カレントアウェアネス-E
No.141 2008.12.24
E871
米国を代表する図書館情報学大学院の図書館,施設の閉鎖を検討
イリノイ大学アーバナ・シャンパーン校の図書館情報学大学院は,米国を代表する存在である。その図書館情報学大学院の図書館が,物理的な施設を閉鎖する方向で検討を行っており,議論を呼んでいる。
同校では2007年秋から,新しい情報環境,さらに「デジタル・ネイティブ(digital natives)」と称される新しい世代の教員・学生の存在に対応するべく,新しい図書館サービスモデルを検討してきた。2008年4月には,図書館内に設置された検討チームのうち予算担当が,資料費の高騰,学術コミュニケーションのあり方の変化,学際的な研究の増加などを受け,学問分野ごとの分館が各々物理的資料を収集・提供するという現在の図書館は「もはや学術研究の出発点にはなっていない」として,図書館の組織・方針の再編に関する22の勧告を発表した。この中では図書館情報学図書館は,共に学際的であり,同様に物理的スペースの限界を抱えており,かつ,教育・研究プログラムでも関係の深いコミュニケーション学図書館と統合すべき,とされていた。
この勧告を受けて発足したコミュニケーション学-図書館情報学図書館サービスチームは,統合案を踏まえ,現状に即した最も効率的なサービス像を特定する作業を開始した。そして,両図書館のスタッフ間の協議,教員へのフォーカスグループインタビュー,利用者調査などを行い,2008年11月の中間報告で,来館利用の少なさ(1時間あたり平均1.58人),電子リソースへの移行、分野が「高度に学際的である」ことを理由に,図書館情報学図書館の物理的閉鎖を勧告した。具体的には,中核のコレクションを中央書庫に,関連するコレクションをコミュニケーション学や他の関連する分野の図書館に,ほとんど使われない資料やデジタル媒体が十分に代替している資料はキャンパス外の書庫に移動させるとともに,ライブラリアン,スタッフと図書館情報学分野のコレクションのための費用は維持し,よりいっそう強固なバーチャル図書館情報学ポータルを構築し,インストラクション,レファレンス,大学院生や他の図書館スタッフとの協同に取り組んでいくべきだとしている。同チームはこの計画について,利用者調査等によれば同館のコレクションは大変優れていると評価されており,またライブラリアンもそれを自負しているものの,限られた予算の制約を考えるとこのような選択を取らざるを得ない,と説明している。
この閉鎖計画が発表されるや否や,同校の大学院生による閉鎖反対の署名活動が始まった。同館は国内で最大規模の図書館情報学図書館であり学外者にも開放されていること,資料が分散配置されてしまうことによる研究活動への影響が大きいこと,物理的な図書館スペースがあることで蔵書のブラウジングによる資料との「予期せぬ出会い(serendipitous discovery)」が得られること,利用が少ないことが問題であれば利用を増やすことを第一に考えるべきであること,などが反対理由として挙がっている。主催する大学院生は,署名活動により図書館を救うのは大変困難だと自覚しながらも,「人々が物理的な図書館に価値を見出していること,また新しいサービスモデルをすべての人が歓迎するわけではないこと」をはっきりと示すために,署名は不可欠なのだ,とLibrary Journal誌のインタビューに答えている。
なお,新しいサービスの概略とその実現までの工程表は,2008年12月15日に完成予定とのことであったが,12月19日現在,まだ公開されていない。
Ref:
http://www.library.uiuc.edu/lsx/
http://www.library.uiuc.edu/nsm/
http://www.library.uiuc.edu/nsm/background/nsmfinal/index.html
http://www.library.uiuc.edu/nsm/comm_lis
http://www.library.uiuc.edu/export/nsm/comm_lis/InterimReportCOMMLISS.doc
http://www.petitiononline.com/katsharp/petition.html
http://www.libraryjournal.com/article/CA6621263.html