E737 – CDNLAO 2007カントリーレポート(5) シンガポールの資料保存

カレントアウェアネス-E

No.120 2007.12.26

 

 E737

CDNLAO 2007カントリーレポート(5) シンガポールの資料保存

 

 CDNLAO 2007本会議の翌日,2007年5月8日に資料保存に関するセミナーが開催され,4名が報告を行った。これらの報告のうち,シンガポール国家図書館委員会(NLB)プロフェッショナルサービスマネージャーのサリム(Mohamed Bin Salim)氏が行った報告“Preservation Programmes at the  National Library Board, Singapore”の資料が,CDNLAO 2007会議のウェブサイト上に掲載されている。

 資料保存と修復に関するNLBの取り組みは,2003年までは資料の燻蒸,マイクロ化,修復処置(conservation repair)が必要に応じて行われる程度であったが,2004年以降,資料保存に関する3つの新しいプロジェクトがスタートし,本格的な取り組みが始まった。それは(1)資料修復と資料へのアクセスに関するPCAプロジェクト,(2)約20万点の貴重資料・文化資料の燻蒸,修復,マイクロ化,デジタル化する“Singapore Pages Project”,(3)デジタル資料の収集・保存活動,である。

 PCAプロジェクトは,NLBをシンガポールの文化遺産コレクションに関する,洗練された,ワンストップレファレンスサービスを提供する組織として確立するほか,貴重資料や文化遺産により簡便にアクセスできるようにすること,また貴重資料や文化遺産の保存期間の延長,歴史的・社会的な記録や文学的遺産の保存を長期的な目標とするもので,2004年から2007年3月にかけて,約10万点の貴重資料・文化遺産の燻蒸,修復,マイクロ化,デジタル化が進められた。なおこのプロジェクトは,シンガポール国立公文書館に委託して実施された。

 “Singapore Pages Project”は政府の資金援助により,2004年から進められているプロジェクトで,さらに多くの文化遺産の保存,修復,利用促進を目指している。具体的な作業は資料の燻蒸,修復,マイクロ化,デジタル化であるが,ほかにも資料保存・修復に関する施設の設立や,デジタルフォーマットによる資料の利用も含まれており,約20万点の貴重資料・文化遺産を対象としている。このプロジェクトは2008年初旬の終了を目指している。また本プロジェクトにはシンガポール国立公文書館のほか,複数の外部機関に委託して実施されている。

 デジタル資料の収集・保存活動では,シンガポールのドメイン(.sg)を持つウェブサイト(約7万件)の収集や,オンライン納本インターフェイスを通じた電子出版物,オンライン出版物の納本を計画している。これら電子情報の収集・保存では,国際標準規格であるOAIS参照モデル(CA1489参照),およびTDR(Trusted Digital Repository)要件を満たしているという。

 このほかにも,視聴覚資料の保存への取り組みにも着手しており,現在調査が進められているという。

 報告ではさらに,PCAプロジェクト,Singapore Pagesプロジェクトを実施して浮き上がった課題や問題点,その解決手法,得られた実務的な成果についても,詳細な解説を加えている。たとえば資金の獲得,NLB自身の知識・経験不足と外部機関への委託の是非といったプロジェクトの初期段階にかかわるものから,対象となる資料の選定方法,修復範囲や手段の判定,プロジェクトに携わる外部機関の選定,資料の搬送と対象資料の追跡(tracking),外部委託機関とのコミュニケーションのとり方など,プロジェクトの実施期間中にかかわるものまで,きわめて多岐に及ぶ。またその結果得られた結論として,(1)「保存」が現在のコレクションを「救出」するだけにとどまらない,継続的事業であること,(2)予防プログラムの導入が必要不可欠であること,(3)保存戦略には図書館員や利用者を含むものとするべきこと,(4)図書館員が新たな技術や知識を獲得できるようにすること,という4点を掲げている。

Ref:
http://www.nla.gov.au/lap/cdnlao2007.html
http://www.nla.gov.au/lap/nlb07paper_000.rtf
http://www.nla.gov.au/lap/documents/nlbpres07.ppt
CA1489