カレントアウェアネス-E
No.527 2026.07.23
E2900
図書館のこれからを考えるための24のヒント:IFLA Weak Signals Report 2026
国立国会図書館利用者サービス部音楽映像資料課・重黒木南帆(じゅうくろぎなほ)
2026年2月、国際図書館連盟(IFLA)は、“Weak Signals Report 2026”(以下「報告書」)を公表した。進行中の主要トレンドを中心に扱った“Trend Report 2024”(E2784参照)の関連資料として作成された報告書は、24の「Weak Signals」(弱いシグナル)を3つのセクションに分けて取り上げている。これらは、現時点では限定的な規模や範囲でしか起きていないものの、今後本格的なトレンドとなる可能性のある取組や傾向を指し、具体的な事例と、本格化した場合の影響や、シグナルを促進あるいは阻害する要因等が論じられている。本稿ではその概要を紹介する。
●外部からのシグナル
最初のセクションでは、図書館業界の外部から生じるシグナルに焦点を当てている。ここでは特に、学術出版における変化が図書館に与える影響について着目したい。
シグナル1として、プレプリント、データセット、ジャーナル論文などの学術成果をそれぞれ異なるプラットフォームで発表する新たな傾向が紹介されている。研究者は柔軟な発表方法をとることができる一方、情報が分散し、発見されにくくなる。この傾向が進むと、図書館では多様な学術成果を管理するために、新たな技術的インフラやAPI連携機能の整備が不可欠となる、複雑化した環境に直面することになる。
また近年見られる、名目上はオープンアクセスでも機能面での制限をつける「オープン・ウォッシング」(open washing)についても取り上げられている(シグナル2)。例えば「CC BY商用AIモデル学習に関する制限付き」のような、カスタマイズされたライセンスが今後増えていくことが予想されている。この現象が本格化すると、図書館にとって本来は標準化されていたはずのライセンスを個別に確認するコストがかかるだけでなく、オープンライセンスそのものへの信頼が損なわれる可能性がある。
●図書館におけるテクノロジーの活用
続いてのセクションでは、図書館における新しいテクノロジーの導入がテーマとなる。特にAIと図書館の関係に注目したシグナルが多数挙げられている。
ポジティブなものとして、AIが図書館員の専門性を向上させる可能性が指摘されている(シグナル8)。長年にわたり、言語や地理的条件は、図書館情報学教育や継続的職能開発(continuing professional development:CPD)へのアクセスの不平等を生み出す要因となってきた。高品質なAI翻訳は、地方や非英語圏の図書館員のスキル習得を容易にすることが期待されている。
また図書館が、AIが生成した情報を批判的に検討するための、信頼できる拠り所となる展望も現れている(シグナル13)。すでに一部の公共図書館や大学図書館では、AIリテラシー講座が提供され始めており、今後図書館員は、倫理的なデジタル活用を支援する案内役へと役割を広げることが予想されている。
一方で批判的な視点も提示された。目新しさだけを理由にAIを導入することが、他の必要な取組から予算や人員を奪うという可能性である(シグナル7)。特に児童サービスにおいて、十分な効果が示されている従来の幼児向け教育プログラム等が縮小し、それに伴って発達上の格差が拡大することが警戒されている。
また図書館がAIツールを導入すること自体のハードルも示された。シグナル12は、クエリや出力量に基づく生成AI価格モデルが導入された場合、図書館の予算管理は一層複雑になるという見通しを示している。さらに図書館員は、AIツールの価値を評価し、契約のための交渉スキルを身に着けなければならない。
●従来とは異なる図書館運営
最後のセクションでは、図書館運営の変化に関心が寄せられている。全体を通して、特に地域コミュニティとの関係を強化する傾向が見られる。
シグナル21として、ワークショップなどを通じた、地域住民参加型の図書館設計の取組が紹介されている。こうした活動は、コミュニティのアイデンティティとニーズを設計に広く反映させるだけでなく、公的機関と地域の人々との信頼関係を向上させることも期待されている。
また、図書館がコミュニティのウェルビーイングを増進させるための空間になりつつある状況についても取り上げられている(シグナル23)。公共図書館や大学図書館では「ヒーリングコーナー」や「読書療法プログラム」等の試験導入が始まり、ソーシャルワーカーとの連携も行われている。こうした傾向は、コミュニティのケア機関として図書館の存在感を高める一方、図書館員の心理的な負担を増やす可能性もある。
図書館が果たすべき役割に関しては、課題も提示されている(シグナル18)。特に社会福祉的役割を担う場合、図書館はコミュニティにとって重要なインフラになるものの、適切な予算がなければ、知識を管理するという本来の役割を十分に果たすことができない恐れがある。複数の役割をどのようなバランスで果たしていくかについては、将来の姿を描きながら各図書館で検討されなければならない。
今回取り上げたシグナルは報告書全体の一部に過ぎない。自分が拠点としている地域で、どのような弱いシグナルが見られるか、現時点でどのような準備ができるか、将来の図書館の姿を考えるためのヒントとして、この報告書を活用されたい。
Ref:
“Signs of the Times: IFLA Weak Signals Report 2026”. IFLA. 2026-02-25.
https://www.ifla.org/news/signs-of-the-times-ifla-weak-signals-report-2026/
Atshemyan, Naira et al. Weak Signals Report 2026. IFLA, 2026, 64p.
https://repository.ifla.org/handle/20.500.14598/7045
三崎彩. 自信を持って情報の未来に向き合う:IFLA Trend Report 2024. カレントアウェアネス-E. 2025, (500), E2784.
https://current.ndl.go.jp/e2784
