カレントアウェアネス-E
No.97 2006.12.20
E586
【連載】アジア・オセアニアの図書館事情:(12)ベトナム
ベトナムの公共図書館は,国立図書館(NLV)の下に省・中央直轄市立図書館64館(図書館数は2005年時点,以下同様)があり,さらにその下に577の県レベルの図書館と7,000近くの町村レベルの図書館があるという階層構造をなしている。全公共図書館を合計すると,蔵書数が約1,750万点,年間の蔵書増加数が約86万点,登録利用者数が約50万人,来館者が約1,430万人,貸出数が約3,890万冊といった状況にある。
この公共図書館システムに加え,政府機関が資金を提供している図書館として,大学図書館250館,学校図書館17,459館,研究機関が運営する専門図書館60館,政府機関が運営する図書館・情報センターが218館,軍隊図書館・読書室が1,000以上ある。さらに政府機関の資金が提供されていない図書館として,大衆組織(共産党や祖国戦線など)や民間が運営する図書館・読書室・書庫が数千館,存在している。これらは,国際情報センター,ボート図書館,ブック・カフェや郵便局内の文化センターなど,さまざまな形態で運営されている。
2001年4月,国会で「図書館に関する法令」が採択された。同法は全館種を対象としており,図書館の目的,禁止事項,責務,権利や,図書館設置母体の責務などが定められている。同法でNLVは,国の中央図書館として,(1)利用者のニーズを満たす国内外の情報資源の開拓,(2)1917年に開始された納本制度による出版物の収集,保存および全国書誌の編纂・刊行,(3)利用者への図書館サービスの提供,(4)国内外の図書館との協力・交換,(5)図書館情報学の研究,(6)図書館員に対する専門的スキルの涵養・研修の提供といった責務を担う,とされている。
NLVが特に力を入れているのは,目録の標準化と図書館員に対する教育である。NLVが月次および年次で刊行している全国書誌は,印刷媒体と電子媒体の両方で,全国の図書館に提供されている。このうち電子媒体は,ユネスコが開発した図書館ソフト“CDS/ISIS”で取り込めるフォーマットと,MARC21フォーマットの両方で提供されている。また2005年には,OCLCと米国のNGOの支援により,デューイ十進分類法(DDC)簡易版14版のベトナム語への翻訳が完了している。
ベトナムでは,図書館情報学の学士を修了した者が,図書館専門職として認められている。全国の6大学が図書館情報学専攻を設けており,全国で約1万人が専門職とされているが,近年,図書館員としてのさらなる専門性が求められるようになっており,2005年には数十名の図書館員が,ニュージーランドや米国に修士号・博士号を取得するために派遣されている。NLVや大学図書館は,専門職向けワークショップを開催して,国内の図書館員に対する教育に取り組んでいるという。全国レベルの総合目録は存在しない,電子図書館もまだ発展途上といった状況を改善に資するべく,図書館員のスキルアップの取り組みが続けられている。
なお,著作権・知的財産権に関しては,2004年10月にベルヌ条約に加盟,2005年7月に出版法を施行,2006年7月に知的財産権法を施行と,法律の整備が進められている。
(注)『カレントアウェアネス』第290号(12月20日発行予定)には,ベトナムの図書館制度に関する紹介記事(執筆・Nguyen Hoa Binh氏)を掲載する。
Ref:
http://www.nla.gov.au/lap/documents/vietnam06.pdf
http://www.nlv.gov.vn/
http://vietnamgateway.org/vanhoaxa/english/home.htm
http://www.leaf-vn.org/english.html
http://www.leaf-vn.org/libraryordinance.pdf
http://www.oclc.org/news/releases/200635.htm
http://www.wipo.int/edocs/notdocs/en/berne/treaty_berne_241.html