CA1610 – IFLAソウル大会報告−視聴覚・マルチメディア分科会を中心に− / 石塚陽子

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カレントアウェアネス
No.290 2006年12月20日

 

CA1610

 

IFLAソウル大会報告
−視聴覚・マルチメディア分科会を中心に−

 

はじめに

 2006年のIFLAソウル大会に参加する機会を得た。現在国立国会図書館の電子資料課という部署において音楽・映像資料室を担当していることもあり,公開セッションは視聴覚・マルチメディア分科会のものを中心に聴講した。今年は単独ではなく,情報技術分科会や国立図書館分科会,公共図書館分科会との合同公開セッションとして開催された。このうちいくつか興味深かった発表について紹介したい。

 

Global Memory Net

 国立図書館分科会との合同セッションで,“GlobalMemory Net”(GMNet)(1)についての発表があった。これは,全米科学財団(NSF)の助成を受けた世界中の図書館,美術館等のデジタル文化遺産コレクションへのポータルサイトであり,80以上の国から提供されているデジタル・コレクションを8か国語(11月14日現在)で閲覧することができる。静止画像に加え,動画も一部含まれている。またコンテンツを提供している各参加機関に対し,GMNetは汎用検索システムの提供による支援をも行っている。これは,技術水準のそれほど高くない機関向けのものからGMNetと同程度の機能を持つ高水準のものまで3種類用意されている。これらの検索システムにより,各参加機関は自らのデジタル・コレクションの機能の充実を図ることもできるようになっている。

 利用者サービスにおけるGMNetの特徴の一つは,様々な検索手段を提供していることであろう。メタデータのみでなくコンテンツベースの検索,提供国別の検索などを利用することができる。また個々のコレクション別の検索に加え,全てのコレクションを横断検索することも可能になっている。

 コンテンツベースの検索とは,画像の色,形等の特徴が類似した画像を検索し,表示する機能である。例えば,秦の始皇帝の兵馬俑の画像に興味を持った場合,similarというボタンを1回クリックするだけでそれに類似する色,形の画像(すなわち同様の兵馬俑の画像)を一覧表示させることができる。この機能を利用すれば,ある文化遺産について何も知らなくても,連鎖的に表示される画像やその解説等により容易に知識を深めていくことが可能だという。GMNetは,SIMPLIcity(Semantics-sensitive Integrated Matchingfor Picture LIbraries)(2)と言う画像検索システムを利用してこの検索機能を実現している。

 このGMNetに日本から唯一参加している鶴見大学からも発表があった。“Tsurumi Collection”として現在和歌や古地図等の貴重書コレクションを公開している。現在は日本人であっても解読できる人はそう多くないということで,和歌の資料については音声ファイルが付けられ,原文の朗読を聴くことができるようになっている。

 “Tsurumi Collection”の検索,解説文の表示等は日本語,英語の2か国語対応である。古典文学等に関する専門用語が使用されているため,英文版作成は困難が伴ったという。しかし,日本の文化遺産を英語で紹介するデジタル・ライブラリーはあまり多くなく,所蔵している貴重書を世界へ向けて発信するためには必須のことであったという話が印象的であった。

 

Moving Image Collections

 米国議会図書館等によって構築されてきた動画の総合目録MIC(Moving Image Collections;E135,CA1558参照)(3)を多言語対応にしようという事業が現在進められている。このMICは,全世界の動画総合目録となることを目指しているが,インターフェイスは英語のみで,参加機関も多くは米国内に存在する。現在北米以外からは16か国の機関が部分的に参加しているが,目録を提供しているのはすべて米国内の11機関である。この現状を打破するため,フランス語,スペイン語,アラビア語での利用を可能にする事業が進行中とのことだった。この事業により,今後参加国,参加機関がどのくらい増えるのか楽しみである。

 

Bibliotekernes Netmusik

 デンマークの公共図書館においては,2004年より“Bibliotekernes Netmusik”という音楽配信サービスが行われている(4)。このサービスを利用すると,音楽ファイルは利用者のパソコンへ直接配信される。現在提供されているのは約11万曲で,その3分の1は国内版CDをデジタル化したものである。コストは実際のCDを購入・提供するよりかなり安いという

 利用者は無料で1日ないし7日間,曲を「借りる」ことができる(1日貸出はいずれ無くなる予定である)。音楽ファイルは,デジタル著作権管理処理をされたウィンドウズメディアオーディオのフォーマットによって配信される。貸出期間がすぎるとそのファイルは機能しなくなる仕組みになっている。現在著作権者と貸出期間を30日間に延ばせないか等協議中だが,まだ結果は出ていないそうである。予想よりは利用が延びていないが,デンマークの公共図書館の実に半数以上に相当する約130館がこのサービスに参加しているとのことであった。

