E961 – 一般市民による資料デジタル化プロジェクトの可能性(英国)

カレントアウェアネス-E

No.156 2009.08.19

 

 E961

一般市民による資料デジタル化プロジェクトの可能性(英国)

 

 図書館や博物館,大学といった組織が主体となって実施する従来の大規模デジタル化プロジェクトに対し,一般市民が参加する資料デジタル化の可能性を探る試みが注目を集めている。オックスフォード大学は2008年,英国情報システム合同委員会(JISC)の資金援助の下,帝国戦争博物館,英国国立公文書館が所蔵する,第一次世界大戦に従軍した詩人に関する資料をデジタル化するプロジェクト“First World War Poetry Digital Archive”をスタートさせたが,この追加プロジェクトとして,“Great War Archive”(GWA)という,一般市民による第一次世界大戦の関連資料デジタル化の取組が行われた。

 GWAの背景には,(1) 従来の大規模デジタル化プロジェクトには莫大なコストがかかるため,別のモデルを模索する必要があるのではないか,(2) デジタルカメラ,スキャナ,様々なウェブツールなどが普及し,一般市民が資料デジタル化に参加できる環境が整いつつあるのではないか,(3) 図書館や博物館などが所蔵するニーズの高い資料に加え,一般市民が個人的に所有する資料を発掘し,デジタル化する必要があるのではないか,といった問題意識がある。

 GWAでは,一般市民が所有し,主要なコレクションにはない資料(家族写真,日記,手紙,遺品など)に焦点を当て,これらの資料をデジタル化してGWAが準備した投稿用のウェブサイトにアップロードするよう,人々に協力を求めた。なお投稿期間は16週間(2008年3月~6月)に設定された。GWAでは,一般市民の参加を促すため,各地の図書館や博物館でイベントを開催したほか,地方紙やラジオでの広報,公共スペースへのチラシの配布などを行った。その結果,16週間で6,500点を超える資料がアップロードされた。しかも品質に問題があるデータはほとんどなかったという。期間後に追加で投稿の申出があった資料は,写真共有サイトFlickrのGWA専用ページにアップロードされた。

 GWAを通じ,日記,回顧録,手紙,写真,パンフレットなど,これまで公になることのなかった貴重な歴史資料がウェブを通じて利用可能となり,一般市民の集合知の力が明らかになった。こうしたことに加え,一般市民による資料デジタル化はコストを大幅に抑えられることも分かった。First World War Poetry Digital Archiveでは,画像を作成し,公開するまでにかかるコストは,1件当たり約40ポンド(約6,200円)であったが,GWAでは,1件当たり約3.5ポンド(約540円)であった。またGWAの単価コストは,投稿用ウェブサイトの開発費などの初期費用を含む全コストを投稿数で除して求められるため,投稿数が増えるほど,単価は安くなる。

 GWAは費用をかけずに研究資源を豊かにするデジタル化プロジェクトのモデルの1つとして,英国内外から注目を集めている。GWAでは,プロジェクトのために開発した投稿用ウェブサイトのソフトウェアを,無料利用できるオープンソースソフトウェアとして公開しており,GWAのワークフローやシステムを再利用して新しいプロジェクトを始めることが可能となっている。今後,同様の取組がどのような広がりを見せるかが注目される。

Ref:
http://www.educause.edu/EDUCAUSE+Quarterly/EDUCAUSEQuarterlyMagazineVolum/IfYouBuildItTheyWillScanOxford/174547
http://www.oucs.ox.ac.uk/ww1lit/gwa
http://www.jisc.ac.uk/whatwedo/programmes/digitisation/poets.aspx