E1450 – FundRef―その研究助成はどのような研究成果を生んだのか?

カレントアウェアネス-E

No.240 2013.07.11

 

 E1450

FundRef―その研究助成はどのような研究成果を生んだのか?

 

 2013年の世界における研究開発投資総額は前年より3.7%増加しておよそ1.5兆ドルに達すると予測した調査がある。不況にあえぐ米国や欧州では低下するものの,中国などの急成長国では激増が見込まれるためだという。

 しかしながら,官民を問わず,こういった世界中の助成機関による投資によってどのような研究成果が生まれたのかを追跡することは,現在は一般的に困難である。研究成果の代表とされる査読論文は通常,メタデータに助成機関名称や助成番号が含まれておらず,また含まれていたとしても名称の記述が標準化されているとは限らないからである。そのため助成機関は自らの投資効果を容易に評価することができない。また出版社にとっては自社の出版物が,研究機関にとっては所属研究者の研究成果が,どのような機関から多く助成を得ているのかを把握できないという状況にある。

 こうした現状を打開するために生まれたのが,研究成果を支えた助成金の情報を収集し,公開する“FundRef”というサービスである。CrossRef(CA1481参照)のリードのもと,出版者と助成機関の協働によって運営される。2012年3月から2013年2月までの試行プロジェクトで開発が行われ,5月に正式開始が発表された。試行プロジェクトには米国物理学協会(AIP)やElsevier社など7つの出版者,米国エネルギー省(DOE)や米国科学財団(NSF)など4つの助成機関が参加している。その成果は2013年3月付けの報告書に詳しい。

 FundRefの基礎となっているのは“FundRef Registry”というデータベースである。これは,世界中の4,000を超える助成機関に対してIDを付与し,その名称・略称などとともに公開する,いわば助成機関の典拠データベースである。Elsevier社のSciVal Fundingを元に,英米やEU諸国などの助成金情報を搭載している。このFundRef Registryが上述した標準化問題に対する解決の糸口となる。

 試行プロジェクトでは,対象が雑誌論文に絞られた。そして,その助成金情報を標準化するのにもっともふさわしいタイミングは論文が投稿されるときであると考えられた。参加出版者は,ベンダの協力を得てオンライン投稿・査読システムをFundRef Registryに対応させ,研究者が論文を投稿する際に助成機関の名称を標準化されたかたちで入力できるようなしくみを整えた(報告書によれば,Thomson Reuters社のScholarOneなど3つのシステムが対応)。なお,試行プロジェクトでは助成番号の入力は任意とされ,そのチェックは複雑になるため行わないことになったという。

 こうして入力された助成金情報はCrossRefに集約され,研究成果に割り振られたDOIと結びつけられる。出版社がFundRefにデータを登録するためにはCrossRefへの参加が必要となる(FundRefのための追加費用は不要)が,そのデータは無料で一般に公開され,利用できるようになっている。例えば,“FundRef Search”というサービスでは,助成機関名称からその助成を受けた研究成果を検索できるようになっており,その他にもAPIや“CrossMark”(データはパブリックドメインを示すCC0ライセンスで公開)といった様々な手段で助成金情報が提供されている。

 AIP会長のディラ(Frederik Dylla)氏も指摘するように,FundRefは,多くの学術出版社の参加しているCrossRefという既存のインフラを活用した実現性が高く費用対効果のよいしくみであり,助成機関を含めたあらゆる関係者が追加コストなしに集約された助成金情報へアクセスできるようになる点が特徴と言える。

 一方で,出版社からどれだけのデータを集められるかが今後のFundRefの最大の課題だろう。現在の参加出版者は試行プロジェクトと同じ7者に留まり,集約されたデータも限定的であるという。報告書の最後でまとめられた推奨指針のなかでも,2013年末までに相当量のデータを集めるのが目標であるとされている。

 こうして走り出したばかりのFundRefであるが,それをめぐって早くも新たな展開が見られる。米国では,2月に大統領府科学技術政策局(OSTP)によって公的助成研究のパブリックアクセスの促進に向けた計画案の策定を求める指令が発表された。それを受け,6月には出版社・学協会陣営が“The Clearinghouse for the Open Research of the United States(CHORUS)”を,大学・図書館陣営が“Shared Access Research Ecosystem (SHARE)”を発表している。両案とも既存のインフラを活用したもので,前者はCrossRefやPortico,後者は機関リポジトリなどをベースとしている。CHORUSにおいては,その屋台骨を支える不可欠なインフラとしてFundRefが組み込まれているのが興味深い。米国における公的助成研究のパブリックアクセスの動向を追う上でもFundRefの存在には注目が必要であろう。

(京都大学人間・環境学研究科総合人間学部図書館・林豊)

Ref:
http://elsevierconnect.com/new-fundref-initiative-makes-rd-investments-more-transparent/
http://www.crossref.org/fundref/
http://www.crossref.org/fundref/FundRef_Pilot_Project_Report.pdf
http://www.crossref.org/crweblog/2013/05/crossrefs_fundref_launches_pub.html
http://www.crossref.org/crweblog/2013/03/crossref_board_of_directors_ap.html
http://japan.elsevier.com/news/newsreleases/20121122.html
http://www.crossref.org/01company/pr/news050212.html
http://info.scival.com/funding
http://www.crossref.org/fundref/FundRef_registry_sep28.pdf
http://www.crossref.org/fundref/fundref_faqs.html
http://help.crossref.org/#fundref
http://search.crossref.org/fundref
http://www.usaco.co.jp/u_news/un2fc220.html#topics
http://scholarlykitchen.sspnet.org/2012/07/25/interview-fred-dylla-executive-director-and-ceo-the-american-institute-of-physics/
http://publishers.org/press/107/
http://scholarlykitchen.sspnet.org/2013/06/04/joining-a-chorus-publishers-offer-the-ostp-a-proactive-modern-and-cost-saving-public-access-solution/
http://www.arl.org/news/arl-news/2773-shared-access-research-ecosystem-proposed-by-aau-aplu-arl
http://www.arl.org/storage/documents/publications/share-proposal-07june13.pdf
http://lj.libraryjournal.com/2013/06/oa/publishers-offer-chorus-as-ostp-solution/
http://lj.libraryjournal.com/2013/06/oa/arl-launches-library-led-solution-to-federal-open-access-requirements/
http://cameronneylon.net/blog/chapter-verse-and-chorus-a-first-pass-critique/
http://works.bepress.com/denise_troll_covey/72/
CA1481