E2895 – ドイツ図書館協会の学術総合図書館部会による2030年に向けた将来構想

カレントアウェアネス-E

No.526 2026.07.09

 

 E2895

ドイツ図書館協会の学術総合図書館部会による2030年に向けた将来構想

国立国会図書館利用者サービス部人文課・芹沢幸輝(せりざわこうき)

 

●はじめに

  2025年12月、ドイツ図書館協会(DBV)の第4部会「学術総合図書館部会」は新たな戦略文書「情報インフラとしての学術図書館:オープン性・ネットワーク化・信頼性」(Wissenschaftliche Bibliotheken als Informationsinfrastruktur. Offen. Vernetzt. Vertrauenswürdig)を公開した。これは、2018年に策定された戦略文書「学術図書館2025年」(Wissenschaftliche Bibliotheken 2025)の後継となるものである。デジタル化とデータ駆動型の科学の台頭という変革期において重要となる「5つの活動領域」を挙げ、それぞれについて現状と課題の整理を行ったうえで、2030年に向けた目標シナリオ(Ziel-Szenario 2030)を描き出している。本稿ではその概略を紹介する。

●活動領域1:出版分野におけるアクターとしての図書館

・現状と課題

  オープンアクセスの拡大に伴い、図書館は従来の購読管理から出版管理へと役割を拡大している。学術出版市場の特殊な仕組みに起因する出版コストの高騰や公共予算の逼迫は、出版分野のアクターとしての学術図書館にとって、学術支援機能を強化する上での負荷となっている。

・目標

  各々の学術機関やそこに所属する研究者が、データ出版やマルチメディア出版など多様な出版形態で出版できるようサポートする。そうした出版物が機械可読で、AIによって適切に処理されるように研究者を支援し、AIを活用した計量書誌学やオープンサイエンスのパートナーとして確固たる地位を築く。

●活動領域2:知識へのアクセスの鍵としてのメタデータ

・現状と課題

  メタデータは情報資源へのアクセスの基盤であり、伝統的に図書館の強みである。永続的識別子(PID)や典拠データとの組合せにより、その価値は他分野にまで波及しているものの、セマンティック・ウェブなどの新技術との統合はまだ道半ばである。

・目標

  ドイツの研究データ基盤整備に取り組むコンソーシアムである、「国家研究データインフラストラクチャー」(Nationalen Forschungsdateninfrastruktur:NFDI)などと連携し、メタデータの統合と共有における中心的なハブとなる。質の高いデータを相互運用可能かつオープンな形で提供し、AIやニューラルネットワークを用いた自動的かつ高度なコンテンツ抽出や自然言語検索を可能にする。

●活動領域3:研究データ

・現状と課題

  デジタルトランスフォーメーション(DX)は現代の科学研究プロセスを根底から変えている。オープンデータを適切に公開・共有するためのFAIR原則に則った研究データ管理(Forschungsdatenmanagement:FDM)が求められる中、図書館は助成機関の要求等に対応するため、研究者に対する一次窓口としての役割を果たしつつある。

・目標

  図書館に専門職を置き、研究データの公開・長期保存からメタデータ作成、助成金申請の支援までの研究サイクル全体を包括的にサポートすることを目指すとともに、研究データの横断的な検索・調査ツールの開発へ関与する。

●活動領域4:未来に向けた知識の保存と文化遺産の継承

・現状と課題

  紙の書籍や歴史的史料のデジタル化は進展しており、デジタル化資料の品質と提供方法の標準化が進んでいる。その一方で、ウェブサイト、ブログ、ソーシャルメディアなどのボーンデジタル資料の長期保存や著作権の制約など、解決すべき法的・技術的課題が山積している。

・目標

  連邦及び州レベルでの協調的なデジタル化と計画的な資金調達に向けた共通の枠組みを構築する。図書館資料を「データとしてのコレクション」(Collection as Data)として再定義し、それらをテキスト・データマイニングの基盤や機械学習の基盤として円滑に利用可能とする。市民科学を通じて、市民参加型のデジタル知識基盤を提供する。

●活動領域5:知識の交流と創出の場としての学術図書館

・現状と課題

  学術図書館では、知識の提供に加えて、学習や作業のための空間としての需要が高まっている。しかし、老朽化した施設や財政的制約は、オンライン学習との融合やグループワークの需要増加という利用者の要求に応えた革新的な空間をつくる際の障壁となっている。

・目標

  他の教育支援施設等と共同で、VRラボのような革新的な設備を備えた、単なる知識の保管庫を超えた学習空間を運営する。また、環境配慮やサステナビリティの基準を満たした建築とし、多様な利用者グループが交流する創造の場として機能する。

●おわりに

  新たな将来構想は、学術図書館が未来においても信頼できる情報インフラであるために「オープン性」(Offen)「ネットワーク化」(Vernetzt)「信頼性」(Vertrauenswürdig)という三つの柱を基盤に、デジタル化する研究環境や教育のニーズに柔軟に対応していく必要があることを明確化している。これを実現するためには、図書館同士の連携のみならず、大学・研究機関、そして国や助成機関との継続的な対話と強力な支援が不可欠であり、受動的なサービス施設ではなく、オープンサイエンスと学術コミュニケーションを制度的に支える中核的パートナーを目指すべきだとしている。

Ref:
“Positionspapier dbv, Sektion 4: Wissenschaftliche Bibliotheken als Informationsinfrastruktur. Offen. Vernetzt. Vertrauenswürdig”. Deutsche Initiative für Netzwerkinformation e.V. 2025-12-11.
https://dini.de/nachrichten/nachricht/news/positionspapier-dbv-sektion-4wissenschasftliche-bibliotheken-als-informationsinfrastruktur-offen-vernetzt-vertrauenswuerdig
“Positionspapier „Wissenschaftliche Bibliotheken als Informationsinfrastruktur“ erschienen”. BIBLIOTHEKSPORTAL. 2025-12-12.
https://bibliotheksportal.de/2025/12/12/positionspapier-wissenschaftliche-bibliotheken-als-informationsinfrastruktur-erschienen/
Die Sektion 4 “Wissenschaftliche Universalbibliotheken” im Deutschen Bibliotheksverband e.V. Wissenschaftliche Bibliotheken als Informationsinfrastruktur. 2025, 27p.
https://www.bibliotheksverband.de/sites/default/files/2025-12/Wissenschaftliche%20Bibliotheken%202030_final.pdf