E2630 – 鬼頭梓の建築から考える図書館の未来像<報告>

カレントアウェアネス-E

No.464 2023.09.21

 

 E2630

鬼頭梓の建築から考える図書館の未来像<報告>

京都工芸繊維大学附属図書館・倉知桂子(くらちけいこ)

 

  2023年6月10日、京都工芸繊維大学において、シンポジウム「鬼頭梓の建築から考える図書館の未来像」を開催した。本シンポジウムは、本学美術工芸資料館の展覧会「建築家・鬼頭梓の切り拓いた戦後図書館の地平」に関連し、美術工芸資料館と附属図書館のMuseum & Library(ML)連携事業として実施し、112人の参加があった。

  プログラムは、展覧会を企画監修した教員による基調講演、鬼頭梓が建築設計した図書館に関わる講師による講演、討議の3部構成であった。本稿ではその概要を紹介する。

  冒頭で、本学の並木誠士(美術工芸資料館館長)から開会挨拶があり、2018年に始まったML連携事業は展覧会の作品や作家に関する資料を図書館で展示紹介するとともに、シンポジウムや対談などのイベントを開催することで、テーマを立体的にみる試みであると説明した。

  第1部の基調講演では、松隈洋氏(本学名誉教授、神奈川大学教授)が、鬼頭梓(1926-2008)の経歴からその仕事をひもといた。戦時下に青年期を過ごし、建築を志した鬼頭は、日本が占領下にあった1950年に前川國男建築設計事務所に入る。そこで神奈川県立図書館・音楽堂と国立国会図書館(現東京本館の「本館」)の設計を担当し、事務所独立後、図書館建築を通して戦後の民主主義を拓こうとしたと述べた。さらに、松隈氏は「鬼頭梓は二人の前川と出会った」として、日野市立図書館(東京都)初代館長であった前川恒雄(1930-2020)と鬼頭の言葉を紹介し、鬼頭梓という建築家が図書館建築にどう取り組み、何を実現しようとしたか、鬼頭の建築を語ることによって近代建築への問いを提示した。

  続いて、松隈氏とともに展覧会を監修した山崎泰寛(本学教授)が展覧会紹介を行った。今回、前川國男建築設計事務所と金沢工業大学建築アーカイヴス研究所の協力のもと、設計図面と写真と模型を時系列に構成し、模型製作に携わった学生のコメントを付していると説明した。

  第2部の講演では、鬼頭梓が建築設計した三つの図書館について、学生による建築紹介の後、各講師が事例報告を行った。

  最初に、湖東町立図書館(滋賀県)について、開設準備室から司書として歩んできた江竜喜代子氏(前湖東町立図書館館長、現東近江市立能登川図書館館長)が、設立経緯と開館から現在までの状況を報告した。続いて、日野市立中央図書館(東京都)について、前川恒雄の著書を復刻した島田潤一郎氏(夏葉社代表)が、その動機と経緯を語った。最後に、洲本市立洲本図書館(兵庫県)について、かつて鬼頭梓建築設計事務所で設計を担当した佐田祐一氏(佐田祐一建築設計研究所)が、豊富な図面と写真を用いて、鐘淵紡績(鐘紡)洲本工場の煉瓦建築を図書館として再生した、その詳細を報告した。

  第3部の討議では、本シンポジウムを企画した山崎が司会を務め、講演を行った講師が登壇した。鬼頭梓の図書館建築の特長について、公共図書館の役割に言及しながら、意見交換を行った。

  江竜氏は、公共図書館は多様な本と幅広く出会う開かれた場としてあるという基本に立ち、図書館開設当時の町長、初代館長と設計者、準備室メンバー、本を手にする子どもからお年寄りまで町の人々と図書館の関わりを生き生きと語った。そして、新人司書の頃に鬼頭梓の文章と前川恒雄の著書に出会い、のちに館長となる自身の歩みと、図書館職員とともに目指す図書館の姿を丁寧に語った。

  佐田氏は、図書館の平面計画において重要なことは「開架をどうとるか、レファレンスをどうとるか、児童(のための空間)をどうとるか」の3点であり、それが基本的な考え方となると明言して、図書館の機能を的確に捉えた。アプローチの動線は図書館がオープンであることを意図し、各エリアから「中庭と対話」する動線は本を読む個人の行為が公共へひらくことを示唆している。図書館をつくる過程で、図書館をつくろうとする人々とディスカッションを尽くして初めて、図書館がつくられる、その熱を伝えた。そして、鬼頭も自らが描く図書館像と現実との対峙のなかで常に格闘し続けたと語った。

  島田氏は、出版や書店の時間のスピードに比べて建築や図書館の仕事はスパンが長く、「バトンをつなぐよう」に継続すると表現した。松隈氏は「時が経てば経つほど美しくなる建築」はいま難しくなっていると述べ、図書館建築のこれからを問いかけ、シンポジウムは終了した。

  なお、シンポジウムの動画は附属図書館YouTubeチャンネルにて2023年11月末まで公開している。当館ウェブサイトに掲載した音声テキストとあわせて、視聴されたい。

Ref:
“【動画配信のお知らせ】ML連携シンポジウム「鬼頭梓の建築から考える図書館の未来像」”. 京都工芸繊維大学附属図書館.
https://www.lib.kit.ac.jp/topics/desc.php?id=1693928040
“建築家・鬼頭梓の切り拓いた戦後図書館の地平”. 京都工芸繊維大学美術工芸資料館.
http://www.museum.kit.ac.jp/20230322k.html
“企画展示一覧”. 京都工芸繊維大学附属図書館.
https://www.lib.kit.ac.jp/tenji/
“シンポジウム「鬼頭梓の建築から考える図書館の未来像」”. YouTube. 2023-06-10.
https://www.youtube.com/watch?v=jKhCzNJ2kbQ
山崎泰寛, 平尾良樹編. 建築家・鬼頭梓の切り拓いた戦後図書館の地平. 京都工芸繊維大学美術工芸資料館, 2023, 95p.
鬼頭梓, 鬼頭梓の本をつくる会. 建築家の自由 : 鬼頭梓と図書館建築. 建築ジャーナル, 2008, 103p.
前川恒雄. 移動図書館ひまわり号. 筑摩書房, 1988, 218p.
前川恒雄. 移動図書館ひまわり号. 夏葉社, 2016, 253p.