E1372 – 人文・社会科学系研究者のオープンアクセスに対する意識とは

カレントアウェアネス-E

No.228 2012.12.13

 

 E1372

人文・社会科学系研究者のオープンアクセスに対する意識とは

 

 人文・社会科学分野の単行書のオープンアクセス(OA)を推進する欧州のコンソーシアムOAPEN(E1038参照)の英国における研究プロジェクトOAPEN-UKが,当該分野の研究者の意識調査の結果を公表している。研究者に対して,OA出版,クリエイティブ・コモンズ(CC)ライセンスの認知度,出版社から受けるサービスに対する意識,自費出版等をテーマに質問が行われた。そこからは,OAを知ってはいるものの,OAで研究成果を発信することに対しては慎重な研究者の姿が透けて見える。

 調査は2012年3月から5月にかけてインターネット上で実施された。894件の回答が寄せられ,そのうち有効回答数は690件であった。回答者の82.3%が英国在住,人文学系と社会科学系の比率は約6対4であった。年齢層は,30代から60代以上までほぼ偏りなく分布している。ただし,回答者にはそもそもOAに関心のある人が多いと予想されることから,調査結果の偏りには留意する必要があること等が調査結果の冒頭で指摘されている。以下,結果の一部を紹介する。

  • OAについて知っていると回答したのは53.8%,よく知っていると回答したのは38.7%であった。
  • OA出版が利益を出すことの是非については,52.5%の回答者が,その利益が自身の研究分野に還元されたり,これまで以上にOAコンテンツが利用できたりするようになるのであれば問題ないと回答した。また,19%の回答者が利益を好きなように利用してよいと考え,別の20%は出版コストの回収に限ってOA出版が利益を出すのは構わないと回答した。
  • CCを知っていると答えたのは回答者の58.1%であった。
  • 回答者の78.8%が最も厳格なCCライセンスである「表示-非営利-改変禁止(CC BY-NC-ND)」を希望した。また,「表示-改変禁止(CC BY-ND)」のライセンスで商業利用を許諾するよりも自身の著作物を守ることに関心のある研究者は,二次利用を認める「表示-非営利-継承(CC BY-NC)」を希望するケースが多かった。
  • 研究者は,出版社による販売網とマーケティングサービス,そして何より印刷媒体での刊行に最も価値を置いており,著作物の保存や引用分析等といった刊行後のサービスはあまり重視していない。これと関連して,著者としての研究者は頒布とマーケティングを行う意識は低く,著者が出版社に望むことがここに如実に表れている。
  • 若手研究者は,“中堅”や“大御所”の研究者に比べ,自費出版を考える人が多い。
  • 2000年以降に「単著」「共著」「論文集の1章」のいずれかを執筆したことのある回答者397人のうち,45.6%が大学の助成金で刊行したと回答した。22.7%が研究団体の助成金,19.6%がその他助成金だった。ここから,人文・社会科学系研究者にとって,投稿料モデルによるOA(ゴールドOA)であれば,助成金を利用できるかどうかが極めて重要ということが分かる。
  • 上の項目の397人に対し,直近に刊行した研究成果の出版元を選んだ理由を質問したところ,1位が適切な読者層への広報活動が良かったこと,2位は質的保証に対する信頼性,3位はその研究分野でベストな出版社だったこと,4位が興味を持ってくれた最初の出版社だったことというものだった。
  • 全回答者の690人のうち60.3%は,アンケート調査の数日前に専門書を読んだと回答した。そのうち,35.2%がその資料を購入し,33.9%が図書館から借りたと回答した。
  • 博士課程の学生は,ポストドクターや大学所属の研究者と比べて,図書館から専門書を借りる割合が高かった。
  • 印刷図書は依然として好まれる傾向にあるが,若手研究者の方がその割合は低かった。
  • 回答者は,研究の質と評判や価値の観点でOAに対してはあまり高い評価を与えてはいないが,利便性と効率の面では極めて重要なものであるという 印象を持っていた。一方で印税については誰も気にしてはいなかった。

(関西館図書館協力課・菊池信彦)

Ref:
http://oapen-uk.jiscebooks.org/news/
http://oapen-uk.jiscebooks.org/research-findings/researchersurvey/
E1038