E566 – 21世紀の図書館目録とは? <文献紹介>

カレントアウェアネス-E

>No.94 2006.11.9

 

 E566

21世紀の図書館目録とは? <文献紹介>

 

Antelman, Kristin et al. Toward a 21st Century Library Catalog. Information Technology and Libraries. 25(3), 2006, 128-139.(オンライン), 入手先 http://www.lib.ncsu.edu/staff/kaantelm/antelman_lynema_pace.pdf, (参照2006-11-6)

 米国議会図書館(LC)が公表した目録の現状と将来に関するレポート“The Changing Nature of the Catalog and its Integration with Other Discovery Tools”に代表されるように,目録に対する危機感が図書館界に広がりつつある(注)。サーチエンジンで実装されているような機能をOPACに導入する動きも一部ではじまりつつある。そのような中,米国ノースカロライナ州立大学(NCSU)図書館も,次世代の図書館目録として,TF/IDF法による適合度のランキング表示,ファセット方式によるブラウジングなど,新たな機能を備えたOPACを提供を開始した。この論文は,同大学が新OPACを導入するに至った経緯やシステム構成,新OPACの機能評価や残された課題についてまとめたものである。

 本論文によると,現在広く提供されているOPACは,AND・ORといった演算子による論理検索システムから約20年にわたり進歩していない,とされる。そして確率的あるいはベクトルベースの部分一致検索技術を応用したOPACを「次世代のカタログ」であるとする。同館の新しいOPACのシステムでも,1.検索結果の適合度ランキング機能,2.新たなブラウジング機能,3.主題からの検索機能の充実,の3機能を原則として導入するとされ,そのために解決すべき課題を各方針ごとに検討された。また導入時には,新OPACと既存システムとの連携や,ユーザーインターフェイスに関し,機能的・技術的要件の検討が行われた。特にインターフェイスについては,新OPACで実現するフリーキーワード検索に加え,旧OPACの典拠形の前方一致検索機能も利用できることが,要件に盛り込まれた。

 旧OPACをあえて利用できるようにした経緯にも,本論文は言及している。語彙の関係を無視するフリーキーワード検索では,統制語を利用する件名標目検索と比較して検索結果に微妙なロスが発生してしまい,検索結果の網羅性が担保されないためであるという。つまり件名標目を利用したり,検索方針を構築して検索語を絞り込むことで,フリーキーワード検索よりも正確で網羅性の高い検索結果が得られるという。その結果は利用者の研究にはかならずしも肯定的であるとは限らないものの,むしろ肯定的,否定的両方の資料を網羅的に把握できることが重要であるとの認識を示すものといえよう。

 導入後に実施された評価によると,新OPACの利用者数は増加傾向を示しているほか,新OPACの新機能(スペルチェック,貸出記録に基づく検索結果の並び替え,適合度順による検索結果の表示)もある程度利用されているという。また検索に要した時間,検索の成功度や難しさ,1ページ目の満足度について,学生を被験者とする新・旧OPACの比較調査も実施されており,新OPACが旧OPACより高評価を得たという。

 最後に今後の課題として,FRBRへの対応,主題アクセスの改善,書誌データ以外のメタデータへの対応,自然言語検索,フィードバックを加味した関連度表示への対応などが挙げられている。

(注)『カレントアウェアネス』第290号(12月20日発行予定)には,このLCの報告書を含む,研究図書館における目録の危機と将来像を扱った報告書3点を紹介する一般記事(執筆:渡邊隆弘氏)を掲載する。

Ref:
http://www.lib.ncsu.edu/catalog/
http://catalogablog.blogspot.com/2006/10/toward-21st-century-library-catalog.html