E2574 – NPO本の学校10周年:横断的な読書環境の実現に向けて

カレントアウェアネス-E

No.451 2023.02.02

 

 E2574

NPO本の学校10周年:横断的な読書環境の実現に向けて

NPO本の学校・柴野京子(しばのきょうこ)

 

  NPO法人本の学校は,2022年3月に法人化10周年を迎えた。おもな事業は,地域を拠点とした読書と知の環境づくり,出版にかかわる広義の業界人教育であり,鳥取県米子市に本社をおく今井書店グループ(1872年創業)の本の学校を前身とする。同社120周年記念事業として発表された本の学校は,1995年に店舗(今井ブックセンター本の学校)を兼ねた研修施設が完成,以後5年にわたって全国レベルのシンポジウムを開催した。その後は,各種セミナーや読書推進活動が米子と東京を拠点に続けられ,2012年,活動の自立継続性を目的に法人格を取得している。

  しかしながら,設立当初とは本をめぐる環境もアクターも大きく変わり,活動の意義や目的を見直す必要性についてはたびたび議論されてきた。そうした意味から法人化10周年を迎えた2022年度は,新たなメンバーも加えて原点に立ち返り,次なる方向性を見出す契機となる事業を行うこととした。本稿ではそのうち二つのイベントの様子を紹介しながら,今後の展望を述べたい。

●本の学校文化祭

  2022年11月6日,開館間もない鳥取県境港市民交流センター・みなとテラスを会場に,一般市民に向けた入場無料のイベント「本の学校文化祭」を,鳥取県立図書館,境港市民図書館との共催で実施した。鳥取での本の学校の背景のひとつに,長年にわたる市民と図書館との歴史があるが,特に今回は本の学校の記念行事として,両館および県内の学校図書館,大学図書館,点字図書館,地域文庫など,幅広い図書館関係者が実行委員会を結成し,計画から運営までを担っている。

  プログラムは金田一秀穂氏(言語学者・山梨県立図書館長)による記念講演,本に関わる仕事をする人々によるリレートーク,作家を招いての読書会など10の分科会,お話会などで構成され,図書館では講師による一棚展示も行われた。のべ450人の参加があり,鳥取の図書館ネットワークの力が存分に発揮された催しとして,高い評価を受けた。なお,金田一氏が館長をつとめる山梨県立図書館と本の学校は,同県内の書店が参画する「やまなし読書活動促進事業」(CA1879参照)を通して交流があり,2019年には同館で本の学校の講座を開催している。

●本の学校2022ブレストミーティング:本の価値,読者,そして地域とは

  東京では2000年代初頭から,東京国際ブックフェア・神保町ブックフェアなどの出版イベントと連動して,シンポジウムを開催してきた。だが昨今では出版市場が縮小し,書店数が激減するいっぽうで,独立系のユニークな書店やひとり出版社が若者の支持を集め,本のある場所をまちづくりや地域の拠点とする動きが広がるなど,従来の枠組みではとらえきれない現象が顕著になっている。そこで1990年代の初心に戻り,さまざまな立場の人が集い,自由に議論する場を提供したいという思いから,セミナーではないミーティング形式でのイベント「本の学校2022ブレストミーティング」を,2022年11月20日に日本印刷会館(東京都)の会場および,オンラインのハイブリッド形式で企画した。

  出版,書店,図書館の各分科会ではそれぞれにチャレンジングな論点が設定されたが,会場と時間の制約で同時開催になったため,最後に総括討論を設けて各分科会の内容を共有した。分科会でも会場から活発な発言がみられたが,参加者全員には入場時に配布したポストイットに自由なコメントを記入して,休憩時間に貼ってもらい,これも総括討論で紹介した。会場とオンラインあわせて250人の参加があり,熱気に満ちた会場では,閉会後も会話を交わす人が絶えなかった。以上二つのイベントを通して賛助会員への新規申し込みが多数寄せられたのは,大きな励みである。

  本の学校の原点は知の地域づくりにある。地域を基盤にながめたとき,図書館,出版業界,新規参入や異業種といった垣根は無効化され,デジタル化も含めた広い読者の環境が切実に求められている。そのような時代にあって,テリトリーを超えて多様な経験やノウハウをつなぎ,個々の可能性を拡げていくことは,本の学校の重要な役割になりうるだろう。今後も各所に理解と協力を仰ぎながら,NPOの立場を活かした新たな知の環境の構想と実現に向けて,歩みを進めたい。

Ref:
特定非営利活動法人本の学校.
https://www.honnogakko.or.jp/
“NPO法人本の学校設立10周年記念 本の学校文化祭”. 本の学校.
https://www.honnogakko.or.jp/archives/1704
“本の学校文化祭報告”. 本の学校. 2023-01-13.
https://www.honnogakko.or.jp/archives/2112
“本の学校2022 ブレストミーティング”. 本の学校. 2022-10-10.
https://www.honnogakko.or.jp/archives/1745
“本の学校2022 ブレストミーティング報告”. 本の学校. 2023-01-13.
https://www.honnogakko.or.jp/archives/2043
“やまなし読書活動促進事業”. 山梨県立図書館.
https://www.lib.pref.yamanashi.jp/sokushin/index.html
齊藤秀. 山梨県立図書館の取組み―地元書店と連携した読書活動促進事業. カレントアウェアネス. 2016, (329), CA1879, p.2-4.
https://doi.org/10.11501/10196260