E2549 – コロナ禍の学校図書館:英国学校図書館協議会の報告書

カレントアウェアネス-E

No.446 2022.10.27

 

 E2549

コロナ禍の学校図書館:英国学校図書館協議会の報告書

佛教大学教育学部・松戸宏予(まつどひろよ)

 

  2022年3月,英国学校図書館協議会(SLA)が英国の学校図書館と学校職員への新型コロナウイルス感染症の影響に関する報告書“School Librarians in Lockdown”を公開した。

●背景と概要

  コロナ禍で学校図書館員(以下「図書館員」)を取り巻く環境は厳しく,第一波の時点で一時解雇12%,代替業務29%,在宅勤務が52%であった。背景には,管理職や教員の図書館員の役割やスキルに関する理解の欠如があった。

  では,図書館支援団体(以下「支援団体」)が協働してどのように学校図書館(以下「図書館」)関係者を擁護するのか。また,図書館員のみならず,図書館を支える支援団体や学校管理職がどのような役割を担うべきか。報告書では管理職を含む教員による,図書館員とのコミュニケーション向上や図書館員に対する理解を目指して課題と提言を示している。

  なお,分析では次のデータを用いている。SLA会員を対象に実施した2つの調査回答(2020年183件,2021年201件),SLAと図書館システムベンダのSoftlink社の調査回答1,750件,図書館員への聞き取り8件,管理職が発表した声明4件,政府の施策である。

●構成内容

  報告書は主にテーマ,結論,提言を中心に構成されている。特に,テーマは状況や背景を検証した結果と考察であり,7つの観点から成る。

  観点のうち,「仕事を続けること」では自宅待機を余儀なくされた図書館員の状況,「図書館との関わり」では児童生徒の読書や学習,精神衛生,教師と生徒の関わり方,オンラインによる情報提供,図書館員と学校管理職のコミュニケーションなど,「心の健康と生活への影響」ではコロナ禍の影響で表出した一人仕事における課題,「役割の定義」では図書館員とその仕事に対する周囲の理解不足から,図書館員が自身で説明せざるを得ない状況と図書館員の役割を述べている。

●結論

  • パンデミックの影響
    図書館員,職員,生徒の学習成果や精神衛生に影響を与えた。図書館員は単独で仕事をすることが多いが,この時期,孤立が顕在化した。
  • 図書館の状況
    図書館も教室として使用される等,本来の目的とは違う形で利用された。予算は凍結や再配分された。
  • 図書館員の置かれた状況
    図書館員の役割を誤解し,過小評価している学校では,図書館員を活用する可能性が低くなった。そのため,図書館員は一時解雇や配置転換を余儀なくされた。
  • 図書館員の役割理解が不十分な原因
    管理職や教員の図書館員に対するコミュニケーション不足や支援不足があった。
  • この状況を逆手に取った図書館員
    一方,この状況を逆手に取って行動した図書館員もいる。彼らは互いに連絡を取り合い,一緒に仕事,研修,継続的専門能力開発(CPD)の計画を立て,自分の仕事をこなすために必要なスキルを身につけていた。

●提言

  支援団体,図書館員,管理職に向けて提言している。

  • 支援団体
    図書館員の孤立を防ぐために,ネットワークに関連した支援が必要である。具体的には,教育機関とのつながりを構築し,図書館について管理職との話し合いを支援するうえで,団体としての「統率力」,「ツール」,「情報資源」,「擁護」を求めている。
  • 図書館員
    ネットワークに参加して図書館員同士が「つながる」こと。学校の同僚に話しかけ,集会に顔を出すなど「人に見られる」こと。図書館の理解を得るために,管理職に対して,あるいは集会での発表など「場を設ける」こと。
  • 管理職
    支援団体は管理職の図書館に対する理解を深め,図書館を支えるネットワークともなり得るので,そうした支援団体について熟知すべきである。管理職の図書館員に対する認識や理解は不足しており,改善すべきである。図書館員の採用では,候補者のすぐれた実践と必要なスキルや専門知識を認識する必要がある。図書館予算,CPD予算,機会,キャリア開発などを明確にする。

●所感

  図書館員が自宅待機を余儀なくされたなかで,オンラインを活用して具体的な図書館活動を行った実践は参考になると感じた。図書館員も管理職や教員の理解を得るために方略を考え実行していた。彼らはオンラインの情報源やツールを使って生徒に本や学習の提供や,アクセスしやすい無料のオンラインコンテンツ等で教員を支援する方法を開発・共有していた。

  例えば,オンラインイベント(仮想の作家訪問,読み聞かせの実施),読書の動画と視聴後の読解クイズの作成,マルチメディアコンテンツを独自に管理し教員や生徒で共有するアプリケーション“Wakelet”を利用した月刊図書館ニュースレターの作成などである。

  本稿執筆中に,日本の学校司書がコロナ禍で貸出冊数の減少や電子化の流れに対応して学校ウェブサイトに図書だよりを掲載し,教員向けに毎月の図書館利用状況の周知を行う報告に目が留まった。そこでは,児童生徒の端末の画面にOPACのショートカットキーを配置する他区の実践を知った学校司書が,この実践を取り入れるよう担当指導主事に「諦めずに言い続けます」としていた。英国と同じように,日本の図書館関係者も努力している。そこに,支援団体が教育関係者と図書館との連携をどのように擁護していくのかが問われている。

Ref:
“SLA launches report on the impact of Covid-19 on school libraries and staff”. SLA. 2022-03-10.
https://www.sla.org.uk/article/hannah-groves/sla-launches-report-on-the-impact-of-covid-19-on-school-libraries-and-staff/2467
Davison-Cripps, Emily. School Libraries in Lockdown. SLA, 2022, 57p.
https://www.sla.org.uk/patrons-appeal
中村貴子. 諦めずにアピールしよう!. 学図研ニュース. 2022, no. 441, 掲載予定.
『どう使う? 学校図書館と1人1台端末 はじめの一歩』編集委員会編著. どう使う?学校図書館と1人1台端末 はじめの一歩. 全国学校図書館協議会, 2022, 80p.