 また,まだ実験段階ではあるが,デンマークでは“Bibcast”という図書館による映画の配信サービスも構築されつつあるとのことである。

 

スコットランドにおけるデジタル・ライブラリー・プロジェクト

 他には,スコットランドにおけるデジタル・マルチメディア・サービスについての発表もあった。その中核となっているのがスコットランド文化資源アクセスネットワーク(SCRAN;CA1459参照)である。参加機関は図書館に加え,文書館,博物館,美術館等多岐にわたる。資料保存というよりは教育的利用を第一の目的とするこのSCRANでは,参加機関の教員,司書等の利用者は,画像,動画,音楽を自由にダウンロードでき,必要であれば加工して使うことができる。もちろんこのような利用に関しても著作権処理がなされている。2005年12月に政府の予算措置は終了したが,このようなデジタル・ライブラリー・プロジェクトが有用であるという認識は浸透しつつあるとのことであった。

 

おわりに

 以上が興味を持った発表の紹介である。デジタル・ライブラリーについては上記で触れたもの以外にもいくつかの発表があり,多くの事業が計画,実行されていることを知った。例えばスイスでは,異なる画像情報を統合的に整理・管理・検索できるようにする“LivingMemory”(5)という事業が現在進行中だという。また,美術図書館分科会の公開セッションでも,ネパールの建築保存プロジェクトに関するハーバード大学図書館の発表の中で,そのプロジェクトに関するデジタル・ライブラリーが構築されていることについて言及があった(6)

 個人的な感想となるが,このIFLAソウル大会に参加することで,様々な国の様々な現状,事業等を知ることができたのは貴重な経験であった。実際に発表される場にいるということで,発表者の熱意,或いはある会場においてはその場全体の熱気のようなものを肌で感じられたのも得がたい経験だったと思っている。

資料提供部電子資料課:石塚陽子(いしつか ようこ)

 

(1) “Global Memory Net”. (online), available from < http://www.memorynet.org/home.php >, (accessed 2006-10-17).

(2) James Z. Wang et al. “SIMPLIcity”. (online), available from < http://wang14.ist.psu.edu/cgi-bin/zwang/regionsearch_show.cgi >, (accessed 2006-11-17).

(3) “Moving Image Collections”. (online), available from < http://mic.imtc.gatech.edu/index.php >, (accessed 2006-11-2).

(4) “Bibliotekernes netmusik”. (online), available from < https://www.bibliotekernesnetmusik.dk/netmusik2006/ >, (accessed 2006-11-2).

(5) Martin L. et al. Combining different access options for image databases. IFLANET. (online), available from < http://www.ifla.org/IV/ifla72/papers/091-Leuenberger_Stettler_Grossmann_Herget-en.pdf >, (accessed 2006-11-2).

(6) Hugh Wilburn. Nepal Architecture Archive at Harvard University: Using Library Technology to Preserve Cultural Heritage and Take It into the Future. IFLANET. (online),available from < http://www.ifla.org/IV/ifla72/papers/135-Wilburn-en.pdf >, (accessed 2006-11-20).

 

Ref:
Ching-Chin, Chen. Using Tomorrow’s Retrieval Technology to Explore the Heritage: Bonding Pastand Future in the Case of Global Memory Net. IFLANET. (online), available from < http://www.ifla.org/IV/ifla72/papers/097-Chen-en.pdf >, (accessed 2006-10-10).

Yuka Egusa et al. New Innovative Access to Educational and Cultural Multimedia Contents. IFLANET. (online), available from < http://www.ifla.org/IV/ifla72/papers/097-Egusa_Nagatsuka-en.pdf >, (accessed 2006-10-10).

Marwa el Sahn. Multilingual access to moving image collections. IFLANET. (online), available from < http://www.ifla.org/IV/ifla72/papers/091-ElSahn-en.pdf >, (accessed 2006-10-10).

Kent Skov et al. Promoting downloaded digital services in the public libraries in Denmark. IFLANET. (online), available from < http://www.ifla.org/IV/ifla72/papers/122-Skov_Byrialsen-en.pdf >, (accessed 2006-10-10).

Bruce Royan et al. Public Digital Multimedia Services in a Small Country. IFLANET. (online), available from < http://www.ifla.org/IV/ifla72/papers/122-Royan-en.pdf >, (accessed 2006-10-10).

Nagatsuka, Takashi et al. “Global Memory Net Offers New Innovative Access to Tsurumi’s Old Japanese Waka Poems and Tales, and Maps”. Digital libraries: implementing strategies and sharing experiences: 8th international conference on Asian digital libraries, ICADL 2005: Bangkok, Thailand, December 12-15, 2005: proceedings. Edward A. F. et al. Berlin, Springer, c2005, 149-157.

 


石塚陽子. IFLAソウル大会報告−視聴覚・マルチメディア分科会を中心に−. カレントアウェアネス. (290), 2006, 3-4.
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