E948 – EJによって変わったこと,変わらないこと<文献紹介>

カレントアウェアネス-E

No.153 2009.07.08

 

 E948 

EJによって変わったこと,変わらないこと<文献紹介>

 

Tenopir, C., King, D. W., Edwards, S., Wu, L. Electronic journals and changes in scholarly article seeking and reading patterns. Aslib Proceedings. 2009, vol.61, no.1, p.5-32.

 学術雑誌の電子ジャーナル化が研究者の論文の検索・入手・利用行動にもたらす変化は,1990年代半ばから現在に至るまで学術コミュニケーション研究の一大研究テーマである。本論文の著者であるテネシー大学のテノピアとノースカロライナ大学のキングはこの領域のパイオニアであるが,学術雑誌論文の「読み」と「閲読者」という観点から1970年代後半から現在までに行った調査結果を比較し,この30年間で何が変化したのか,2008年末から数編の論文にわたって論じている。本論文は,特に「読み」パターンの経年変化に焦点を当てたものである。

 本論文では研究者の学術雑誌論文の読みについて,電子ジャーナルによって変化したものとして以下のことをあげている。1)読む論文数が増えた一方で1論文あたりに費やす読みの時間は減少したこと,2)著者のホームページなど論文の入手先が増えたこと,3)個人購読雑誌よりも図書館の予約購読雑誌に強く依存するようになったこと,4)ブラウジングよりも検索によって論文を発見するようになったこと,5)古い論文を読む割合が増え始めていること,などである。

 一方,電子ジャーナルの登場および普及によって変化しないこともある。1)学術雑誌論文は依然として重要な情報源であること,2)多くの論文を少ない時間で読むようになっても,1件1件の論文に向ける注意は高いこと,3)ブラウジングは紙媒体で行っているほか,個人購読雑誌では紙媒体が重要な位置を占めていること,4)読まれる論文は刊行後1年以内のものが大半を占めること,などである。

 これらの結果から,この30年間において,研究者にとっての学術雑誌論文そのものの位置づけは変化することはないが,電子ジャーナルの登場により,読む論文の量,入手先・方法,古さに変化が見られるということがうかがえる。図書館が提供するサービスも,こうした変化に応じて改善する必要があるだろうが,テノピアらの一連の調査結果はその際の有力な根拠として参照すべきものである。

 なお日本でも,学術図書館研究委員会による日本の研究者に対する大規模調査が行われ,調査結果も公開されており,日本の大学図書館における電子ジャーナル利用の現状を知ることができる。

(名古屋大学附属図書館研究開発室・三根慎二)

Ref:
Tenopir, C., King, D. W. Electronic Journals and Changes in Scholarly Article Seeking and Reading Patterns. D-Lib Magazine. 2008, vol.14, no.11/12, http://www.dlib.org/dlib/november08/tenopir/11tenopir.html.
Tenopir, C., King, D. W., Spencer, J., Wu, L. Variations in article seeking and reading patterns of academics: What makes a difference? Library and Information Science Research. In-press. King, D. W., Tenopir, C., Choemprayong, S., Wu, L. Scholarly journal information-seeking and reading patterns of faculty at five US universities. Learned Publishing. 2009, vol. 22, vo.2, p.126-144.
http://www.screal.org/