カレントアウェアネス-E
No.392 2020.06.11
E2265
「北海道学校図書館づくりサポートセンター」のオープン
北海道ブックシェアリング・竹次奈映(たけつぐなえ)
選書や装飾作りなどの支援,有益な情報の提供を通じ学校図書館をサポートする,北海道学校図書館づくりサポートセンター(以下「サポートセンター」)が,2020年4月15日に江別市(北海道)内にオープンした。サポートセンターを開設した一般社団法人北海道ブックシェアリング(以下「当会」)は「だれもが豊かな読書機会を享受できる北海道にしよう」を合言葉に,2008年から活動しているNPOである。本を必要としている施設や団体に読み終えた本を無償提供する活動や,被災地(東日本大震災・北海道胆振東部地震)の読書環境の整備支援,公共図書館などが主催するブックイベントへの協力,道内の学校図書館の調査などに取り組んできた(E2045参照)。
サポートセンター開設の背景には,学校図書館の調査で感じてきた地域や学校の間の格差がある。調査では,学校図書館を訪問して,可能な限り担当教員から細やかに聞き取りを行っている。立派な施設に新鮮な情報が並び,親しみやすい学校司書がいる学校図書館もあれば,資料の整理が十分に行き届かなかったり,資料の更新が追いつかない図書館もあり,学校によって大きな格差があった。課題を抱える学校図書館に共通するのは,学校図書館を支える人が少ないことだった。調査の際,担当教員から「子どもたちに学校図書館で購入する本のリクエストを募集しても,地域に書店がないので新刊を見たことがなく,まったく応募がない」「ほかの業務を兼任しているので,図書館でやりたいことがあっても手がまわらない」「初めて学校図書館を担当するので,何をしたら良いかわからない」などの相談を受けることが多い。北海道は、約4割の市町村に書店がない状況で,公共図書館の設置率は全国でもワーストレベルであり,学校司書の配置状況も小学校・中学校ともにワースト2位である。それらが地域内で学校図書館づくりに参加できる人が少ないことにつながっている。
そこで,子どもたちにとってかけがえのない読書の場である学校図書館を整備していくために,当会は学校司書や学校図書館を担当している教員を手助けするサポートセンターを構想し,開設することにした。
サポートセンターは,大きく分けて四つのサポートを展開する。それらは,これまで当会に寄せられた要望を基にしている。
●学校図書館向けの見本図書の常設展示
サポートセンターでは,学校図書館向けの本を約2,500冊展示している。展示しているのは,絵本・児童書の新刊本や,授業で活用できそうな資料本,図鑑,辞典などである。常設なので,学校司書や教員の都合の良いときにいつでも利用可能である。購入の希望があれば注文も受ける。また,人口5,000人未満の地方公共団体を対象に,費用無料で出張展示会の開催も受け付けている。要望に合わせて本を選書し,開催地域まで持参して,学校や地域の会館などで展示会を開催する。
●学校図書館管理システムのデモンストレーション
道内の学校図書館では,蔵書や利用者の管理を台帳やExcelで行っているところもあり,管理システムについて相談されることが多い。そこで,使い方や機能を確認できるよう,キハラ株式会社の学校図書館管理システムを,操作できるようにした。他社のシステムに関するパンフレットも用意しており,機能を比較しながら検討することもできる。
●学校図書館づくりのための装飾や館内サインの提案や制作のお手伝い
学校図書館を整備するときに,侮れないのが館内の装飾やサインなどの見栄えを整えることである。学校図書館の入り口に,「ようこそ」の看板をひとつ置くだけで,児童や生徒の入りやすさが変わってくる。サポートセンターでは季節に合わせた装飾や,本を探しやすいような館内サインを提案し,制作お手伝いの要望があれば一緒に作業する。必要な材料の費用は自己負担であるが,作業は当会のボランティアで行う。
●学校図書館に関する情報提供
全国学校図書館協議会が定める「学校図書館評価基準」や,学校図書館作りの参考になりそうな資料の閲覧,道内の学校図書館の状況がわかるデータやカルテ,出版社からの新刊案内やカタログなどの無料配布または閲覧サービスを行っている。また,図書を使った授業案やおすすめ本の紹介も行う。学校や地域の状況によっては,学校図書館でできることに制限がある場合があるので,似た状況の学校図書館のやり方を紹介するなど,利用者に合わせた情報を提供したいと考えている。
サポートセンターは,この四つのサポートを展開することで北海道の学校図書館の整備を目指す。利用は完全予約制で,利用可能時間は平日の午前10時から午後9時までと,土曜日・祝日の午前10時から午後7時までである。全国的にもNPOが同様の支援に取り組んでいる例が少ないため,学校図書館整備に向けた動きとして,各方面からどのような反応があるか未知な部分も多い。しかし,NPOの強みである「課題解決に向き合う姿勢」を大切に,積極的に活動を進めていきたい。現在は,新型コロナウイルス感染症の影響で利用が少ないのが残念だが,事態が収束した際に,より使いやすい場になるようスタッフ一同,準備を進めている。
Ref:
“北海道学校図書館づくりサポートセンター”. 一般社団法人北海道ブックシェアリング.
https://booksharing.wixsite.com/bookshare/blank-28
一般社団法人北海道ブックシェアリング.
https://booksharing.wixsite.com/bookshare
荒井宏明. 北の読書環境シンポジウム<報告>. カレントアウェアネス-E. 2018, (351), E2045.
https://current.ndl.go.jp/e2045