カレントアウェアネス-E
No.507 2025.08.21
E2815
「情報活用授業コンクール」の意義と5年間を振り返って
全国学校図書館協議会 情報活用授業コンクール選考委員会
全国学校図書館協議会では、2020年度から「情報活用授業コンクール」を実施している。本コンクールは、授業における資料・情報の活用実践を広く普及し、実践の底上げを図ることを目的に、印刷体であれデジタル体であれ、多様なメディアの資料・情報を授業において活用した実践の記録を募集するものである。
●コンクール開始の背景
学校図書館=読書のイメージは未だに根強いが、学校図書館法に明記されているように「教育課程の展開に寄与する」ことが学校図書館の第一義の目的である。この目的を具現化するために、学校図書館では授業のねらいや児童生徒の発達段階に即した多様なメディアの資料・情報を提供する。
2019年12月にGIGAスクール構想が発表され、2020年3月以降はコロナ禍により休校となったり、オンライン授業が行われたり、また授業再開後でも学校図書館の利用が制限されたりした。2020年度から1人1台端末の導入により、教室からネット検索ができるので調べ学習は学校図書館へ行かなくてもできるという認識も広がった。
コンクールで重視する情報活用能力は、現行の学習指導要領に「学習の基盤となる資質・能力」のひとつとして示されており、わが国では、1990年代から推進されてきた情報教育で培う力ととらえられている。1986年の臨時教育審議会(臨教審)第二次答申に「情報活用能力(情報リテラシー…)」と書かれていることから、Information Literacyの訳語として用いられたのは明らかである。そのInformation Literacyは、米国図書館協会の説明によれば、「情報が必要であるときを認識でき、必要な情報の所在を知り、情報を評価し、情報を効果的に利用できるために個々人に必要な能力」であり、デジタル資料のみを対象としているのではない。
GIGAスクール構想の当初示された文部科学省のパンフレットには、目的のひとつに「これまでの我が国の教育実践と最先端のICTのベストミックスを図ることにより、教師・児童生徒の力を最大限に引き出す」と記されている。学校図書館担当者とICT担当者が協働することによってベストミックスを目指すことができるはずであるが、学校図書館法公布から70余年が過ぎた現在でも、学校図書館の機能が広く認識されているとは言い難い。司書教諭の発令率や学校司書の配置率がそれを物語っている。
●開始から5年間を振り返って
こうした状況のために情報活用授業コンクールを開始した。本コンクールは児童生徒の学習成果物ではなく、学校図書館活用授業を実践する人々の記録が応募対象である。教職員の働き方改革が進められるなかでも、多様な資料を活用した授業を行い、その記録を残して丁寧に取り組まれている実践からは、熱意と質の進化を感じる。
5回の応募を振り返ると、北海道から九州まで地域的にも広がり、学校図書館を活用する教科が多様化し、教科横断的な授業が増えた。こうした取組は、小規模校でも大規模校でも実践されており、複数の教員や関係者が授業に関わる事例や、学年全体で学校図書館活用に取り組んでいる事例もある。学校図書館長である校長からの応募も見られる。資料・情報活用の指導方法もきめ細かくなり、図書や雑誌、新聞等の多様なメディアの利用、ICT教育との連携、地域の公共図書館や博物館等との連携など、さまざまな情報活用授業が展開されている様子がうかがえる。
全国各地の資料・情報活用授業を紹介できることは大変有意義なことである。当協議会の機関誌『学校図書館』や「図書館総合展」内で開催する「学校図書館セミナー」でも、応募された中から優秀な実践事例を紹介している。また、文部科学省主催の学校図書館担当指導主事会議にも参考事例として動画を提供している。
今後も情報活用能力の育成プロセスや資料・情報活用例などを、さらに学校現場へ還元していきたいと考えている。
Ref:
“情報活用授業コンクール”. 全国学校図書館協議会.
https://www.j-sla.or.jp/contest/jouhoukatsuyou/
“Information Literacy”. ALA’s Literacy Clearinghouse.
https://literacy.ala.org/information-literacy/
文部科学省. GIGAスクール構想の実現へ.
https://www.mext.go.jp/content/20200625-mxt_syoto01-000003278_1.pdf