カレントアウェアネス-E
No.366 2019.03.28
E2118
琉球大学附属図書館「迷子の本を探しています」実施報告
琉球大学附属図書館(以下「図書館」;沖縄県西原町)は,2019年1月7日から2月11日にかけて,館内イベント「迷子の本を探しています」を実施した。本稿では,当イベントの実施背景と実施内容,結果とその評価について報告する。
●実施背景
「迷子の本」とは,配架されているはずの書架にない不明資料のことである。図書館では,本館の蔵書約87万冊のうち,貴重書等を除く約82万冊を開架方式で提供し,館内利用した資料は利用者自身が元の書架へ戻す方式を取っている。したがって,利用者も書架管理の一端を担っているという側面がある。実際には残念ながら書架が乱れ資料が探しにくい状態や,全く異なる書架に移され探す資料が見当たらない状態が少なくないのが実態である。今年度,本学では,全事務部門で業務改善への取り組みを行うこととなり,図書館でも若手職員を中心に,より効果的な利用者教育の実現と職員の業務負担軽減を目的として,クイズ形式のセルフツアーによる図書館利用方法の習得イベントなどと共に,当イベントを試行した。同様のイベントは2010年から2014年まで年に一度のペースで実施していたが,耐震改修工事の開始に伴い2015年以降中断していた。上記の業務改善の取り組みの一環として,内容を見直したうえで復活させたものである。
●実施内容
「迷子の本」は,2013年以降に本館で受入れを行った比較的新しい資料の中から選定した。現物が所定の場所になく見つからない資料は,図書館システム上で不明資料として他の資料と区別しており,それらの中から複本があるものを除き,利用者が興味を示しやすいと思われる資料8冊を探索対象資料として厳選した。不明資料を「迷子の本」と表記した背景には,利用者に不明資料の問題を身近に感じてもらいたいとの思いがある。当イベントは不明資料を探索することだけではなく,書架に正しく資料を戻さないことが,巡り巡って自分自身に跳ね返ってくることを,「迷子の本」の捜索を通じて実感して欲しいというのが最大の目的である。
事前準備として,表紙・請求記号・資料番号・本来の配架場所といった資料の情報を記載したポスターを1冊につき1枚作成し,8枚まとめて閲覧室の前に掲示を行った。また利用者が資料情報を手にしながら探せるよう,B5サイズに印刷したチラシも併せて作成し,掲示の近くに設置した。チラシの裏面をアンケート用紙とし,「迷子の本」を見つけたか否かにかかわらず,興味を持ってチラシを手にした利用者の声を集められるようにした。なお実施場所は医学分館を含めず,本館のみとした。
●結果とその評価
結果として,「迷子の本」は8冊の内1冊が発見された。学生が多忙な時期での試行だったこともあり,チラシの配布枚数が約50枚,アンケートが回収できたのは12名と参加者数自体は多くなかった。それでも参加者からは「面白い企画である」「本を置く際は,元の場所に戻そうと思った」などの好意的な意見や期待していた不明資料発生の予防につながる意見が多く挙げられた。当イベントをSNSで取り上げてくれる利用者や,掲示の前で立ち止まる利用者も多く見受けられ,不明資料の問題に高く関心を寄せてもらえたと感じている。また「探索中に読みたい本と出合った」といった,こちらの想定を超えた新しい発見につながる意見も寄せられた。
このような体験型イベントを通じて,不明資料が発生することの問題を実感してもらい,正しい図書館資料の利用へとつなげていこうという取り組みには,一定の効果があったのではないかと考える。より多くの利用者に不明資料の問題を認識してもらえるよう,当イベントを継続及び発展させることを検討していきたい。
琉球大学附属図書館・伊藤卓也,與那覇政輝