CA1558 – 北米の映像資料目録の動向:動画資料を中心に / 児玉優子

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カレントアウェアネス
No.284 2005.06.20

 

CA1558

 

北米の映像資料目録の動向:動画資料を中心に

 

 『日本目録規則』1987年版改訂2版において,「映像資料」は「…再生機器を通して,動態あるいは静態の映像を表出する資料」と定義されている(1)。本稿では映像資料のうち,主に動画資料の目録について,北米を中心に最近の海外の動向を紹介する。

 2004年5月,国際図書館連盟(IFLA)の視聴覚・マルチメディア分科会(Audiovisual and Multimedia Section)が,『図書館その他機関における視聴覚・マルチメディア資料のためのガイドライン』(Guidelines for Audiovisual and Multimedia Materials in Libraries and Other InstitutionsE105E217参照)を発行した。このガイドラインは当初,公共図書館向けを意図されていたが,図書館界全体へと対象が広げられた。従来の公共・学術・国立・専門図書館間の差異が,多様な媒体の取扱いとそれらへのアクセスに関する限り,情報通信技術によって小さくなったためである。IFLAは,これらのメディアによって文字メディアの利用が困難だった人々も情報へのアクセスが可能になること,また識字の状況によっては口頭もしくは視覚によるコミュニケーションが不可欠な発展途上国があることを指摘し,これらの資料は付加的な贅沢品ではなく,総合的な図書館サービスに不可欠な構成要素と考えるべきだと述べている。

 このガイドラインは視聴覚・マルチメディア資料の収集・目録・保存・デジタル化等について,注意すべき点と国際的な標準原則を紹介している。目録に関しては,視聴覚・マルチメディアだけ分離せずに通常の目録に収録すべきこと,技術的情報や法的状況の情報が重要であること,特殊なアクセスポイントも必要であることを指摘し,英米目録規則第2版(AACR2)2002年改訂版や,国際フィルムアーカイブ連盟(FIAF)によるフィルム・アーカイブのための目録規則(The FIAF Cataloguing Rules for Film Archives)などの標準規則を列挙している。ガイドラインに具体的には述べられていないが,例えば映画のフィルム幅やマルチメディアCD-ROMのシステム要件などの技術的情報は再生に適した機器の識別に不可欠であるし,どのような条件で著作権利処理されているかという法的状況の情報は,資料の視聴や貸出し,複製の可否を判断するために必要である。また,これらの資料は多数の人が製作に関わり,その役割も撮影,音楽,出演など多様なため,アクセスポイントの数も多くなりがちである。件名標目に加えて,コメディ,ドキュメンタリーなどジャンルをアクセスポイントにすることもある。

 IFLAが言うように,視聴覚・マルチメディア資料は印刷資料と同様に重要な図書館資料である。図書館で収集・保存・利用される動画資料は,かつては映画フィルム,現在は主としてビデオテープやDVDである。これらは視聴に再生機器を必要とし,製作・頒布方法も複雑であるため,印刷資料とは異なる問題点を持つ。

 テキサスA&M大学図書館(Texas A&M University Libraries)のホ(Jeannette Ho)は2002年春,米国の公共図書館と学術図書館(研究図書館協会加盟館)におけるビデオ資料の目録作成の実態を調査した。その結果,1990年代中期の先行研究ではOPACにビデオ資料を登録していない図書館が1割から3割あったが,今回の調査対象では全ての図書館が,全てあるいは一部のビデオ資料をOPACに登録していた。また,公共図書館は再生機器や職員が不十分なため,学術図書館に比べて目録作成の際にビデオを視聴して確認する割合が低く,目録の記述レベルも詳細でないことがわかった。また,目録に記述する項目とアクセスポイントは,学術図書館では撮影・編集・衣装などスタッフの記述にも力を入れているのに対して,公共図書館では視聴対象・受賞歴などビデオ鑑賞の参考になる情報を重視していた。さらに,米国議会図書館適用細則(LCRI)の条項21.29D(製作会社を副出記入する場合は,顕著な役割を果たした個人でない限り,個人を副出記入しない)は公共図書館・学術図書館のいずれでも守られておらず,実情に合っていないことを指摘している。

