E733 – 2007年ノーベル文学賞受賞者にとっての本と図書館とは?

カレントアウェアネス-E

No.120 2007.12.26

 

 E733

2007年ノーベル文学賞受賞者にとっての本と図書館とは?

 

 2007年のノーベル文学賞はイギリスを代表する作家であるレッシング(Doris Lessing)氏に授与された。88歳での受賞は,ノーベル文学賞では最高齢,ノーベル賞全体でも史上2番目の高齢となるという。2007年12月7日に行われた授賞式には,レッシング氏は体調を理由に出席しなかったが,記念講演として氏による,“On not winning the Nobel Prize”と題された原稿が代読された。そこでは自身が幼少期を過ごしたジンバブエでの経験等を基に,教育における読書の重要性,人間にとっての読書の重要性,さらには図書館がいかに貴重なものであるかということが述べられている。

 幼少期をジンバブエで過ごし,その後もアフリカと関わって生きてきたレッシング氏は,地図帳も,地球儀も,教科書もなく,図書館には生徒が読めるような本が置いておらず,子どもたち自身が労働力となっているため,必要なときに必要な教育が受けられないというアフリカの劣悪な教育事情について述べている。そこでは教師自身,読書の重要性については知ってはいるものの,読む本がないために読書の経験がなく,本が渇望されているという。一方でレッシング氏は,英国の一流男子校の生徒たちも引き合いに出している。そこでは教育環境や教育機会に十分恵まれているにも関わらず,生徒たちがほとんど本を読まず,本でいっぱいの図書館も半分程度しか利用されていない現状があるという。

 レッシング氏は,このどちらの学校からも,ノーベル賞を受賞する生徒は出ないだろうと述べる。自身も含め,かつてのノーベル文学賞受賞者の例を引き合いに出しながら,十分な読書の機会がなければ,「書くこと」や「作家」は生まれてこないのだとし,書くためには,また文学を作るためには,図書館と本と伝承の密接な関連がなくてはならないとしている。レッシング氏によると,誰の心にも「ストーリーテラー(storyteller)」は存在するという。たとえ戦争や天災で世界が破壊されたとしても,私たちが引き裂かれ,傷ついたとしても,「ストーリーテラー」の想像力が私たちを再創造してくれるのだと主張している。誰の心にも存在するという「ストーリーテラー」を呼び覚ます本や伝承と,それらに触れることを可能にする図書館の重要性にレッシング氏は改めて気付かせてくれている。

 レッシング氏のこの講演を紹介している,図書館情報に関するブログの一つ“LISNews”では,「これは本当に類まれな講演であり,全ての図書館員が耳を傾けるに値する」と評している。

Ref:
http://nobelprize.org/nobel_prizes/literature/laureates/2007/lessing-lecture_en.html
http://www.lisnews.org/node/28510
http://www.afpbb.com/article/life-culture/culture-arts/2296443/2232527
http://www.afpbb.com/article/life-culture/culture-arts/2318541/2406041
http://www.afpbb.com/article/life-culture/culture-arts/2323938/2437115