E2922 – 地域で育てる研究データ管理人材:関西地区研究データ管理人材育成コンソーシアムの取組

カレントアウェアネス-E

No.533 2026.10.29

 

 E2922

地域で育てる研究データ管理人材:関西地区研究データ管理人材育成コンソーシアムの取組

関西地区研究データ管理人材育成コンソーシアム・甲斐尚人(かいなおと)、神崎隼人(かんざきはやと)、前田郁子(まえだいくこ)、ヴルガリス・ニコラオス

 

  研究データ管理(Research Data Management:RDM)を取り巻く環境が大きく変化している。科研費では、2024年度以降に実施する新規および継続を含む全ての研究課題においてデータ管理計画(Data Management Plan:DMP)の作成が研究者に求められるようになり、各大学附属図書館等でも論文および根拠データの即時オープンアクセスへの対応が進む。加えて、研究公正、研究インテグリティ、セキュリティ、個人情報・著作権など、研究データを適切に取り扱うために管理の上で考慮すべき事項は増えている。

  こうした変化を背景に、2026年7月、「関西地区研究データ管理人材育成コンソーシアム」が発足した。大阪大学が中心となり、京都大学の協力を得ながら、RDM支援人材の育成と人的ネットワークの構築を進めるものである。しかし、本コンソーシアムの特徴は、標準化されたRDM支援人材モデルを示すことではない。むしろその特徴は、自身の所属するそれぞれの機関の規模、資源、研究分野、組織体制に応じてRDM支援を柔軟に設計できるような人材の育成に向けて、「学ぶ・共有する・つながる」場を形成することにある。

  標準化よりも柔軟性に重きを置くのには、RDMの業務が多様な部門を越境しているという事情がある。データの保存・解析には情報基盤部門、公開には図書館や機関リポジトリ部門、研究倫理や個人情報には倫理・法務部門、DMPや研究費には研究推進部門など、多様な部門が相互に関係する。また、研究者が扱うデータや研究慣行は分野によって大きく異なるためにケースバイケースの対応が必要となる。そのため本コンソーシアムで掲げる人材像として、研究者の課題を読み解き、制度や基盤、各部門を繋ぎながら支援を設計する「データスチュワード型人材」を中心に据えている。これは、何でも一人で解決する専門家を育てるという意味ではない。必要な論点を見いだし、自ら対応すべきことと、他の専門家と協働すべきことを判断できる人材を育てるという考え方である。

  例えば図書館職員も、このネットワークを構成する重要な担い手である。メタデータ、情報組織化、長期保存、機関リポジトリ、著作権、利用者支援など、図書館が培ってきた知識はRDMと深く関係する。一方、図書館だけで全てを担う必要はない。研究者からの相談を受け、課題を整理し、必要に応じて情報基盤、研究推進、倫理・法務などへ繋ぐことも重要な役割となる。

  2026年7月16日に開催したキックオフ・シンポジウムの参加者からは、この人材像への期待とともに、RDM支援を実際の機関内で持続させる上での不安も寄せられた。特に、中小規模機関では専任人材を置くことが難しいこと、異動によって職員は研修で得た知識を継続的に活用しにくいこと、どの部署が中心となって支援体制を構築すべきか分からないことなどが課題として挙げられた。また、限られた人員の中で、職種ごとに必要な部分を学びたいとの意見や、他機関の支援体制・実践例を知りたいとの要望もあった。これらは、データスチュワード型人材育成を個人レベルの能力開発だけで捉えるのでは不十分であり、学んだ人を組織レベルでどう生かし、知識や経験をどう継承するかまで考える必要があることを示している。

  こうした課題を踏まえ、本コンソーシアムは2026年8月から2027年2月にかけて、全6回の「データスチュワード型人材育成プログラム」を開講している。プログラムでは、研究データを取り巻く政策や制度を理解することから始まり、研究公正および倫理的・法的・社会的課題(Ethical, Legal and Social Issues:ELSI)の観点における判断、データの保存・処理・解析環境に関する基礎、さらに人文学・医療・農業など異なる研究分野におけるRDMの実践を学ぶ。最後に、それまでの学びを統合し、自機関における相談対応や関係部署との連携を含むRDM支援の仕組みを設計する。各回では講義だけでなく、ディスカッションやワークショップも取り入れ、知識を実際の支援へ繋ぐことを重視している。

  今後は、研修そのものに加え、教材や事例、相談対応の実践知を共有し、機関や職種を越えて相談できるネットワークを構築していくことが課題となる。一機関、一職種だけでRDM支援を抱え込むのではなく、地域内でそれぞれの機関が知識と経験を互いに持ち寄り、それぞれ持ち帰って実装する。本コンソーシアムは、その循環を生み出す場を育てていきたい。

Ref:
関西地区研究データ管理人材育成コンソーシアム.
https://osoa-portal.osaka-u.ac.jp/consortium/
甲斐尚人. 研究データ管理を支える専門的実践人材およびデータスチュワード型人材の体系的育成. 情報の科学と技術. 2026, 76(5), p. 243-248.
https://doi.org/10.18919/jkg.76.5_243