E1433 – MOOCについて図書館員が知るべきことは?<文献紹介>

カレントアウェアネス-E

No.237 2013.05.23

 

 E1433

MOOCについて図書館員が知るべきことは?<文献紹介>

 

Wright, Forrest. What Do Librarians Need to Know About MOOCs?. D-Lib Magazine, 2013, 19(3/4).

 2012年に世界の高等教育機関で急速に注目を集め,今なお発展し続けているMOOC(Massive Open Online Course)。大規模な無料オンライン講義の総称である。オンライン教育自体は新しいものではないが,教える側には今までにないほど多数の受講生に講義を提供できる点,学生には時間的に柔軟な受講形式や無料で一流大学の教員による授業を受けられる点が魅力となり,MOOCは拡大している。高騰し続ける従来型の大学教育コストと,新たなオンライン・インターフェースの登場もその背景にある。

 この新たな講義形態は大学図書館界でも関心を集めている。例えば2013年3月にはOCLC主催によりMOOCと図書館の関わりをテーマにイベントが行われ,著作権・ライセンシング・オープンアクセス,MOOCコース制作への大学図書館の関わりや教授法,受講者層,といったテーマが具体的な経験を踏まえながら議論された。

 ここでは,“D-Lib Magazine”2013年3-4月号に掲載された「MOOCについて図書館員が知るべきこと」という,トムソン・ロイター社のプロジェクト・スペシャリストであるライト(Forrest Wright)氏による記事を紹介する。 記事では,MOOCの概要をまとめた上で,図書館サービスをMOOCに取り入れる際の課題を指摘し,今後の指針を提案している。

 記事では,まず主なMOOCプロバイダーであるEdX,Udacity,Courseraの特徴を,運営団体,科目(コンピューターサイエンスや統計学といった“ハード”サイエンスのみ,人文/社会科学も含む等),コース修了期限/修了証/成績評価の有無,指定/参考文献の有無(教科書が必要か否か,オープンアクセスの文献へのリンク提供等)といった観点からまとめている。

 今後の焦点である大学による単位認定はまだ検討段階だが,MOOCが従来型の講義に置き換わり,キャンパスでの時間が主にディスカッション等に使われる,いわゆる「反転授業」と呼ばれる学習アプローチの構想や,大学側が高校生のMOOCでの成績を入学許可候補者の選考に利用するようになるのではないかという予測など,今後MOOCが大学のカリキュラムやシステムに徐々に組み込まれる可能性があるとしている。そのため図書館員としても,こうした今後の動向にも注視すべきであると指摘している。

 次に図書館はどのようにMOOCと関わるべきかが論じられる。記事では,各地の高等教育連盟や米国大学・研究図書館協会(ACRL)遠隔教育セクションが,MOOC登場以前から遠隔教育コース受講生に対する図書館サービス/学術リソースへのアクセス提供の義務を明言するポリシーを発表していることに触れ,これらが図書館がMOOCへ取り組む際の基盤となるであろうとしている。そして,従来のオンラインコース向けの図書館サービスの手法をMOOCに取り入れる際に問題となるポイントを2点挙げている。

(1)膨大な登録者数
 登録者数制限のある従来型のオンラインコースではエンベディッド・ライブラリアン(CA1751参照)のアプローチが一定の成功を収めてきたが,膨大な数の登録者がいるMOOCではこうした取り組みは困難である。

(2)MOOCが第三者企業により運営されていることに伴う,技術上,所有権上の問題
 MOOCが第三者企業によって運営されているために,従来のオンラインコース向けに作られた教育コンテンツを,MOOCに合わせて調整する必要がある。そのため,図書館員が作成したレッスンプランや“Ask a Librarian”の機能等も,従来のオンラインコースだけでなくMOOCプラットフォームにも合わせるという二重の作業が発生する。

 以上を踏まえ,図書館がMOOCに関わる際の現実的な選択肢として,まずは小規模な取り組みから始め,その後必要に応じて拡大することを提案している。具体的には,(1)高等教育において学生が学術リソースから学ぶことの重要性をMOOC担当教員に伝え,学生に利用可能な学術リソースの存在の認知を促す,(2)図書館のウェブサイトにあるリサーチガイド等のリンクを教員に提供する,などである。(2)のリサーチガイドとしては,商用データベースへのリンクを含まず誰もがアクセスできる,米国図書館協会(ALA)等のリサーチガイドも選択肢に入るだろうとしている。

  遠隔教育,特にMOOCでは,学術リソースの選択とアクセスを図書館よりも教員に依存している。MOOCに象徴される,物理的キャンパスから学習プロセスを引き離す流れから図書館が取り残されず,新しい任務を担う機会にするには,図書館員は新たな課題を認識し,アプローチを模索し,そして準備しておく必要性があると記事は結ばれている。図書館の重要な役割の1つである情報リテラシー教育を中心に,図書館がMOOCに関わる上での選択肢を提案するこの記事は参考となろう。

(OCLCカナダ・石橋恵)

Ref:
http://www.dlib.org/dlib/march13/wright/03wright.html
http://www.oclc.org/research/events/2013/03-18.html
http://www.oclc.org/research/news/2013/04-19.html
http://www.ala.org/CFApps/Primo/public/search1.cfm
CA1751