E1696 – 「ひとハコ図書館」からはじめる新しい図書館

 

カレントアウェアネス-E

No.286 2015.08.06

 

 E1696

「ひとハコ図書館」からはじめる新しい図書館

 

1.はじめに

 公共図書館は地域に暮らし生活する人々(市民)のためにある図書館である。筆者の勤務する東久留米市立図書館(以下当館)は,1971年の開館以来,多くの事業において市民と協働して運営してきた。公共図書館に「課題解決」の役割が求められるようになり,当館も今後のあり方を検討する中,利用者懇談会や図書館協議会の場とは別に,市民が図書館のことを考えられるような場を設けたいと考え,2015年5月31日に「図書館フェス2015」を開催した。本稿はその構想から開催までを運営側から紹介するものである。

2.図書館フェスの構想

 企画の目的は主に次の4点であった。(1)東久留米市が図書館の「主権者」である市民の意向を運営に生かすため,市民が様々な意見を出し合うこと,(2)市民が他の図書館の動向を知り,必要なサービスを提案するために学ぶこと,(3)市民と東久留米市が持続可能な図書館運営についてともに知恵を出し合い,協力するための土台とすること,(4)図書館を利用する人々だけではなく,図書館になじみのない人々にも未来に向けた図書館像を考えてもらうこと。

 そのためには,図書館にどのような可能性があるかを知る必要がある。そこで,元塩尻市立図書館館長の内野安彦氏に「新しい図書館のはじめ方」というテーマで講演いただいた。また,市民からの意見聴取方法として,企画当初は各自のアイディアを書いた付箋をパネルボードに貼り付けるブレインストーミングによるワークショップを検討していたが,その後地域の交流の場としての図書館を表現するためには視覚的に見せる「交流型展示(ひとハコ図書館)」も有効ではないかと考え,「講演」「交流型展示」「アイディア出し」の三部構成のイベントで「図書館フェス」とした。

3.ひとハコ図書館とは

 当館では,2013年10月,ICタグ読み取り方式の自動貸出機を導入し,利用者自身の操作で複数の資料を一度に借りられるようになった。これを機に,不定期に「びっくり福袋」「みんなの本棚」という取り組みを行っている。図書館スタッフのすすめる本やCDを中身の見えない状態でラッピングし,セットで貸し出す「福袋」イベント(E1007参照)は全国の図書館で定着しつつあるが,当館では福袋とともに配布した,全福袋の内容が分かる冊子が大変好評であった。図書館スタッフや利用者などがおすすめコメントを付したカードと共に資料を展示する「みんなの本棚」も同様で,「誰が・誰に・何を・どんな理由で」推薦しているか明確にすることで興味を惹くのではないかという実感があった。その体験から「市民が考えるみんなの本棚」という方向性が定まった。また,小さな箱やスペースで本と人をつなぐ例として,「一箱古本市」(CA1813参照)やマイクロ・ライブラリー(CA1812参照)にも示唆を受けた。これらを組みあわせ,「市民の考えた小さな図書館」を一堂に集めて見せる,「ひと」=人,「ハコ」=図書館を融合させた,「ひとハコ図書館めぐり」という交流型展示を企画した。

4.自分がつくる・みんなでつくる図書館

 「ハコ」の出展者については公募ではなく,地域に根ざして活動する,本に関心のある個人・グループに依頼した。市内の出版社代表,地域情報紙記者,Wikipedia編集者,市内の図書館好きな幼稚園児から小学校高学年までの3組の子供たち,図書館をボランティアで支えている団体,本好きな市民などが当館からの依頼に応え,最終的に27の「ひとハコ図書館」が誕生した。各出展者が自由な発想で選書し,理想の図書館をプロデュースし,当日も積極的に自分の図書館の説明を行うなど,本を介して交流する姿があちこちで見られ,会場は熱気に満ちていた。

 これを受け,参加者には「アイディア出し」を行ってもらった。参加者が「こんな図書館がいい」と思うことをカードに書いてボードに貼る形で行い,最後に講師の内野氏によるまとめで終了した。内野氏の「新しい図書館は市民みんなでつくる」の言葉通り,「ひとハコ図書館めぐり」を実施することで,出展者の本や図書館への様々な思いが表出し,多くの来場者を刺激したことは確かである。アンケートには「自分も館長になりたい」という要望が多数寄せられた。ひとハコ図書館で,「自分がつくる図書館」の可能性を市民が感じたのではないかと思う。

5.おわりに

 「図書館は万華鏡」とも表現される。万華鏡は,回す人がいないと美しい景色は生まれない。図書館員は資料や情報を市民に届け, 出版文化を守り,組織としては市民の望む図書館像を地域の施策や教育に反映させ,実現させる責務がある。図書館員がそれらの役割を果たす努力を忘れ,一方で市民が単なる利用者となり,図書館のあり方の検討がなされなくなったとき,公共図書館はその存在意義を失いかねない。公共図書館は市民が考え・つくり,図書館員がそれを支えていくものであってほしい。図書館づくりを考える交流が各地の図書館で展開され,続いていくことを願っている。

東久留米市立中央図書館・藤井慶子

Ref:
https://www.lib.city.higashikurume.lg.jp/clib/libfes/libfes2015.html
http://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/tosho/houkoku/05091401.htm
http://sbs.yanesen.org
http://machi-library.org
http://arizona.openrepository.com/arizona/bitstream/10150/105454/8/fivelawsch5.pdf
http://www.pot.co.jp/zu-bon/zu-06/zu-06_154
E1007
CA1813
CA1812
竹内 悊. 万華鏡のような面白さ 人と本と図書館と. 出版ニュース. 2014, (2365), p.4-9, ISSN 0386-2003.