 興味深いことに,ホの調査の前年(2001年)に動画目録に関する文献が2件発表されている。一つはOCLCのワイツ(Jay Weitz)が,OCLCの目録データベースにビデオ資料を登録する際の問題点を実務面から論じたものである。言うまでもないが,図書館界では資源共有の観点から総合目録が発達し,目録標準化への指向が強い。この時期にホやワイツの文献が発表された背景には,印刷資料に比べてOPACへの登録が遅れていたビデオ資料も登録されるようになってきたこと,インターネットの普及によって所蔵情報を公開する動きが強まったこと,DVDという新たな種類の資料をどう記述するか標準化が必要になったことがあると考えられる。

 もう一つの文献は,動画アーキビスト協会(Association of Moving Image Archivists:AMIA)が動画アーカイブ機関における目録の実態調査結果を報告したAMIA Compendium of Moving Image Cataloging Practiceである。この報告書は,目録規則Archival Moving Image Materialsの改訂や,総合目録プロジェクトMIC(Moving Image Collections;E135参照)への布石となった。動画アーカイブにおいても所蔵情報の共有が強く求められ,またそれを実現させる技術が利用可能になったのである。

 MICの総合目録は一つの記述法に限定せず,MARC21,ダブリンコア,MPEG-7などで作成されたデータを一括して検索することができる。市販されないユニークな資料を収集・保存する動画アーカイブの世界では,図書館界ほど厳格に標準化を追求しているわけではないのである。また,MICの総合目録は参加機関を広く募っており,公共図書館が寄贈を受けたアマチュア映画をこの総合目録に登録することもできる。

 図書館に話を戻すと,映像資料の目録担当者にとって,次々と出現する新しい媒体やフォーマットへの対応は常に大きな課題である。なぜなら,その媒体やフォーマットの特性を表現し,資料の識別,利用,保存のために必要な情報を目録に記述しなければならないが,指針となる標準規則が提供される前に資料が図書館に入ってくることが多いからである。カナダのバイス(Jean Weihs)は,非図書資料の目録担当者900人余りが参加し,議論を通じて適切な目録作成を模索する“Online Audiovisual Catalogers(OLAC)”のメーリングリストを紹介している。

 新たな媒体やフォーマットへの世代交代は近年ますます加速している。権威ある標準規則が定まるまでの間,このような図書館員同士の自助努力が一層必要となるであろうし,また,そこで交わされた議論が標準規則の形成に寄与してゆくものと思われる。

財団法人放送番組センター 放送ライブラリー:児玉 優子(こだま ゆうこ)

 

(1) 日本図書館協会目録委員会編. 日本目録規則. 1987年版改訂2版. 東京, 日本図書館協会, 2001, 357.

 

Ref.

IFLA Audiovisual and Multimedia Section. Guidelines for Audiovisual and Multimedia Materials in Libraries and Other Institutions. 2004. (online), available from < http://www.ifla.org/VII/s35/pubs/avm-guidelines04.pdf >, (accessed 2005-03-20).
Ho, Jeannette. Cataloging practices and access methods for videos at ARL and public libraries in the United States. Library Resources & Technical Services. 48(2), 2004, 107-121.
Weitz, Jay. Videorecording cataloging: Problems and pointers. Cataloging & Classification Quarterly. 31(2), 2001, 53-83.
Martin, Abigail Leab ed. AMIA Compendium of Moving Image Cataloging Practice. Beverly Hills, CA. Association of Moving Image Archivists, 2001, 272p.
Weihs, Jean. Do electronic discussion lists provide ersatz rule interpretations? Part 1. Technicalities. 24(5), 2004, 5-7.
Online Audiovisual Catalogers (OLAC). (online), available from < http://ublib.buffalo.edu/libraries/units/cts/olac >, (accessed 2005-04-14).

 


児玉優子. 北米の映像資料目録の動向:動画資料を中心に. カレントアウェアネス. 2005, (284), p.5-6.
http://current.ndl.go.jp/ca1558