E2407 – 神奈川大学における貸出スマートフォンアプリの導入について

カレントアウェアネス-E

No.417 2021.07.29

 

 E2407

神奈川大学における貸出スマートフォンアプリの導入について

神奈川大学みなとみらい図書館・小池孝昌(こいけたかまさ)

 

   神奈川大学みなとみらい図書館では,館の開設に合わせてスマートフォンアプリ(以下「スマホアプリ」)を使用した図書の貸出サービスを導入した。以下,そのサービスについて紹介する。

●導入の経緯

   神奈川大学は2021年4月にみなとみらいキャンパスを開設した。本キャンパスは21階建てのビル型キャンパスであり,従来型のキャンパスと比較し学生数に対して延べ床面積が極めて限られている。図書館もキャンパスの2・3階に設置されたが,収蔵可能冊数が約16万冊にすぎなかった。一方で本キャンパスへ移転する学部は,外国語学部・国際日本学部・経営学部といった紙の資料を多用する人文・社会科学系の学部であり,必要な収蔵冊数を約30万冊と見積もっていた。そのため,電子資料の整備を進める一方で紙の資料を更に収蔵する方法を検討する必要があった。

   その中で生まれたのが,「キャンパス全体の図書館化」というコンセプトであった。図書館エリア外となるキャンパスの共用部に書架を設置し収蔵冊数を増やしつつ,近くに設置したラーニングコモンズでその図書館の資料を利用することができる,資料に囲まれたキャンパスというイメージである。このコンセプトにおいては,資料を利用する環境の近くで貸出サービスを実施できるとより利便性が高まるので,キャンパスの各所に自動貸出機を設置する計画を立てた。

   そのような中,2019年度の図書館総合展で開催された相模女子大学教授の宮原志津子氏の講演にて,シンガポールの公共図書館ではスマホアプリによる貸出サービスが実施されていることを知った。その後,本学職員による調査では日本国内の大学でスマホアプリによる図書の貸出を行っているケースは見当たらず,利便性はもとより新キャンパスの大きなアピールポイントになると考え,本学の図書館業務システムのベンダーでも同様のサービスを実現できるか否かについて検討した。その結果,自動貸出機を複数台設置するよりも貸出スマホアプリを開発した方がコストを抑えられると判断し,貸出スマホアプリの導入を決定した。

   さらに2020年に入り新型コロナウイルス感染症の感染が拡大する中で,貸出スマホアプリは利用者とスタッフの接触機会を削減する手段としても学内で認識されるようになった。

●概要

   図書の貸出機能は,本学で使用している図書館業務システムと連携しOPAC機能を持つスマホアプリの追加機能として開発された。基本的な仕組みは,資料に貼付された管理用バーコードをスマホのカメラで読み込み,システムと通信することで所蔵データと利用者情報を参照し,貸出処理を可能とする。利用者は図書館のカウンターに立ち寄らずとも,キャンパス内のどこからでも貸出手続ができる。

   スマホアプリの使用条件としては,以下を設定している。

  • スマホアプリにログインすること(要 学内アカウント)
  • 学内ネットワークに接続していること(学外からは使用不可)
  • 定められたバーコードを読み込むこと(現物が手元にないと手続き不可)
  • みなとみらいキャンパスに所蔵された資料であること

●セキュリティの考え方

   貸出機能を実装するにあたり,持出防止装置との連携が大きな課題であった。この点は,資料にICタグを貼付しセキュリティゲートが資料の情報を読み取れるようにした上で,図書館システムと通信しリアルタイムの貸出情報を元に通行可否の判断を行うことでクリアされた。従来の図書館とは異なり,図書館の出入り口ではなくキャンパスの出入り口の数だけ持出防止装置を設置する必要があり,警備の関連部署との連携が必須となったが,ゲート鳴動時における不正持ち出し防止の声掛けや場合により図書館への誘導といった対応方法を共有することで,図書館カウンターを経由せずに資料を貸し出すことができるキャンパスを実現した。なお,返却手続きについてはスマホアプリを利用せず,図書館カウンターおよびキャンパス内に設置した返却ボックスのみでの手続きとなる。

●サービスへの影響

   図書館カウンターの業務において,貸出処理は多くのウェイトを占めているが,スマホアプリの導入により負担を軽減することができる。本学では,負担軽減分を人件費の削減に充てるのではなく,設置学部の専任担当者であるリエゾンライブラリアンの配置に充て,各学部の教員や学生に対する利用者教育やパスファインダー等の関連資料の作成,相談業務や選書等,研究や学修のサポート体制の強化を図っていく。

●今後に向けて

   今後は本学の他キャンパスへも貸出機能の稼働範囲を広げる予定であるが,既存キャンパスでは大多数の資料がICタグ未貼付である。改修工事中である中央館である横浜キャンパスの図書館を中心にICタグおよびタグを貼付するための人件費等コストをかけて進めるか,一部資料のみICタグを貼付しスマホアプリ対応とするかといった対応策を現在検討している。

   また,貸出機能の導入が貸出冊数等にどう影響するか,効果測定を実施する予定である。

 

Ref:
“日本の大学で初!スマートフォンアプリから図書の貸出を行うサービスをみなとみらいキャンパスで開始!”. 神奈川大学.
https://www.kanagawa-u.ac.jp/pressrelease/details_21528.html
図書館利用の手引き2021― みなとみらい図書館 ―. みなとみらいキャンパスみなとみらい図書館. 13p.
https://www.kanagawa-u.ac.jp/library/att/21659_54395_010.pdf