E2264 – 企画展の工夫による少女雑誌の利活用促進

カレントアウェアネス-E

No.392 2020.06.11

 

 E2264

企画展の工夫による少女雑誌の利活用促進

菊陽町図書館・松本和代(まつもとかずよ)

 

●少女雑誌の概要 「少女雑誌」とは

   菊陽町図書館(熊本県)では,2020年2月15日から4月13日まで「-WANTED-乙女のふろくを救出せよ!!」展を開催した。

   当館には,当町在住の村崎修三氏が収集し,2003年に同氏から寄贈を受けた少女雑誌コレクション(雑誌約3,000冊,ふろく約1,600点)がある。当館では1900年代から1970年代に発行された「連載小説が掲載されているもの」を「少女雑誌」と定義している。主に現在における小学校高学年から高校生くらいの年齢の少女を対象とし,小説,詩,ファッション,ヘアスタイル,インテリア,料理,芸能,手芸等多岐にわたる分野について書かれていた。現代の文芸誌とファッション誌を合わせた総合誌のような存在であったといえる。川端康成,西條八十,吉屋信子の小説や随筆,ヘッセやハイネの詩等の文学作品から美術評論等の論説まで幅広く掲載されている。また,挿絵には竹久夢二や中原淳一,蕗谷虹児等が起用されていた。少女雑誌は,少女の教養や感性を育む存在だったのである。

●データベース化

   少女雑誌コレクションはデータベース化が進んでいる。京都精華大学が日本学術振興会の科学研究費補助金を申請し,2004年度・2005年度に受けた補助金で「黎明期少女雑誌・マンガデータベース」を作成した。同データベースを継承した京都国際マンガミュージアムの所蔵資料検索ページには,当館が所蔵している明治・大正・昭和の少女雑誌・漫画コレクションの書誌,目次情報,画像アーカイブが格納されている。

   また,2015年度から2017年度の文化庁メディア芸術アーカイブ推進支援事業の一環で,当館所蔵の少女雑誌を対象に雑誌のデジタル化と著作権の調査が行われた。その成果として,1912年創刊の『少女画報』(東京社・新泉社刊)の一部について,著作権の保護期間が満了しているページをウェブ公開している。さらには,文化庁「メディア芸術データベース」のマンガ分野において,当館所蔵の少女雑誌の書誌情報のデータベースが組み込まれている。

●少女雑誌コレクションの課題

   当館では,このように他機関と連携しながら少女雑誌コレクションのデータベース化をはかってきたが,課題も残っている。

   まず,コレクションの雑誌やふろくに詳しい情報がわからないものが数多くあるということである。また,近年,実際に少女雑誌に触れ,懐かしむ世代が少なくなってきたこともあり,少女雑誌コレクションの利活用促進のため,若い世代に少女雑誌について興味を持ってもらう必要性を感じている。そこで,当館では,そのような課題を解決するための企画展を開催した。

●「-WANTED-乙女のふろくを救出せよ!!」展

   冒頭で述べた「-WANTED-乙女のふろくを救出せよ!!」展は,コレクションに含まれるふろくの中で,表示がないためにどの雑誌のいつの時代のものか,誰のイラストなのか情報がわからないものの手がかりとなる情報を探るために実施したものである。会期中は情報調査票と調査票を入れる箱を設置し,当館のブログ等で情報の提供を求めた。雑誌のふろくは,本誌には情報が書かれていることもあるが,その本誌自体を所蔵していなかったり,古い雑誌では本誌そのものにも情報がなかったり,本誌掲載の情報が現物とは若干異なるものもある。新型コロナウイルス感染拡大防止のための臨時休館を挟んだことで会期が短くなってしまったが,結果として,展示していた119点のうち,30点のふろくについて情報を得ることができた。

●「勝気なキャッチコピー」展

   2019年6月26日から9月1日まで開催した「勝気なキャッチコピー」展は,若い世代にも少女雑誌を楽しめるように企画したもので,少女雑誌とその後の少女漫画雑誌に時折見られる「勝気」または「強引さ」を感じさせるフレーズなど,興味深いコピーが書かれているものを展示した。太平洋戦争中であれば「撃ちてし止まむ」(『少女の友』1943年3月号)等の戦意高揚を意図したキャッチコピーが多数見られた。池田理代子著「ベルサイユのばら」が表紙の『週刊マーガレット』1973年8月5日号には「今週もママととりあい!」など母娘で漫画を楽しんでいる様子などが伺える。展示には,家族連れが多く訪れ,親子で会話を交わしながら懐かしむ姿も見られた。時代によって移り変わる表現も合わせて楽しんでもらえる内容であった。

   少女雑誌はその優れた内容と,テレビの普及までは情報入手のためにとても貴重な存在であったことから,少女は大事に読み返してきた。しかしながら長い年月を経て雑誌資料はほとんど保存されていない。価値ある雑誌資料をもっと多くの人に知ってもらうため,親しみやすい内容の企画展を今後も開催していきたい。

Ref:
“「-WANTED-乙女のふろくを救出せよ!!」”. 菊陽町図書館ブログ. 2020-02-16.
http://kikuyo-lib.hatenablog.com/entry/2020/02/16/090000
“明治~昭和 少女雑誌のご紹介”. 菊陽町図書館.
https://www.kikuyo-lib.jp/?page_id=119
“研究閲覧室”. 京都国際マンガミュージアム.
https://www.kyotomm.jp/material/research/
メディア芸術データベースベータ版. 文化庁.
https://mediaarts-db.bunka.go.jp/manga
菊陽町図書館少女雑誌コレクション. 菊陽町図書館.
https://kikuyo.iri-project.org/
“勝気なキャッチコピー展”. 菊陽町図書館ブログ. 2019-06-26.
http://kikuyo-lib.hatenablog.com/entry/2019/06/26/170940