E1447 – 目録カードをアート作品へ

カレントアウェアネス-E

No.240 2013.07.11

 

 E1447

目録カードをアート作品へ

 

 かつて,図書の排架場所を示すカード目録は図書館の中心にあった。インターネットとコンピュータの台頭とともに,カード目録の多くは封印され,地下室や倉庫,あるいはゴミ箱へと追いやられていった。しかし,使われなくなった目録カードを廃棄せず“アート作品”として再生する試みも存在する。

 American Craft Council(ACC)は,米国現代工芸についての理解の促進を目的とする非営利組織である。ACCには独自の研究図書館があり,1990年代後半からオンラインカタログを利用している。最近になり,倉庫から目録カードが発見され,ACCのスタッフはこれらのカードをただ捨ててしまうのはもったいないと感じ,目録カードを使った“アート作品”を製作する “Library Card Project”を開始し,ブログやソーシャルネットワーキングを通じてアーティスト達に呼びかけた。

 ACCのウェブサイトには,このプロジェクトに応じたアーティスト達から寄せられた,目録カードを再利用したアクセサリー,コルセット,ランプシェード等の多くの作品が紹介され,現在も増え続けている。「目録カードのようなアイテムには,ある種の懐かしさがある」,「このような図書館のカードはお金で買うことはできない」,そして「素晴らしい歴史に満ちており,創作者の興味をそそるのだ」と,ACCのスタッフはインタビューで答えている。

 米国のグリーンバーグ公共図書館では“Artists in the Archives : A Collection of Card Catalogs”が開催されている。これは,目録カードや貸出期限票,目録カードケース等の図書館ツールを再生させる3つの作品,Alternet,Book Marks,The Call to Everyoneで構成されている展示会である。

 Alternetは,アーティストであるジョンソン(Carla Rae Johnson)氏が呼びかけ,85名以上のアーティスト,詩人,作家,図書館員等によって作り上げられた共同プロジェクト作品である。300枚のカードを使い,絵,コラージュ,写真,テキスト等を介して物語,抽象概念,政治的メッセージ等を表現している。Book Marksはページ(Barbara Page)氏による不要になった貸出期限票を用いた作品である。絵やゴム製ハンコ等,様々な素材を用いて,貸出期限票を装飾し,かつてその貸出期限票が付けられていた図書を表現している。また,The Call to Everyoneは,写真家ウィルコックス(JoAnne Wilcox)氏の呼びかけにより寄せられた,米国及び12の国の人々が携帯電話で撮った写真を,1000枚以上の目録カードや貸出期限票に印刷した作品である。

 “Artists in the Archives”は,懐かしさを呼び起こすだけでなく,好奇心と,偶然性の大切さを呼び起こす展示会である。作品のほとんどは,古い目録カードケースの中に収められているため,作品を見るには引き出しの中のカードを1枚1枚繰る必要がある。ウィルコックス氏は,「人々にあちこち見て回り,予想しなかったものに巡り合ってほしい」と語っている。

 目録カードを使って新しい作品を生み出すのではなく,カードそのものを作品とするプロジェクトも存在する。米国のグリーンフィールド・コミュニティカレッジのナーマン・ワトソン図書館(GCC図書館)では,1999年に蔵書目録が電子版へと移行した。同図書館の司書であるシュナイダー(Hope Schneider)氏は,目録カードを記念として残したいと考え,カード展示のプロジェクトを思いついた。シュナイダー氏は小説家やアーティスト,詩人,政治家に,彼らの著作物の目録カードを送り,直筆での署名を求め,展示への協力を依頼した。

 著者からの返事は徐々に返ってきた。ただ署名だけされて返ってくるカードもあれば,メッセージが添えられて返ってくるカードもあった。『はらぺこあおむし』で知られる絵本作家,カール(Eric Carle)氏は,カードにイラストを添えて送り返してきた。また,シュナイダー氏が大好きな詩人の一人,コリンズ(Billy Collins)氏がカードに詩を添えて返してきた時,シュナイダー氏は大いに喜んだという。

 依頼の全てが快く承諾されるわけではない。時には断られることもある。作家であるベリー(Wendell Berry)氏は,次のような理由で署名を断った。「私はいかなる方法であったとしても,カード目録廃止への協力を拒否する。カード目録の廃止は誤りだ。損失だ。悲しみだ。」

 GCC図書館長であるコーン(Deborah Chown)氏は,シュナイダー氏のプロジェクトについて,単に別の本の隣に排架されていたり,似通った主題に分類されていたために,人々が新しい本と偶然に出会えていたカード目録の時代を記憶にとどめるものだとしている。

 現在,128枚の目録カードが,そのカードが示す図書の著者たちの署名を添えられ,GCC図書館の壁に飾られている。GCC図書館のライブラリアンは,「カード目録は本当に失われることはない,ただ形を変えるだけだ」と述べている。彼らは,このカード展示が,GCC図書館で人々が未知の世界への入り口を探すきっかけになればよいと考えている。

(関西館図書館協力課・安原通代)

Ref:
http://www.libraryasincubatorproject.org/?p=9761
http://www.craftcouncil.org/tags/library-card-project
http://www.craftcouncil.org/post/library-card-project-merle-slyhoff
http://www.craftcouncil.org/post/library-card-project-vanessa-walilko
http://www.craftcouncil.org/post/library-card-project-grover-sterling
http://www.greenburghlibrary.org/exhibit.php
http://www.nytimes.com/2013/05/19/nyregion/artists-in-the-archives-at-greenburgh-public-library-in-elmsford.html?_r=1&
https://www.facebook.com/media/set/?set=a.498956713481235.111402.408520412524866&type=1
http://www.thecalltoeveryone.com/
http://www.aikenstandard.com/article/20130608/AIK0106/130609517/1013/greenfield-librarian-turns-catalog-cards-into-art