カレントアウェアネス-E
No.333 2017.09.21
E1955
第23回鳥取県図書館大会<報告>
2017年7月27日,倉吉未来中心小ホールを主会場に,第23回鳥取県図書館大会(鳥取県図書館協会主催)が開催された。今大会では,近年図書館に求められている“居場所”としての役割にスポットを当て,「発見!サードプレイス ~“居場所”としての図書館~」を大会テーマに,記念講演,鼎談,4つの分科会を開催した。
今年度の開催地である倉吉市は県中部に位置する。県中部は2016年10月21日の鳥取県中部地震(E1864参照)で大きな被害のあった地域であり,会場である倉吉未来中心も被災後は全面閉鎖を余儀なくされ,復旧工事を経て2017年4月30日に全館復旧したところである。大会の実行委員会でも災害対応は今回ぜひ扱うべきテーマであるとして,これをテーマとした分科会を設けることとなった。
まず,「発見!サードプレイス ~全国の事例から~」という演題で,アカデミック・リソース・ガイド株式会社の代表取締役・プロデューサーの岡本真氏が記念講演を行なった。1,800以上の図書館・文化施設を実際に訪れ,全国各地の新図書館整備のコンサルタント・アドバイザリーも務めている岡本氏から,コワーキングスペースやシェアハウス,コミュニティカフェまで,全国のサードプレイスの先進事例をあえて図書館以外の事例を中心として紹介が行われた。図書館という限られた枠の中で考えがちな我々図書館員が,広い視点で社会に必要なサービスを考えることの必要性についての示唆を得るとともに,全国の先進的な事例に会場の参加者が大きな刺激を受けた講演であった。
続くプログラムでは,「子どもたちのサードプレイス ~図書館の可能性~」をテーマに鼎談を行った。県内の学習支援施設・子ども食堂を運営するNPO「こども・らぼ」の岡武司氏,学校や社会教育の現場での勤務歴が長い鳥取県図書館協会会長の山田晋氏,図書館のカウンターで日々様々な相談に対応している県立図書館司書の高橋真太郎氏が登壇し,「子どもの居場所」を切り口に,サポートが必要な子ども・家庭に対し図書館は何ができるのかを考える場とした。特に,日々現場で子どもに接する立場から,家庭で満足に食事ができない子どもや大人に心を開くことが難しい子どもが実際に県内にいるという状況を知る貴重な機会となり,こうした事例をふまえた子どもにとってのサードプレイスはどうあるべきかを考える場となった。
分科会は次の4テーマを設定し開催した。分科会ア「震災と図書館 ~中部地震から学ぶ~」では,鳥取県中部地震で大きく被災した北栄町図書館館長の妻由静代氏と県立倉吉農業高等学校司書の前田久美子氏から被災当時の状況とその後の対応やボランティアによる復旧支援について報告があった。また,県立図書館支援協力課長の小林隆志氏より,地震後の県内図書館の被災状況把握の取り組みや災害対応に向けての平時の取り組み等について報告があった。2016年度の地震以降初めて広く県内の図書館関係者が集まって考える場となり,平時の備えや災害に際しての図書館の役割について考える機会となった。分科会イ「多様な学びを支える学校図書館」では,安来市立十神小学校の司書教諭樋野義之氏と鳥取大学附属特別支援学校の司書教諭児島陽子氏より,それぞれの小学校・特別支援学校での取り組みについて実践報告が行われた。マンダラチャートやボーン図など,思考を整理する道具としてのシンキングツールの活用,読めない原因への対処としての文章を指で追って読む「指読み」等学年に合わせた取り組み,職員による児童が理解し易いかたちでのパスファインダーやリライト資料の作成など,具体的な実践やノウハウを数多く紹介された。分科会ウ「広がれ,読み聞かせの輪!」では,おはなしグループ「がらがらどん」代表の池田緑氏,鳥取短期大学附属こども園保育教諭の中島佳乃氏,県立図書館司書の筆者の三者が「読み聞かせのつながり」等,5つのトークテーマで読み聞かせや子どもとの関わりについて議論を深めた。それぞれの立場での取り組みや経験の話をもとに,読み聞かせの実践やそれを聞いて育ってきた経験,現在育児の真っ只中にいる立場だから感じることなど,参加者があらためて読み聞かせや子どもとの関わりについて考える会となった。分科会エ「文庫本改装ワークショップ」では,倉吉市立図書館の職員を講師に文庫本にハードカバーの表紙を付けるワークショップを行った。楽しみながら本の造りについて学ぶことのできた参加者の満足度の高いワークショップであった。
今大会は全体で250人を超える参加者があり,県内に加え県外からも複数の参加があった。様々な立場の参加者が交流を深めるとともに,「サードプレイス」「サポートの必要な家庭の支援」「災害対応」等,近年図書館として対応が必要となってきているテーマについても研鑽を深めることができ,意義のある大会となった。
鳥取県図書館協会事務局・麻田真
Ref:
http://www.library.pref.tottori.jp/la/cat8/cat6/28-22-1.html
E1864