E594 – 著作権保護期間の延長問題に関する議論の動向

カレントアウェアネス-E

No.98 2007.01.17

 

 E594

著作権保護期間の延長問題に関する議論の動向

 

 著作権の保護期間は,著作権法第51条に基づき,原則として著作者の死後50年と定められている。しかし近年,米国や欧州連合加盟国などと同様に,著作権の保護期間を死後70年へと延長するかどうかについて,盛んに議論が行われている。

 著作権保護期間の延長は主に,著作者およびその関連団体から要望されている。平成16年度の文化審議会著作権分科会法制問題小委員会に関連して,2004年8月に著作権が特に関係する団体に対し,文化庁が改正の要望点を募集したところ,著作権の保護期間の延長問題について,23団体から要望書が提出され,そのほとんどが著作権(および著作隣接権)保護期間の延長を要請するものであった。また著作者団体16団体からなる「著作権問題を考える創作者団体協議会」は2006年9月22日,著作権の保護期間の延長を求める要望書をまとめ,文部科学省に提出・説明するとともに,記者会見を行った。この要望書によると,(1)創作者の創造性や創造意欲の鼓舞,(2)保護期間の国際的な調和,(3)真の知財立国の実現,(4)第二次世界大戦の連合国民に対する保護期間の戦時加算問題の解決,(5)著作者・作品データベースなど著作物の円滑な利用を促進する制度の構築の必要性,といった理由を挙げ,著作権の保護期間を「国際的なレベルである『著作者の死後70年まで』に延長することを要請」している。

 一方,著作権保護期間の延長に反対する運動も行われている。先に取り上げた2004年8月の意見募集を受けて,同年10月に文化庁が実施した国民全般からの意見募集では,保護期間の延長に関連して73件の意見が寄せられた。その大半が著作権保護期間の延長に反対する個人によるものであった。また多くのブログで反対の意見表明がなされているほか,インターネット上で著作権保護期間が経過した著作物を電子化して無償公開している青空文庫も,2007年1月1日から著作権保護期間の延長に反対する署名活動を展開している。青空文庫の「請願趣旨」によると,(1)著作物は保護を終えた時点で,積極的な利用により文化の発展を促している,(2)現在の保護期間でも創作水準を保つことが可能,(3)現行の保護期間を維持すれば,作品の電子化や録音,翻案,翻訳,上演など,作品の利用を促し,文化を分かち合う仕組みができる,(4)著作権保護期間を延長すると自由な利用が制約され,死蔵作品が増えかねない,といった理由を挙げ,「著作権保護期間を延ばさない」ことを要請している。

 だがこのような賛成・反対の立場を超えて,著作権保護期間の延長によるメリット・デメリットを把握し,議論を重ねて問題点を整理してゆこうとする動きも現れている。この立場に立つ著作者64名を発起人とする「著作権保護期間の延長問題を考える国民会議」は,2006年11月8日に記者会見をおこなうとともに,文化庁に要望書を提出した。要望書によると,(1)保護期間延長を求める要望とともに,延長による影響を危惧する声がある,(2)著作権は表現活動や文化産業に決定的な影響を与えるもので,保護期間の延長は日本の文化と「知財立国」のゆくえを決める大問題である,(3)保護期間が延長されると,既得権の関係で短縮することが困難,(4)国民的な議論がなされておらず,権利者団体と利用者団体だけの問題に矮小化されかねない,といった理由を挙げ,多様な関係者の意見や,延長された場合の文化的・経済的影響に関する実証的なデータや予測に基づく慎重な議論を尽くすことを求めている。また同年12月11日には著作者,事業者,図書館員,研究者や法律家などをパネリストとする公開シンポジウムを実施し,その模様を同国民会議のウェブサイトで公開している。ほかにも同ウェブサイトでは,公開シンポジウムにおける保護期間延長賛成派,反対派の主張の紹介や,保護期間延長問題に関する参考記事や情報が整備されている。日本弁護士連合会も2006年12月,同様に保護期間の延長に慎重な議論を求める意見書を,文化庁などに対し提出している。

 保護期間の延長問題は,複写やILLサービス,蔵書デジタル化といった図書館業務に直接影響の及ぶ領域でもある。今後の議論の方向や,文化庁,知的財産戦略本部といった政府の動向に関心を払う必要があろう。

Ref:
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/gijiroku/013/04093001/002.htm
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/gijiroku/013/04093001/002/005.pdf
http://www.mpaj.or.jp/topics/pdf/kyoudou.pdf
http://www.mpaj.or.jp/topics/2006_18.html
http://www.mext.go.jp/b_menu/public/2004/04100601.htm
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/gijiroku/013/04110401/004/010.pdf
http://www.aozora.gr.jp/shomei/
http://www.aozora.gr.jp/index.html
http://thinkcopyright.org/index.html
http://thinkcopyright.org/reason.html
http://thinkcopyright.org/nichibenren061222.html
 「著作権保護期間の延長問題を考える国民会議」発足.出版ニュース.2092,2006,p15.