カレントアウェアネス-E
No.326 2017.06.08
E1920
NACSIS-CAT/ILLの軽量化・合理化の実施方針
2017年2月8日に「NACSIS-CAT/ILLの軽量化・合理化について(実施方針)」(以下,「実施方針」)がこれからの学術情報システム構築検討委員会(以下,「これから委員会」)から公開された。日本の学術情報流通を支える目録所在情報サービスの中核であるNACSIS-CATの稼働は1984年,運用開始が1985年である。以来30年余,データ構造,運用等の基本的設計はほとんど変わっていない。一方で学術情報流通の環境には大きな変化があり,検索技術をはじめとするICT技術の進歩や識別子の普及,電子ジャーナル・電子ブック等のデジタルコンテンツの急速な利用拡大,出版物のボーンデジタル化,大学図書館における目録担当者の大幅な減少等が生じている。NACSIS-CATはこの変化に対応できていないのではないか?業務フローも含めた抜本的な見直し,さらには新たな学術情報システムのグランドデザインが求められているのではないか?(CA1862,E772参照)そのような問題意識から,NACSIS-CATの再検討組織として2015年に,これから委員会の下にNACSIS-CAT検討作業部会(以下,「作業部会」)が設置された。作業部会は大学図書館の実務に携わってきた図書館員から構成され,2020年をNACSIS-CAT/ILL見直しの一つのポイントとして検討を重ねてきた。
これから委員会は「これからの学術情報システムの在り方について」(2015年5月29日)及び「NACSIS-CAT/ILLの軽量化・合理化について(基本方針案の要点)」(2015年10月27日)(以下,「要点」)でNACSIS-CAT/ILL再構築の構想を示した。要点では,書誌作成機能と書誌利用(検索)機能との分離,書誌作成機能であるNACSIS-CATの軽量化・合理化,NACSIS-ILLを含む書誌利用(検索)機能の強化等の方向性が示されている。
「NACSIS-CAT/ILLの軽量化・合理化について(基本方針)」(以下,「基本方針」)は,要点で示された方向性を受けて,作業部会が必要な実施項目を抽出し,基本的な方針を定めたものである。2016年3月に案を公開し,4月にパブリックコメント募集を行い,7月に基本方針を確定した。実施方針はこの基本方針をブレイクダウンし,システム開発および運用見直しのために具体的に必要な要件を定めたものである。
作業部会では,「機械処理性の向上」「既存情報源の徹底的活用」をはかり,書誌作成システムと書誌利用システムを明確に分離する方向で検討を進めている。具体的には,書誌作成者が用いる書誌作成システム側では機械処理を前提としたシンプルな構造の書誌作成を進める。一方で,利用者が用いる書誌利用システム側では名寄せ技術等の機械処理を前提として,他のシステムとの相互運用を積極的にはかりながら,著者名典拠情報の充実化等,情報量の豊富な書誌の提供をはかる。
現在のNACSIS-CATでは,一つの書誌作成ルールのもとに,書誌作成者が書誌登録時に,書誌の重複排除,書誌の階層や関連付けの付与等の調整を行い,利用者はその調整後の書誌に直接アクセスし利用する。これは80年代から90年代の技術を前提としたもので実用性は高く30年間にわたって運用されてきた。しかしこの運用は,各参加機関に高い書誌作成能力をもった図書館員が存在することを前提としており,その前提は前述のように急速に崩れつつある。また書誌構造も複雑で,機械処理になじまない点が多い。一方で検索技術,テキスト処理技術の進歩により,元となる書誌の品質の精粗は技術的にカバーできるようになってきている。例えばCiNiiでは既に複数の情報源の書誌データを機械的に処理,統合したデータを利用者側に提供している。
今後,書誌作成業務をどのように変更しようとしているか。まず外部機関作成の複数のMARCをNACSIS-CATに事前登録し,所蔵の無い書誌も許容する。また同一資料に対する複数の書誌データの存在,外部機関が複数の目録規則に拠って作成した書誌データの混在も許容する。書誌作成単位は出版物理単位へ変更し,タイトルは共通で上・下や1巻・2巻等の表記のみで区別されている場合でも,今後は原則として物理単位ごとに書誌を作成する(VOL積みの中止)。また書誌の階層化も必須から任意に変更し,叢書等の上位の書誌(親書誌)が存在する場合でも,書誌データ作成およびリンク付けは任意とする。これまでのレコード調整は廃止し,今後は修正項目を「発見館修正可」と「修正不可(=別書誌作成)」に分ける。これらは運用面で大きな変更を求めることになるため,「目録情報の基準」,入力ガイドライン整備を進めるだけではなく,説明会・研修会等も開催する。システム面では,各館図書館システムとNACSIS-CATシステム間のデータ転送プロトコルであるCATPは,データベースのフィールド定義の変更にとどめ,メソッド等の通信にかかわるルールは基本的には変更せず,各機関の図書館システムへの影響を最低限にとどめる。
ここまで図書の書誌について報告してきた。雑誌の書誌についても検討を行ってきたが,雑誌はシステムの完成度が高く,現在のシステムを継続して使用することとなった。またILLについては,現時点ではCAT変更にともなう変更部分までを検討の対象としており,本格的な検討はこれからである。
以上,NACSIS-CAT/ILLの軽量化・合理化の検討状況について報告してきたが,しかし2020年は見直しのゴールではなく,新たな学術情報システム構築にむけた通過点と考えている。今後,軽量化・合理化ばかりでなく,機能の強化,特に様々なデジタルコンテンツ運用システムとの相互運用につなげていきたいと考えている。
筑波大学・三角太郎
Ref:
http://www.nii.ac.jp/content/korekara/archive/korekara_doc20170208.pdf
https://www.nii.ac.jp/CAT-ILL/about/history.html
http://www.nii.ac.jp/content/korekara/about/catwg/rule/rule_catwg.pdf
http://www.nii.ac.jp/content/korekara/archive/korekara_doc20150529.pdf
http://www.nii.ac.jp/content/korekara/archive/korekara_doc20151027.pdf
http://www.nii.ac.jp/CAT-ILL/about/infocat/korekara/
http://www.nii.ac.jp/content/korekara/archive/korekara_doc20160325-1.pdf
http://www.nii.ac.jp/content/korekara/archive/korekara_doc20160325-2.pdf
http://www.nii.ac.jp/content/korekara/archive/korekara_doc20160629.pdf
E772
CA1862