E2637 – Code4Lib JAPANカンファレンス2023<報告>

カレントアウェアネス-E

No.466 2023.10.19

 

 E2637

Code4Lib JAPANカンファレンス2023<報告>

東京大学法学部研究室図書室・橘風吉(たちばなふうきち)

 

  2023年9月2日から3日の2日間にわたり、Code4Lib JAPANカンファレンス2023が開催された。カンファレンスは今回で11回目(E2556E2436ほか参照)であり、オンライン会議システムZoomを用いて開催された。また、UDトークを活用した字幕配信も行われた。参加者とのやりとりには、コミュニケーションツールDiscordが積極的に活用され、2日間を通して活発な議論が行われた。参加者は、過去最高の176人(Discord登録ベース)であった。本稿では、大学図書館員としての視点から、筆者が関心を持ったプログラムや発表について一部紹介し、報告としたい。

  プレカンファレンスの一つ、吉本龍司氏(株式会社カーリル)によるワークショップ「Chat-GPTのAPIで遊んでみよう」では、事前に用意されたコードをGoogle Colaboratory上でいくつか実行した。実行に際しては、ChatGPTのOpenAPIが用いられた。コードを実際に動かすことで、より精度の高い回答を得るための工夫を学んだ。また、自然言語を構造化して抽出できる点については、蔵書検索等の分野で多くの可能性を感じた。

  基調講演1の林和弘氏(文部科学省科学技術・学術政策研究所)による「オープンサイエンスの潮流とCode for Science」では、オープンサイエンスについて、自身が経験したPTA改革に置き換えて説明があった。PTA改革では、ツールの導入、活動の可視化の促進、地域や教職員との対話を通じて、PTA本来の役割を再度見直したという。そこから、オープンサイエンスの本質は、サイエンスが果たす役割や機能をデジタルネイティブに再構成することにあると述べた。研究の信頼性確保とスピードとのバランスが求められている時代の中で、従来のメディアを後世に残しつつ、大学図書館員としてどのように関わっていけばよいか改めて考えるきっかけになった。

  基調講演2の永崎研宣氏(人文情報学研究所)による「理想の“デジタルアーカイブ”構築奮闘記」では、「データの標準化」の必要性、実体験に基づくSAT大正蔵図像DBの公開作業などについて話があった。その根底には、同氏が講演中に述べた「人の役に立つことが好き」という思いがあると感じた。また、講演内容は、プログラマではない大学図書館員がどのようにコーディングに関われるかを考えるヒントになるものであった。

  通常発表セッションは、各回15分間の発表と5分間の質疑応答で構成されており、2日間で計6件実施された。その中で印象的だったのは、高田祐一氏(国立文化財機構奈良文化財研究所)による「異世界文化財探索者の冒険-未知の可能性への道を照らすGIS-」である。GISとは、地理的位置を手がかりに、位置に関する情報を持ったデータ(空間データ)を総合的に管理・加工し、視覚的に表示し、高度な分析や迅速な判断を可能にする技術である。発表では、60万件以上の文化財に関する時空間情報を整理した文化財総覧WebGISについて説明があった。文化財総覧WebGISは、特定が難しいとされる文化財報告書について、GISを利用することで発見可能性を高めており、ハザードマップと組み合わせることで、災害時に地理的に危険な場所にある文化財を把握できる仕組みを構築している。資料を、テキスト情報ではなく、空間情報から探索できるようにした着眼点が印象的だった。

  ライトニングトークは、各自好きなテーマについて5分間で発表するプログラムであり、2日間で計20件の発表があった。「Googlemapの口コミを使用した図書館評価」「SvelteKitで文献リストを作ってみる」「図書館業務の四象限と生成AI」「#デジタルアーカイブクイズ」など、テーマは多岐にわたった。特に高橋菜奈子氏(東京学芸大学附属図書館)による「図書館業務の四象限と生成AI」は、今後の大学図書館業務を整理する上でも示唆に富んでいた。生成AIが得意とする創造性が求められる作業について、業務を効率化するためにChatGPTを使用するというアイデアは大変参考になった。

  カンファレンスでは、全体を通して生成AIにまつわる話題が多く提供された。また、発表者からは、コーディングを楽しんでいる雰囲気がひしひしと伝わってきた。技術の発達によりコーディングを始めるハードルは下がってきている。大学図書館員でもコードづくりに何らかの形で携われるのではないかと思えた2日間であった。

  なお、カンファレンスでの発表資料は、Code4Lib JAPANカンファレンス2023のウェブサイトで公開されている。ぜひ参照されたい。

Ref:
“Code4Lib JAPAN Conference 2023”. Code4Lib JAPAN.
https://wiki.code4lib.jp/wiki/C4ljp2023
Code4Lib JAPAN.
https://www.code4lib.jp/
文化財総覧WebGIS.
https://heritagemap.nabunken.go.jp/
“GISとは・・・ ”. 国土交通省国土地理院.
https://www.gsi.go.jp/GIS/whatisgis.html
子安伸枝.Code4Lib JAPANカンファレンス2022,オンラインにて開催.カレントアウェアネス-E.2022,(447),E2556.
https://current.ndl.go.jp/e2556
村上篤太郎.Code4Lib JAPANカンファレンス2021,オンラインにて開催.カレントアウェアネス-E.2021,(423),E2436.
https://current.ndl.go.jp/e2436