CA1609 – IFLAソウル大会参加報告‐レファレンス・サービスをめぐって‐ / 北川知子

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カレントアウェアネス
No.290 2006年12月20日

 

CA1609

 

IFLAソウル大会参加報告
‐レファレンス・サービスをめぐって‐

 

 筆者は,2006年8月16日から24日まで,韓国のソウルにおいて開催された第72回IFLA大会及びサテライトミーティングに参加した。本稿では レファレンス・サービス関連のセッションを中心に報告する。

 

レファレンス・サービスと収集,ドキュメントデリバリーの緊密な関係

 IFLAソウル大会に先立ち,2006年8月16日から18日まで,韓国国立子ども青少年図書館において,IFLAの収集・蔵書構築分科会,ドキュメントデリバリー・資源共有分科会,レファレンス・情報サービス分科会の三分科会が主催するIFLAソウル大会サテライトミーティング「デジタル時代のリソース・シェアリング,レファレンス,蔵書構築―実践的アプローチ」が開催された(1)。米国,フランス,イタリア,メキシコ,ロシア,フィンランド,デンマーク,シンガポール,中国,ニュージーランド,韓国,日本など,様々な国から参加者が集い,その数はおよそ60名にのぼった。

 最初の「電子情報のマネジメント」セッションでは,電子情報の選定やライセンス契約をめぐる問題,担当者に求められるスキル,電子情報のマネジメントに必要な統計データなどについて報告が行われた。

 続く「資源共有とドキュメントデリバリー」セッションでは,韓国の公共図書館の貸出しサービスについての事例報告や,韓国科学技術情報院における電子情報提供サービスの現状と問題点の報告,ドキュメントデリバリーとレファレンス・サービスとの接点をめぐる報告などが行われた。

 最後のレファレンス・情報サービス分科会のセッションでは,IFLAデジタル・レファレンス・ガイドラインとその活用法,大学図書館における文献情報管理ソフトウェアの提供やチャット・サービス実験などについての報告が行われた。このセッションでは,当館のレファレンス協同データベース事業についても報告を行った。

 サテライトミーティングでは,三分科会の報告や議論を通して,収集,資料提供,レファレンス・サービスという図書館を代表する三つの機能の密接な関係を再認識することができた。参加者からも今後の定期的な開催を期待する声が多かった(2)

 

レファレンス・サービスのクォリティ

 IFLAソウル大会では,8月21日に「デジタル・レファレンス・サービスのクォリティ」と題したセッションが行われ,レファレンス・サービスのクォリティの向上や測定方法をめぐって議論が行われた(3)

 報告者に共通していたのは,質の高いレファレンス・サービスを行うためには,利用者に対する詳細なインタビューが不可欠,という認識である。したがって,Eメールやウェブフォームを使った非同期式のサービスよりも,対話によって利用者のニーズを的確に把握できるチャット・レファレンスなどの同期式のサービスが重視されていた。同期式のサービスには非同期式以上に人的資源が必要であるため,協同レファレンス・サービスの仕組が活用されている。QuestionPoint(CA1476参照)がその典型と言えるが,このセッションに参加したQuestionPointの報告者からは,回答のクォリティの維持・向上のための応対マニュアルや,クォリティ・チームによる回答レビューについての報告があった(4)。クォリティ・チームによる回答レビューは,利用者に対するアンケート調査とともにサービスのクォリティを測る手段のひとつである。その他,QuestionPointに寄せられる質問数,リピートユーザー数,待ち時間や応答時間の長さ,参加館数なども,クォリティを数量的に測る指標として用いられている。

 

インターネット時代を生き抜くためのマーケティング活動

 8月22日には,レファレンス・情報サービス分科会のセッション「現代の図書館におけるレファレンス・サービスのマーケティング」(5)が行われた。

 マーケティング戦略を採り入れ,大幅な利用者増に成功した市立図書館や,文書館や博物館と連携してマーケティング活動を行っている図書館からの事例報告のほか,マーケティングの7つの要素を用いて,公共,大学,専門,学校図書館のパフォーマンスを分析した研究などが報告された。また,マーケティングを行ううえで,どのような技能がレファレンス・ライブラリアンに求められるのかを分析した報告では,コミュニケーション能力,ITのスキル,人間関係を円滑に進める能力,ニーズを把握する力等が重視されていた。

 図書館におけるマーケティング活動は,英米を中心に1980年代初頭から始まっており,図書館サービスの改善・推進のためにマーケティング戦略を導入するという考え方自体,決して目新しいものではない。しかし,今回,レファレンス・サービスの分科会のテーマとしてマーケティングが選ばれたことや,図書館をめぐる環境の変化によって,図書館はもはや唯一の情報提供者ではなくなっている,という現状がどの報告においても繰り返し強調されていたことを考えると,レファレンス・サービスを提供するうえでは,マーケティング活動の重要性がますます高まっていると言えるだろう。

主題情報部:北川 知子(きたがわ ともこ)

 

(1) “WLIC 2006 SEOUL SATELITE MEETING”. 韓国国立図書館. (online), available from < http://www.nl.go.kr/satellitemeeting/wlic/program.php >, (accessed 2006-10-17).

(2) 詳細については,下記月報記事も参照のこと。北川知子. デジタル時代のリソース・シェアリング,レファレンス,蔵書構築:実践的アプローチ. 国立国会図書館月報. No.548, 2006, 8

(3) “World Library and Information Congress: 72nd IFLA General Conference and Council”. IFLANET. (online), available from < http://www.ifla.org/IV/ifla72/Programme2006.htm >, (accessed 2006-10-17).

(4) “24/7 Reference Collaborative Polices and Procedures”. QuestionPoint. (online), available from < http://questionpoint.org/ordering/cooperative_guidelines_247rev3.htm >, (accessed 2006-11-17)

(5) Op. cit. (3).

 


北川知子. IFLAソウル大会参加報告‐レファレンス・サービスをめぐって‐. カレントアウェアネス. (290), 2006, 2-3.
http://current.ndl.go.jp/ca1609