カレントアウェアネス-E
No.135 2008.09.17
E830
経営破綻したカレッジ図書館の悲劇(米国)
米国アラスカ州にある私立のシェルドン・ジャクソン・カレッジは2007年6月29日,長年にわたる経営トラブルから資金繰りに窮し,突如,全教職員を解雇し,運営を停止した。これに伴い,同校の附属図書館も閉鎖を余儀なくされたばかりか,空調設備の停止等により,多くの貴重資料を含む蔵書が危機に瀕する事態に陥っている。この惨状を,American Libraries誌が報じている。
同カレッジは太平洋に臨むバラノフ島シトカ市にあり,130年の歴史を有する,アラスカ州最古の高等教育機関であった。図書館にも,20世紀初頭の写真乾板923点を含む数多くの貴重資料が所蔵されていた。カレッジの閉鎖後,図書館長に就任して1年足らずだったブラックソン(Ginny Norris Blackson)氏が,当初は有給のコンサルタントとして,後に無給のボランティアとして,資料の保存にあたった。ブラックソン氏は写真乾板を,同一の写真家のコレクションを有している市内の国立歴史公園に貸し出した後,冬になっても暖房が入らない場合に水道管が凍結・破裂することを案じて,残る印刷体の貴重資料を,水道管のない会議室に移動させた。この作業は,ブラックソン氏のほか,20名近くの図書館員や博物館学芸員,関心のある人々からなるボランティアグループの手によって行われた。また州内の図書館・文書館が保存用の器材を寄付し,除湿装置も導入された。
こうした作業の結果,会議室は5,000点の貴重資料,カレッジの記録文書,他の建物に飾られていた絵画などで一杯となった。ボランティアグループはこれらの資料を排列しようとしたが,カレッジ内のサーバ機器が撤去されておりOPACが使えず,かつてタイプライターで印刷して作成した目録を頼りに,困難な作業に取り掛かっていた。ところが,カレッジが2008年7月に新しいキャンパス管理業者を決めたことにより,ボランティアグループの作業は終了させられてしまった。2008年8月19日,数か月ぶりにブラックソン氏がカレッジを訪れたとき,当初貴重資料が置かれていた部屋は雨漏りがし,ひどくかび臭いにおいが建物全体に充満していたという。
カレッジの理事会が設置した,図書館員や地元の人々9名からなる図書館アドバイザリ・グループは,図書館の貴重資料を市内の公共図書館に寄贈するよう勧告した。しかし,カレッジの再建を目指し,図書館を「(カレッジという)王冠に残っている最後の宝石」と見なす理事会は,一切の蔵書を手放すことを拒絶した。市内の公共・学校図書館からなる図書館ネットワークも,助成金を獲得してカレッジ図書館の蔵書目録を作成した上で,近隣の図書館が未所蔵の資料を分散して保管し,カレッジ再建後に返却する,というプランを提案したが,理事会はこの提案を原則として受け入れたものの,文案から「実施(implement)」という文言を削除し,実効性のないものとしてしまった。
現在は市内の高校図書館の司書として,カレッジ図書館の行く末を案じ続けているブラックソン氏は,カレッジが図書館に暖房を入れる費用を工面するのは困難だと見ている。同館の蔵書の今後は極めて厳しいものとなっている。
Ref:
http://www.ala.org/ala/alonline/currentnews/newsarchive/2008/august2008/sheldonjackson.cfm
http://kcaw.org/modules/local_news/index.php?op=centerBlock&ID=214
http://www.sjcwatch.blogspot.com/
http://en.wikipedia.org/wiki/Sheldon_Jackson_College
http://www.nps.gov/sitk/historyculture/ew-merrill-photographs.htm
http://209.112.181.119/