新設された。図書館政策課は図書館運営協力課と名称変更された。読書振興行政も国立中央図書館から文化観光部の出版産業チームに移管された。
図書館情報政策委員会
図書館情報関連の政策機関の設置は図書館界の宿願であった。過去には,図書館および読書振興法に基づく「図書館及び読書振興委員会」(文化観光部長官の諮問機関)があったが,2000年に廃止された。また2002年10月には,文化観光部訓令に基づく「国家図書館政策諮問委員会」が設置されたが,他の部署との調整機能をもたなかった。今回の新図書館法で図書館政策に関する主要事項を樹立・審議・調整する機関として設置された「図書館情報政策委員会」は,原案は国務総理所属であったが,大統領直属の委員会として上向きに修正された。委員会は,大統領が委嘱する委員長,文化観光部長官が務める副委員長以下,大統領令で定める関係中央行政機関の長,図書館関係の学識経験者,あわせて30人以内で構成される。また,委員会の事務を支援するために事務機構も設置するとなっている。
2007年6月に構成された委員会(26人)では,委員長として韓相完・延世大学文献情報学科名誉教授・韓国図書館協会会長が委嘱された。法律による当然職(官職指定の委員)は14人で,財政経済部,教育人的資源部,科学技術部,情報通信部,国防部,法務部,行政自治部,文化観光部,保健福祉部,女性家族部,建設交通部,企画予算処長官,国家青少年委員会委員長,大統領首席秘書官である。図書館関係者では,韓国図書館協会の新会長(金泰承・京畿大学文献情報学科教授・前副会長)ほか,6人の文献情報学教授等が含まれている。委員会には図書館政策に関する全面的・実際的な権限が与えられており,委員長は委員会の会議結果および図書館政策と施策の主要進行状況を定期的に大統領に報告する。また委員会は必要な場合関係中央行政機関と特別市長・広域市長・道の長が出席する評価報告会を開催することができる,と規定されている。
おわりに
韓国では,今回の改正によって図書館法が整備されたことにより,図書館発展のための環境はある程度整ったといえる。しかし,法的条件の整備は図書館発展のための前提の一つに過ぎず,これから政府の関係当局,図書館界,人的・技術的支援機関となる大学および関連学・協会の間での協力を強めることが不可欠である。図書館の重要性が社会的に認知され,広く浸透しており,また韓国図書館協会を中心とする関連専門学・協会の活動・協力も積極かつ緊密である今は,韓国図書館界にとって発展・変化へのチャンスであるが,それができないと危機にもなりかねない。韓国図書館界が一致団結し,この大きな転機を成功へと導くことを願う。
駿河台大学文化情報学部:金 容媛(きむ よんうぉん)
Ref.
金容媛. 韓国における図書館情報政策:法的側面を中心として. 文化情報学:駿河台大学文化情報学紀要. 1996, 3(1), p.24-45.
金容媛. 韓国における知識情報資源管理の政策と現況. 文化情報学:駿河台大学文化情報学紀要. 2006, 13(1), p.1-14. http://www.surugadai.ac.jp/sogo/media/bulletin/Bunjo13-01.pdf, (参照2007-07-12).
金容媛. 特集, 韓国のいま:韓国における図書館情報政策. 情報の科学と技術. 2007, 57(1), p.2-8. http://ci.nii.ac.jp/naid/110006152406/,( 参照 2007-07-12)
金容媛. 韓国の図書館関連法規の最新動向. カレントアウェアネス. (293), 2007, p.4-6.
http://current.ndl.go.jp/ca1635