カレントアウェアネス-E
No.527 2026.07.23
E2899
YA世代と図書館を繋ぐ:ゲキ部が演じる「ビブリオ劇場」
久喜市教育委員会指導課部活動指導員・サイトウトシオ(さいとうとしお)
2025年8月19日、埼玉県久喜市立太東中学校ゲキ部(以下「ゲキ部」)は久喜市立中央図書館の休館日に、同館全体を舞台に『ラビリンス』という本の迷宮を描いた劇を上演した。図書館全体が「ビブリオ劇場」となった。
「ビブリオ劇場」とは、本のある場所で本に関する劇を上演する取組で、筆者が名づけたものである。寸劇(スキット)で構成された一塊の劇やその上演活動を指す。当初は脚本・劇およびその取組の総称として「ビブリオドラマ」を使用していたが、同名の取組が既に存在することを知り、独自性を明確にするため、現在の名称に変えた。
●賞を捨てよ町へ出よう:「ビブリオ劇場」誕生の経緯
筆者が長年指導に関わっているゲキ部は、関東大会・全国大会の代表に数多く選出されていた。部員には「演劇において大切なのは賞ではなく、観劇した人と感激・感動を共有できることだと思う」と伝えていた。しかし、賞の発表後、それはきれいごとにすぎないと痛感する。銀賞という2番目によい賞を受賞しても、金賞でないことで落胆するのは自然な感情だ。筆者は、大会に付随する評価システムと自由な上演を妨げる規則に空虚感を抱いていた。
2023年3月、ゲキ部は沖縄で開催される全国大会の代表に選出された。その翌日、部員全員と保護者を前に、「沖縄大会を最後に、観客と距離の近い、賞に関わらない上演に取り組みたい」と伝えた。その後、何度も部員や保護者と意見を交換し、大会の舞台から去る決断をし、後に「ビブリオ劇場」と呼ぶことになる取組へと舵を切った。
本に着目したきっかけは、メディアを通して「中学生の読書離れ・図書館離れ」という課題に触れたことにある。筆者は、中学生が図書館に行けない理由の一つは、放課後の部活動が忙しいからだと考えた。それならば部ごと図書館へ行く仕組みを作ればいい。上演場所を学校の外に求める演劇部と、ヤングアダルト(YA)世代を呼び込みたい図書館がタッグを組めば、互いの課題を解決できるのではないかという仮説が、すべての始まりだった。
ゲキ部の取組は、2024年7月7日のまちライブラリー@アトリア参宮橋での上演を皮切りに、Book & Garden カフェ里葉、まちライブラリー@みんなのふくろう食堂、神保町のブックハウスカフェへと繋がり、2025年8月19日、久喜市立中央図書館の川羽田祥館長からの提案により、前述の『ラビリンス』上演へと結実した。公演の企画は館長をはじめとする図書館員と一緒に練り上げた。また図書館は、フライヤー作成などの広報を担当するほか、劇中に登場する本や関連する本を終演後に観客が手に取ることができるように準備してくれた。
●新たな取組「絵本ドラマリーディング」
活動を続ける中で、ゲキ部は絵本という新たな魅力に出会う。絵本に登場する子どもや動物を、中学生はこの世代でしかできない魅力的な表現で演じることができる。そこで「絵本ドラマリーディング」を活動の中心に加えた。それは、読み聞かせ同様に絵本を紹介、それに加えて、登場人物をパントマイムなどの身体表現を用いて演じる形式である。読み聞かせのように一人が最初から最後まで読むのではなく、ナレーター、登場人物、音響など役割を分担し、絵本の世界を立体的に表現した。
2025年12月7日には久喜市立中央図書館の視聴覚室で3作の絵本をこの手法で上演し、立ち見が出るほどの盛況を博した。その再演となる2026年4月12日の『ビブリオ劇場vol.1』も立ち見が出た。2026年6月7日の『ビブリオ劇場vol.2』も申し込み開始後すぐに定員に達した。特に、部員の祖父母に当たる世代に、毎回観劇してくれるコアなファンが生まれている。上演した絵本の作者である山田和明氏からは「学生さんたちが一生懸命に演じていただく姿を拝見して涙が出てきました」という感想が寄せられた。この取組は2026年7月30日ブックハウスカフェでの『ビブリオ劇場』上演予定に繋がることとなった。
●図書館で公式な部活動を
2026年現在、ゲキ部は学校、教育委員会、保護者の理解を得て、久喜市立中央図書館で毎週水曜日に公式な「図書館部活」を行っている。17人の部員は放課後、図書カードを持って来館し、本を探し、読み、「ビブリオ劇場」用のスキットを創作する。
最初の2回で、部員が借りた本はのべ40冊を超えた。本の相談には、司書が丁寧に応じてくれる。部員は、本の森で、「探究・協働・横断的」な学びを楽しんでいる。「久喜市立図書館指定管理業務令和8年度事業計画書」の重点目標「若年層と未来を繋ぐSTEAM連携モデルの深化」は、ゲキ部の取組と親和性が高い。
●今後の展望:『怪談の多い図書館』上演
2026年8月18日には、2025年に引き続き久喜市立中央図書館の休館日を利用した「ビブリオ劇場」を上演予定である。演目は『怪談の多い図書館』。図書館全体を舞台に、本で囲まれた空間で、図書館に棲む妖怪と現代の中学生の出会いを描く。夏の図書館に涼やかな風が吹くような怪談話を、現在ゲキ部一同で絶賛創作中である。
「ビブリオ劇場」は、演劇を通して本を紹介するだけでなく、本のある場所の魅力を再発見する試みでもある。図書館が本を読む場所であると同時に、ドラマが生まれ、人と本・人と人が出会う場所になる一助となるように取組を続けていきたい。
Ref:
本のある場所が舞台になる ビブリオ劇場.
https://nanatsumori.github.io/bibliotheater/
中学生とともに創る演劇 七つ森.
https://www.nanatsumori.art/index.html
図書館流通センター. 久喜市立図書館指定管理業務令和8年度事業計画書. p. 2.
https://www.city.kuki.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/011/107/toshoshiryo.r7-3-4.pdf
