カレントアウェアネス-E
No.404 2020.12.10
E2331
日本古典籍研究国際コンソーシアムの設立について
日本古典籍研究国際コンソーシアム事務局・山本嘉孝(やまもとよしたか)
2020年11月1日,国内外58機関(国内28,海外30)の参加を得て,日本古典籍(19世紀までの日本で作られた書物の総称)を対象とした世界初のコンソーシアムである「日本古典籍研究国際コンソーシアム」(英名Global Consortium for Japanese Textual Scholarship)が設立された。
日本古典籍の内容は,狭義の「文学」に限定されず,歴史・思想・宗教・美術から,医学・兵学・天文学・和算・農業まで,あらゆる分野にわたっている。所蔵先も日本国内にとどまらず,世界各地に広く分布している。そのため,日本古典籍の保存と研究には,組織,国・地域,専門分野をまたいだ協力が必要となる。
これまでも,様々な形で,日本古典籍の保存と研究のために国際的な連携が取られてきた。個人同士の協力や,個別の資料調査,研究プロジェクトなどに加え,例えば,2007年以降,在外日本古典籍研究会(OJAMASG)は,欧米・オセアニアに所在する図書館の日本研究司書のために研修の場を提供してきた。国文学研究資料館の「日本語の歴史的典籍の国際共同研究ネットワーク構築計画」(略称:歴史的典籍NW事業)では,2014年以降,特にデジタル画像を活用した国際的な研究ネットワークの構築が進められてきた。
ただ,今後,さらに連携の輪を広げ,持続的なものにしていくためには,機関の連携という形を取ることで,個人の人脈だけに依存しない,開かれた研究者・専門職員・学生のネットワークを築いていくことが必要であった。その考えのもと,2020年4月,国文学研究資料館内に国際コンソーシアム設立準備室(現・日本古典籍研究国際コンソーシアム事務局)が設置された。
コンソーシアムの参加機関となることができるのは,国内外の教育機関,研究機関,資料保有機関,学協会である。大学・大学院の研究科・学科・専攻・プログラム,研究機関や資料保有機関の部・課など,参加しやすい組織の単位で加わることができ,同年7月以来,随時,参加機関の申し込みを受け付けている。参加費はなく,ノルマのようなものもない。将来,特定のプロジェクトについて,参画を希望する機関のみが資金を出し合う場面も想定されるが,それは強制されるべきものではない。どこまでも「ゆるやかな連携」を目指す団体である。
コンソーシアム事務局は,大学共同利用機関である国文学研究資料館が担当し,参加機関が互いに連絡・協働しやすい場の形成を後押しすることがその役割である。コンソーシアムは,国文学研究資料館とは別の任意団体であり,活動計画や運営方法も,コンソーシアム全体の話し合いによって決めていくことになる。
本稿執筆時点での参加機関数は70(国内33,海外37)で,日本・世界各地の図書館,美術館,様々な分野の大学の研究科・研究機関等の司書・学芸員・研究者等が各参加機関の窓口担当者を務めている。どこからでも参加しやすいように,コミュニケーションにはメールとZoomを用い,コンソーシアムの活動もオンラインで行う予定である。日本古典籍の保存と研究に携わる,これほど多彩な国内外の専門家たちが集う場は,非常に貴重であると考えている。これから,日本古典籍に関係する情報やノウハウを共有しながら,調査・研究,人材育成,データベースの活用などをめぐって力を合わせるためには,どのような方法が望ましいのか,コンソーシアム全体で知恵を出し合い,試行錯誤を重ねていくことになる。
また,11月7日にはコンソーシアム参加機関によるラウンドテーブル(Zoom開催,YouTubeライブ配信)を開催した。米・ハワイ大学マノア校図書館,東京大学附属図書館,日本女子大学文学部日本文学科,埼玉大学大学院人文社会科学研究科の4機関の窓口担当者が自身の機関の保有資料や取り組みを紹介しながら,今後コンソーシアムで進めていきたい活動について意見を出し合った。各参加機関が所蔵する貴重資料に関する情報の整備と共有や,学生対象のくずし字講習に関するノウハウの共有の必要性について問題提起がなされた。時差の関係もあり,全参加機関が一堂に会することは難しいが,リアルタイムで会話することの大切さを再認識した。今後,テーマごとに少人数で集まることのできる分科会(ワーキンググループ)や研究会などのオンライン開催について,具体的な計画を立てていきたい。
Ref:
日本古典籍研究国際コンソーシアム.
https://kotenseki.org/
在外日本古典籍研究会(OJAMASG).
http://www.jlgweb.org.uk/ojamasg/index.html
“日本語の歴史的典籍の国際共同研究ネットワーク構築計画”. 国文学研究資料館.
https://www.nijl.ac.jp/pages/cijproject/